松田修

近世文化の深淵を照射した国文学者：松田修の生涯と業績

松田修（1927年10月1日 - 2004年2月6日）は、近世文学を専門とする日本を代表する国文学者であり、文芸評論家として知られています。国文学研究資料館名誉教授の肩書きを持ち、近世文学、とりわけその隠された側面に鋭い視線を注ぎ込みました。

京都大学卒業後、同大学院で研鑽を積み、福岡女子大学助教授などを経て、国文学研究資料館教授、法政大学教授として教鞭を執りました。彼の研究は、井原西鶴の作品研究から始まりましたが、その興味は近世文学の枠を超え、芸能史や民俗学にも及んでいきます。

松田修の研究、評論の特徴は、近世文化の華やかな表層だけでなく、その陰の部分、闇の部分にまで光を当てた点にあります。当時の社会構造や人間の心理、道徳観といった多角的な視点から、近世社会の複雑さを解き明かしていきました。鋭い分析力と、時に大胆な解釈によって、近世文学、ひいては近世文化全体の新たな理解へと導いたのです。

その独自の視点は、同時代の評論家である広末保らにも大きな影響を与え、近世文化研究に新たな地平を切り開きました。単に過去の文化を解明するだけでなく、現代社会を読み解くための鍵を提供するという意味でも、彼の研究は高く評価されています。また、映画にも造詣が深く、映画論に関する著作も残しており、多様な分野にわたる知的好奇心と、鋭い洞察力を持っていたことがわかります。

松田修は、数多くの著作を発表しました。代表的な著書としては、『日本近世文学の成立 異端の系譜』、『刺青・性・死 逆光の日本美』、『闇のユートピア』、『蔭の文化史』などがあります。これらの著作は、いずれも近世文化の多様な側面を、独自の視点で深く掘り下げたものであり、現在でも高く評価され、研究者や学生たちに読み継がれています。さらに、彼が編著、校注に関わった古典作品も多く存在し、日本の古典文学研究に多大な貢献を果たしました。

晩年は、『松田修著作集』全8巻を刊行。その著作活動は、彼の一貫した研究姿勢と、日本の近世文化への深い愛情を改めて示すものとなりました。2004年2月6日、76歳で永眠しました。

彼の没後も、松田修の研究は、多くの研究者や学生たちに影響を与え続けています。近世文学研究のみならず、文化史、芸能史、民俗学、さらには映画論といった幅広い分野にわたる多角的な視点は、今日の私たちにとっても、依然として重要な示唆を与えてくれるものです。

主な著書

『日本近世文学の成立 異端の系譜』（法政大学出版局、1963年）
『靠身文書　歌集』（でん書房、1966年）
『装飾古墳　歌集』（私家版、1967年）
『刺青・性・死 逆光の日本美』（平凡社、1972年）
『日本の旅人10 十返舎一九　東海道中膝栗毛』（淡交社、1973年）
『日本芸能史論考』（法政大学出版局、1974年）
『闇のユートピア』（新潮社、1975年）
『蔭の文化史』（集英社、1976年）
『映像の無頼たち 映画論集』（劇書房、1977年）
『日本逃亡幻譚 補陀落世界への旅』（朝日新聞社、1978年）
『非在への架橋 文芸評論集』（講談社、1978年）
『闇をうつす映画館 松田修の銀幕評論』（ブロンズ社、1979年）
『日本芸文の光と闇 対談集』（第三文明社、1980年）
『日本の異端文学』（講談社、1980年）
『「方丈記」を読む』馬場あき子 （講談社、1980年／のち講談社学術文庫）
『複眼の視座 日本近世史の虚と実』（角川選書、1981年）
『闇のユートピア』（新版）（白水社、1982年）
『日本刺青論』（青弓社、1989年）
『日本的聖性の機械学』（思潮社、1989年）
『江戸異端文学ノート』（青土社、1993年）
『異形者の力』（青玄社、1994年）
『松田修著作集』全8巻 （右文書院、2002年 - 2003年）

主な編著・校注

『証言 佐世保'68・1・21』（創言社、1968年）
『講座日本文学　西鶴』（堤精二共編 至文堂、1978年）
『日本文学新史 近世』（至文堂、1986年）
『上方洒落本集』（西日本国語国文学会翻刻双書刊行会、1963年）
『井原西鶴集 2』（宗政五十緒、暉峻康隆共校注・訳 小学館（日本古典文学全集）、1973年）
『陰徳太平記』（香川正矩、下房俊一共訳 教育社新書、1980年）
『好色一代男』井原西鶴 （新潮社（新潮日本古典集成）、1982年）
『新日本古典文学大系 75 伽婢子』浅井了意 （渡辺守邦、花田富二夫共校注 岩波書店、2001年）

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