滋野貞主

滋野貞主（しげの の さだぬし）

滋野貞主は、平安時代初期に活躍した公卿であり、その生涯は多岐にわたる功績で彩られています。尾張守・滋野家訳の次男として生まれた彼は、文章生としての才能を早くから開花させ、朝廷内で重要な役割を担いました。姓は宿禰から朝臣へと改め、官位は正四位下・参議にまで昇りつめました。

経歴

貞主の官歴は、平城朝の大同2年（807年）に文章生に及第したことから始まります。その後、嵯峨朝において少内記、大内記を歴任し、その文才を認められました。勅撰漢詩集『凌雲集』に2首が採録されただけでなく、『文華秀麗集』の編纂にも参画するなど、詩人としての才能も開花させました。

弘仁11年（820年）には外従五位下・兼因幡介、翌年には従五位下・図書頭に叙任され、着実に昇進を重ねます。淳和朝に入ると、皇太子・正良親王（後の仁明天皇）の東宮学士に任ぜられ、父と共に朝臣姓に改姓しました。天長6年（829年）には従五位上に昇叙し、漢詩集『経国集』の編纂では主選者を務めました。さらに、天長8年（831年）には日本最古の百科事典である『秘府略』の撰集を主導し、その学識の深さを示しました。

仁明天皇の即位に伴い、正五位上に叙せられ、その後も従四位下、従四位上へと順調に昇進しました。この間、内蔵頭、宮内大輔、兵部大輔、弾正大弼、大蔵卿といった重要な役職を歴任し、下総守、相模守、大和守、讃岐守といった地方官も兼任しました。承和9年（842年）には参議兼式部大輔に任ぜられ、公卿の仲間入りを果たします。貞主は、承和11年（844年）に私邸を寺として慈恩寺を建立し、西寺の別院としました。この寺は、貞主の慈悲深い性格を反映し、人々から慕われる場所となりました。

嘉祥2年（849年）には、尾張守を兼任しますが、この頃、大宰府の官人の能力低下を憂い、朝廷に改革を求める上表を行いました。その中で、大宰府が西国の要衝であり、外交上も重要な役割を担っているにもかかわらず、官人の腐敗が進んでいる現状を指摘しました。

嘉祥3年（850年）には正四位下に叙せられ、相模守を兼ねました。仁寿2年（852年）に口吻の病で亡くなり、その死は多くの人々から惜しまれました。最終官位は参議正四位下行宮内卿兼相模守でした。

人物

貞主は、身長が6尺2寸（約188cm）という長身で、度量が大きく、情け深い性格であったと伝えられています。人を傷つけないように気を配り、他人の能力を見抜き、引き立てることに長けていました。この人間性は、彼の娘たちにも受け継がれました。長女の縄子は仁明天皇の女御となり、3人の皇子女を産み、次女の奥子は文徳天皇の寵愛を受け、同じく3人の皇子女をもうけました。貞主の家は、外戚として繁栄し、その人柄は世間から高く評価されました。

官歴

大同2年（807年）：文章生
弘仁2年（811年）：少内記
弘仁6年（815年）：大内記
弘仁11年（820年）：外従五位下、因幡介
弘仁12年（821年）：従五位下、図書頭
弘仁14年（823年）：東宮学士、宿禰姓から朝臣姓に改姓
天長6年（829年）：従五位上
天長10年（833年）：正五位上、内蔵頭、宮内大輔
承和元年（834年）：従四位下、相模守
承和2年（835年）：兵部大輔
承和5年（838年）：弾正大弼
承和6年（839年）：従四位上、大和守
承和7年（840年）：大蔵卿
承和8年（841年）：讃岐守
承和9年（842年）：参議、式部大輔
嘉祥2年（849年）：尾張守、宮内卿
嘉祥3年（850年）：正四位下、相模守
仁寿2年（852年）：卒去（参議正四位下行宮内卿兼相模守）

系譜

父：滋野家訳
母：紀氏
生母不明の子女
男子：滋野善蔭？
男子：滋野善法？
男子：滋野善根？
長女：滋野縄子 - 仁明天皇女御
女子：滋野奥子 - 文徳天皇宮人
女子：滋野直子？ - 光孝天皇更衣
女子：藤原吉備雄室？

まとめ

滋野貞主は、平安時代初期の朝廷において、文才、行政手腕、そして人間性において優れた人物でした。その功績は、漢詩集の編纂や百科事典の撰集に留まらず、公卿としての活躍や、娘たちが天皇の寵愛を受けたことからも窺い知ることができます。彼の生涯は、多くの人々に影響を与え、後世に語り継がれるべきものです。

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