桂米朝 (3代目)

三代目桂米朝：上方落語の復興を担い、後世に多大な影響を与えた名優

三代目桂米朝（1925年-2015年）は、現代上方落語界を代表する落語家であり、戦後衰退の一途を辿っていた上方落語の復興に多大なる貢献を果たした人物です。その功績は、1996年の重要無形文化財保持者（人間国宝）認定、そして2009年の文化勲章受章という、演芸界における最高峰の栄誉に顕著に表れています。本名は中川清。出囃子は『三下り鞨鼓』から『都囃子』へと変わり、俳号は「八十八」を名乗っていました。

生い立ちと落語への道

1925年、旧満州の大連で生まれ、幼少期を奉天（現在の瀋陽）で過ごした後、兵庫県姫路市の実家へと戻ります。実家は九所御霊天神社の神職の家系で、米朝自身も神職の資格を取得しており、落語家となる前は神社の禰宜を務めた経験もあります。幼い頃から落語や浪曲に親しみ、父や叔父に連れられて寄席に通っていたことから、その才能は幼少期から育まれていました。

旧制姫路中学卒業後、1943年に上京し大東文化学院へ進学。在学中に作家で落語研究家でもあった正岡容主催の落語会をきっかけに、正岡に入門し、その一番弟子となります。この出会いが、米朝の落語家としての道を決定づける転機となりました。正岡を通じて、後に上方落語四天王の一人となる五代目笑福亭松鶴や、三代目桂米之助（矢倉悦夫）らと知り合う機会にも恵まれました。

太平洋戦争中は応召されますが、急性腎臓炎により入院。終戦を姫路の実家で迎え、その後は神戸の会社員となりますが、落語への情熱は消えず、落語会や素人落語の上演会を主催するなど、上方落語の復興に尽力し始めます。

四代目桂米團治に師事

三代目桂米之助となった矢倉悦夫との縁をきっかけに、四代目桂米團治から指導を受ける機会を得ます。「高津の富」を教わるなど、本格的な落語の指導を受け、正岡の「上方落語の復興に貴公の生命をかけろ」という激励を受け、1947年9月、会社勤めを続けながら米團治に入門。「三代目桂米朝」を名乗り、本格的に落語家としての道を歩み始めます。

上方落語の復興と活躍

初舞台を戎橋松竹で踏んだ後、長らく千土地興行に所属し、千日劇場を拠点に活躍。1968年からはフリーとなり、ホール落語や独演会を中心に活動の幅を広げます。近畿放送のラジオ番組「天壇ゴールデンリクエスト」をきっかけに、1966年には初の独演会を開催、同年には現在も続く「桂米朝落語研究会」を設立するなど、自ら積極的に活動の場を築き上げていきました。

テレビ出演も多く、朝日放送専属となり『ハイ!土曜日です』、『お笑いとんち袋』などの人気番組に出演し、落語家としてだけでなく、放送タレントとしても広く親しまれました。同時に、落語研究家としての活動にも力を注ぎ、文献や古老からの聞き取り調査を通じて、一度は失われたとされる多くの落語を復活させました。「算段の平兵衛」「風の神送り」「矢橋船」などがその代表例です。

上方落語四天王の一人として、六代目笑福亭松鶴、三代目桂小文枝（五代目桂文枝）、三代目桂春団治らと共に、上方落語の復興に尽力しました。地方での公演では、落語への理解が低い状況の中で、厳しい状況に直面しながらも、地道な活動を続けました。

数々の栄誉と晩年

1987年には紫綬褒章を受章。上方落語協会会長の要請を受けるも辞退しています。1996年には人間国宝に認定され、2002年には文化功労者顕彰、2009年には文化勲章を受章するなど、数々の栄誉に輝きました。

晩年は脳梗塞や脳幹出血で入院するも、すぐに復帰。2013年を最後に高座を離れ、2015年3月19日、肺炎のため89歳で逝去。従三位に追叙されました。姫路市の名古山霊苑には、同市名誉市民として「米」の字を形どった墓が建立されています。

弟子や家族、そして人間性

米朝は多くの弟子を育成し、その中には長男の五代目桂米團治、月亭可朝、二代目桂枝雀、二代目桂ざこばといった著名な落語家も含まれます。弟子たちからは「ちゃーちゃん」と呼ばれ、厳格な指導を行う一方で、破門者を出さなかったという人情味あふれる一面も持っていました。

妻は元OSK日本歌劇団の駒ひかる。長男の五代目桂米團治を始め、次男と三男の三兄弟がいます。家庭では子煩悩とは言い難いながらも、落語への探究心と、子供にも分け隔てなく丁寧に説明する姿は、父親と落語家としての両面を垣間見せていました。

まとめ

三代目桂米朝は、上方落語の復興に生涯を捧げた偉大な落語家でした。その功績は、数々の栄誉、多くの弟子、そして上方落語界全体の隆盛に表れています。彼の落語への情熱、そして人柄は、多くの人の心に深く刻まれています。その芸風は端正で上品でありながら、時として艶笑落語も演じ、幅広い層に愛される落語家でした。彼の残した膨大なレパートリーと、後世に伝えられた教えは、これからも上方落語、ひいては日本の落語界を支え続けるでしょう。

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