本手

囲碁における「本手（ほんて）」とは、一局の流れを左右する重要な用語の一つです。それは、目先の利益にとらわれず、碁盤全体を見渡し、将来を見据えた、価値の高い着手を意味します。一見すると地味で、すぐに効果を発揮するようには見えないかもしれませんが、後々までその価値を失わず、盤面全体に影響を与える手を指します。しばしば「厚い手」という言葉で表現されるニュアンスに近いものがあります。

対照的に、その場しのぎの、急場をしのぐためだけの着手を「ウソ手」と呼びます。ウソ手は、一時的には良く見えるかもしれませんが、後々になって禍根を残すことがあります。本手とウソ手の違いを理解することは、囲碁上達への重要な鍵となります。

本手を重視する棋士は、一般的に、じっくりと構え、追い込みをかけるタイプが多く、本格派と呼ばれることが多いです。代表的な棋士としては、藤沢秀行、大竹英雄、高尾紳路などが挙げられます。彼らは、盤面の形勢を総合的に判断し、最善の一手を着実に打ち続けることで、勝利をつかみ取ります。ただし、本手を重視するあまり、布石が遅れるという欠点も存在します。一方で、要点を素早く捉え、リードを保ったまま逃げ切るスタイルの棋士もいます。

本手の具体的な例

星の定石

星の定石における本手の例を見てみましょう。黒1と、後手であっても一手入れておくことが本手とされています。この手を怠ると、白にaのオサエコミやbのトビなどの手が残り、黒△の動きを封じられてしまいます。

小目定石

小目定石における本手の例を見てみましょう。以前は、黒1とアテ、白2とツガせて先手を取ることが一般的でした。しかし、この形はシチョウ関係によってaのキリが残る可能性があり、隅の味を損ねているという問題点がありました。


そこで、最近では、後手であっても黒1とサガる手が打たれるようになりました。この形ならば、aのキリはシチョウに関係なく取れるようになり（ユルミシチョウの項目を参照）、また、bから左辺方面への白の進出を食い止めたり、cのツケから隅を大きくヨセる手などが残っています。そのため、現在では、他に急ぐ場所がない限り、黒1のサガリが本手と見なされています。

本手の重要性

本手を打つことは、単にその場面での最善手を打つということだけではありません。将来の展開を見据え、盤面全体を考慮した上で、最も効果的な手を選ぶということです。本手を打つことで、相手にプレッシャーをかけ、有利な状況を作り出すことができます。また、一度打った手が、後々まで効いてくるため、終盤になるにつれて大きな差が生まれることもあります。

本手を理解し、実践することは、囲碁上達への道において不可欠です。常に盤面全体を把握し、将来の展開を予測しながら、一局全体を通して効果的な手を打つことを意識することが重要です。本手を打つことで、より深い囲碁の魅力を発見し、より高みを目指すことができるでしょう。

参考書籍

大竹英雄『本手指南（囲碁最強塾）』河出書房新社

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