松平乗全

松平乗全

松平乗全（まつだいら のりやす）は、江戸時代後期に活躍した大名で、三河国西尾藩の第4代藩主です。大給松平家の14代当主でもあり、幕府では老中として重要な役割を果たしました。彼の生涯は、激動の幕末期における政治と文化の両面での活動によって特徴づけられます。

生涯

生い立ちと家督相続

寛政6年（1794年）、松平乗全は西尾藩の第3代藩主・松平乗寛の長男として誕生しました。母は阿部正倫の娘であり、弟には越後長岡藩に養子入りし老中を務めた牧野忠恭がいます。また、同じく老中を務めた阿部正弘は母方の従弟、日本赤十字社創設者の一人である松平乗謨（後の大給恒）は外孫にあたるという、幕府の要職を担う一族と深い繋がりがありました。

天保10年（1839年）に父の隠居に伴い家督を相続し、西尾藩主となりました。

幕府での活躍

幕府では寺社奉行、大坂城代を経て、弘化2年（1845年）に老中に就任しました。老中として、松平忠優（後の忠固）と連携し、対外問題では開国・和親を主張、将軍継嗣問題では南紀派に与して紀州藩の徳川慶福（後の家茂）を推しました。しかし、海防参与の水戸藩主徳川斉昭と対立し、安政2年（1855年）には斉昭に譲歩した阿部正弘の命令で、忠優と共に老中を罷免され、一時的に政権の中枢から外れることになります。

その後、阿部正弘の死後に老中首座となった堀田正睦によって名誉を回復し、帝鑑間席から溜詰格に栄転しました。さらに、安政5年（1858年）には大老井伊直弼の推挙により老中に再任を果たします。しかし、井伊直弼が桜田門外の変で暗殺された後は、政治的な影響力を失い、万延元年（1860年）に老中を辞任しました。文久2年（1862年）には1万石の減封と隠居を命じられ、家督は末弟の乗秩が養子として継ぎました。

晩年

隠居後、幕府は倒壊し、乗秩の死後、末子の乗承が大給松平家の家督を相続しました。乗全は明治3年（1870年）に76歳で亡くなり、その墓は愛知県西尾市の盛巌寺にあります。

立山曼荼羅

松平乗全は、政治家としての活動の傍ら、文化的な活動にも関心を持っていました。富山県立の立山博物館に展示されている立山曼荼羅『宝泉坊本』は、乗全が安政5年（1858年）に制作したものです。彼は既存の立山曼荼羅を参考にしながら、自ら筆を執り、この曼荼羅を描き上げました。

この曼荼羅の表装には、松平乗全が以前に徳川家茂から拝領した衣類が使用されています。この際、徳川慶喜の許可を得ており、完成した曼荼羅は江戸城内で諸大名やその奥方などに披露されました。その後、師檀関係を結んでいた宝泉坊に寄進されました。

曼荼羅には、「源乗全書」という墨書銘と落款があり、裏書きには「立山縁起四幅自模写 以寄附 越州立山寳泉坊・西尾拾遺源乗全 安政五年戊午十二月」と記されています。これは、乗全が自ら模写し、宝泉坊に寄進したことを示しています。

年表

寛政6年（1794年）：誕生
天保10年（1839年）：西尾藩襲封
天保14年（1843年）：寺社奉行
天保15年（1844年）：大坂城代
弘化2年（1845年）：老中
安政2年（1855年）：老中を免職
安政4年（1857年）：帝鑑間席より溜詰格に栄転
安政5年（1858年）：老中再任
安政6年（1859年）：間部詮勝免職に伴い老中首座を担当
万延元年（1860年）：老中辞任
文久2年（1862年）：1万石減封のうえ、隠居
明治3年（1870年）：死去

系譜

父：松平乗寛
母：阿部正倫の娘
正室：松平忠宝の娘
子女：
松平乗昭（長男）
松平乗梏（次男）
松平乗氏（三男）
松平乗懿（四男）
松平乗承（五男）
松平宗秀正室
松平乗利正室
松平親良正室
松平近説正室
養子：松平乗秩（実弟）


松平乗全は、幕末の激動期において、政治と文化の両面で重要な役割を果たした人物です。彼の生涯は、時代の転換期における大名の生き様を示すものとして、歴史的に重要な意義を持っています。

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