杉狂児

杉狂児：喜劇役者として、そして歌声で人々を魅了した生涯

杉狂児（すぎ きょうじ、1903年7月8日 - 1975年9月1日）は、戦前から戦後にかけて日本の映画界を彩った稀代の喜劇俳優であり、歌手でした。本名は杉禎輔、旧芸名は杉京二。福岡県福岡市に生まれ、東京音楽学校で声楽を学ぶも中退。その後、松旭斎天勝一座を経て、1924年にマキノ映画製作所に入社し、映画界へ足を踏み入れました。

マキノプロダクションから日活へ：コメディアンとしての才能が開花

東亜キネマを経て、マキノ・プロダクションに入社した杉狂児は、大柄な俳優、中根龍太郎との絶妙なコンビネーションでコメディアンとして頭角を現します。『糸の切れた風船玉』などの作品で人気を博し、その後も井上金太郎監督や小石栄一監督といった巨匠の作品に主演。独特の喜劇センスと存在感で観客を魅了しました。

1928年には河合映画を経て帝国キネマ、新興キネマへと活躍の場を移し、高津慶子や森静子といった当時のスター女優と共演したメロドラマにも出演。多様な役柄に挑戦することで、俳優としての幅を広げていきました。

1932年に日活太秦撮影所に入社すると、まもなく新設の多摩川撮影所へ移り、『夫を想へば』で主演を務めます。その後、星玲子とのコンビで数々の作品に出演。コメディだけでなく、メロドラマでも高い演技力を発揮し、人気を不動のものにしていきました。

歌手としても大成功：主題歌がヒットを連発

杉狂児は俳優としての活躍にとどまらず、歌手としても大きな成功を収めます。1935年公開の『のぞかれた花嫁』の主題歌を始め、映画主題歌を数多く歌い、その歌声は多くの聴衆の心を掴みました。特に、「うちの女房にゃ髭がある」や「道行シャンソン」といった楽曲は、美ち奴とのデュエットで大きなヒットとなり、彼の歌手としての地位を確固たるものにしました。

戦時中と戦後：時代劇への出演と宝映テレビプロダクション設立

太平洋戦争中は、杉狂児一座を結成して慰問活動に勤しみました。戦後、映画界に復帰し、1947年に東横映画に入社。東横映画が東映と合併後は、東映時代劇に数多く出演し、とぼけた家老役などでコミカルな演技を披露しました。

一方で、宝映テレビプロダクションを設立し、社長として後進の育成にも力を注ぎました。劇団フジの育成を通して、数多くの才能を世に送り出したことは、彼の大きな功績の一つといえます。晩年には懐メロブームに乗って、懐メロ番組にも出演し、変わらぬ歌声を聴衆に届けていました。

稲垣浩との深い繋がりと人柄

映画監督の稲垣浩は、杉狂児を「日本の映画史に残さねばならぬ喜劇役者」と高く評価しており、その人となりについても多くの証言を残しています。稲垣は杉狂児を「酒席で酔いしれてワケのわからぬ冗談や、手品や、歌を歌っていた」としながらも、「人の世話をする杉君ははとてもよかった」と、その人柄を深く賞賛していました。

環歌子の付き人を務めた経験を持つ杉狂児は、稲垣浩に環歌子の起用を提案するなど、周囲を気遣う優しい一面も持ち合わせていました。晩年は劇団フジの社長となり、稲垣浩とも個人的な付き合いをするようになったというエピソードも、彼の温かい人柄を表しています。

1975年9月1日、心筋梗塞のため72歳で死去。彼の残した数多くの作品と、人々を惹きつけた歌声、そして温かい人柄は、今も多くの人々の記憶に生き続けています。杉狂児という名は、日本の映画史、そして音楽史に刻まれた、かけがえのない存在として、これからも語り継がれていくことでしょう。

出演作品（抜粋）

映画：『血は踊る』『踊れ若者』『のぞかれた花嫁』『ジャズ忠臣蔵』『無法松の一生』『粋な風来坊』、東映時代劇多数

テレビドラマ：『素浪人 月影兵庫』『三匹の侍』『特別機動捜査隊』など多数

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