曾根純三

曾根純三：映画界を彩った職人監督の足跡

曾根純三（そね じゅんぞう、1898年9月13日 - 没年不詳）は、日本の映画監督、脚本家として、大正から昭和にかけて映画界で活躍しました。本名を曾根為一（そね ためいち）といい、椎名良太（しいな りょうた）名義で脚本を執筆、のちに監督名を曾根千晴（そね ちはる）と改名しています。戦前の日本映画界において、「職人監督」として数多くの作品を手がけました。

生い立ちと初期のキャリア

1898年（明治31年）9月13日、曾根純三は大阪市東区（現在の中央区北部・東部）に生まれました。香川県出身という説もありますが、本人はこれを否定しています。旧制大阪府立天王寺中学校（現在の大阪府立天王寺高等学校）を卒業後、神戸のパルモア英学院（現在のパルモア学院専門学校）を中退。その後、証券会社勤務、警察官を経て、劇団の脚本部に所属していました。そこで、撮影技師の三木茂、杉山公平と知り合ったことがきっかけで、西宮市甲陽園にあった東亜キネマ甲陽撮影所の脚本部に入社することになります。

脚本家デビューから監督へ

25歳の時、「曾根純三」名義で、1924年（大正13年）7月31日公開の本山裕児監督作品『熱血の洗礼』で脚本家としてデビューを果たしました。同作は杉山公平が撮影を担当し、のちにスター子役となる松尾文人の本格的なデビュー作でもありました。同年には、井上金太郎監督の『地獄の虫』や、3本の短編オムニバス映画、本山監督の『血は踊る』の脚本も手がけ、立て続けに公開されています。当時、東亜キネマの甲陽・等持院の両撮影所長であった牧野省三が「マキノ青司」名義で総指揮・監督を務めた1925年（大正14年）の正月映画『国定忠治』では、馬場春宵との共同で脚本を執筆する栄誉に浴しました。この作品は、新国劇最大のヒットナンバーであり、行友李風の原作、沢田正二郎の主演による決定版として知られています。

翌1925年2月25日には、オリジナル脚本を手がけた松尾文人の初主演作『おもちゃ屋の小僧』が公開され、26歳にして映画監督としてデビュー。甲陽撮影所で3本の監督作品を制作した後、阪田重則監督の『大地は微笑む』前・後篇、山本嘉次郎監督の『爆弾児』の脚本を執筆。同年6月には、牧野省三が東亜キネマから独立して設立したマキノ・プロダクション御室撮影所へ移籍しました。移籍第一作は、同じく移籍してきた松尾文人が主演を務めた『寺小屋騒動』であり、同年中に公開されています。監督デビューの年に、すでに5本の作品を監督するという多作ぶりでした。

マキノ・プロダクションでの活躍

1926年（大正15年）には、曾根純三がオリジナル脚本を手がけた清川清主演作『黒白双紙』が公開され、この年だけで12本もの監督作品が公開されました。翌年2月公開の『豆本太閤記』以降は、松尾文人の主演作を6本連続で監督。同年3月公開の『小剣豪』からは、原作クレジットに「椎名良太」名義を使用し始めました。柳妻麗三郎が「チャップリンに似た男」を演じた『活動狂時代』は、チャールズ・チャップリンの『キッド』（1921年）から影響を受けた作品として知られています。

1927年（昭和2年）4月には、嵐長三郎（のちの嵐寛寿郎）がマキノ・プロダクションに入社。嵐の入社第一作であり、映画デビュー作でもある『鞍馬天狗異聞 角兵衛獅子』の監督に曾根純三が抜擢されました。脚本は曾根自身ではなく山上伊太郎が担当しましたが、同作は大ヒットを記録。『鞍馬天狗』は嵐寛寿郎の当たり役となり、初代「杉作」役を演じた松尾文人の人気もさらに爆発しました。

河合映画、帝キネ、新興キネマ時代

1928年（昭和3年）、マキノ・プロダクションが「マキノ青年派」五人組を売り出そうとした際、曾根純三は『神州天馬侠』全4篇の監督を任されますが、前半の2篇を撮り終えたところで、東京の河合映画製作社へ引き抜かれます。俳優の杉狂児や鈴木澄子、松尾文人も同行し、助監督の鈴木桃作も河合映画へ移籍しました。

河合映画では、早撮りの腕を磨いたと言われています。ここでは、主に三村伸太郎と組み、『東海道膝栗毛 第一篇 地獄から這上った弥次喜多』や『新版東海道膝栗毛 第二篇 化かされた弥次喜多』などを制作しました。また、弟子の鈴木桃作もすぐに監督に昇進し、三村伸太郎や八尋不二の脚本で作品を制作。曾根純三自身も、八尋不二のオリジナル脚本による『股から覗いた国定忠次 山形屋藤蔵』（1929年）などを監督しました。河合映画で合計25本の作品を制作した後、1929年（昭和4年）いっぱいで河合映画を退社し、帝国キネマ（帝キネ）へ移籍しました。

帝国キネマでは、1930年（昭和5年）からの約2年間で15本の作品を監督。移籍第一作は、佐々木邦原作の『次男坊』で、杉狂児が主演を務めました。同年8月には、『太陽児』で「椎名良太」名義のオリジナル脚本が復活。1931年（昭和6年）には、加藤武雄原作の『春遠からず』、広津和郎原作の『女給』、杉狂児・小宮一晃主演の『弥次喜多道中東海道』などを監督。その後、帝国キネマは新興キネマへと改組され、曾根純三はそのまま残留しました。

新興キネマでの第一作となった菊池幽芳原作の『毒草』（1931年）は、かつて1917年（大正6年）に各社競作となった作品のリメイクでした。1933年（昭和8年）には、かつて「マキノ青年派」の一人として売り出されたマキノ梅太郎が主演した『ひよどり草紙』のリメイクを尾上菊太郎主演で制作。1934年（昭和9年）夏には、「曽根千晴」と改名し、竹田敏彦原作の『東郷盃』からその名義がクレジットされるようになりました。1935年（昭和10年）の『国を護る日蓮』以降はトーキー作品を手がけ、1941年（昭和16年）まで同社で量産体制に入りますが、佐藤紅緑原作の『あの山越えて』を最後に突然退社。43歳で映画界から引退することとなりました。

第二次世界大戦中は、近衛十四郎と劇団を組んで巡業していた時期もあったようです。

戦後と晩年

戦後、1952年（昭和27年）には、京都の新京極にあった寄席「富貴」を経営しましたが、2年ほどで手放しました。1954年（昭和29年）には、若杉光夫監督の山田五十鈴主演作『唐人お吉』を製作しましたが、興行的に失敗し、借財を抱えることになったと言われています。

その後、1970年代までは健在だったようですが、没年は不詳です。

曾根純三は、その多岐にわたるフィルモグラフィーからもわかるように、多才な映画監督であり、脚本家でした。戦前の日本映画界において、様々なジャンルの作品を手がけ、映画史にその名を刻んでいます。

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