汎全音階主義

汎全音階主義（パンダイアトニキズム）

汎全音階主義とは、半音階ではなく全音階（ダイアトニックスケール）を、機能和声理論における調性の制約を受けずに使用する音楽技法です。この技法を用いた音楽は「汎全音階的（パンダイアトニック）」と呼ばれます。

歴史

「汎全音階」という言葉は、音楽学者ニコラス・スロニムスキーによって作られました。彼は著書「Music since 1900」第2版で、汎全音階を「全音階の7つの音から、任意の音を自由に選択して構成された和音」と定義しています。この和音は、三和音に6度、7度、2度などの音を加えた形が一般的で、ノンハーモニック・ベースが基本形式とされています。

スロニムスキーは、汎全音階主義を「全音階の7音全て、または任意の音を、和声を決定付ける低音と共に同時に使用することを認める」と定義しました。和音は三度堆積で構成され、7度や9度、13度の音を加えても、基本的な三和音と同等の協和的機能を持つとされます。ただし、主和音においては11度の音は4度的な響きを含むため、避ける傾向があります。汎全音階主義は、その調性の強固さから新古典主義音楽で好まれました。

汎全音階的な音楽は、従来の解決や和音進行に縛られず、不協和音の組み合わせの制約から解放され、全音階の構成音を自由に扱います。半音階を使用しないため、常に強い調性感を持つことが特徴です。音楽評論家のリチャード・コステラネッツは、「汎全音階主義は調性と旋法の両方の要素を持ち、長調への明確な親近感を示す」と述べています。

特徴と例

汎全音階主義の特徴的な例として、セルゲイ・プロコフィエフの「ピアノ協奏曲第3番」、アルフレード・カゼッラの「全音階的ワルツ」、イーゴリ・ストラヴィンスキーの「プルチネルラ」などが挙げられます。コステラネッツは「主要三和音の機能的重要性は、汎全音階の和声においても弱まることなく残る」と説明しています。一方で、汎全音階主義には、明瞭で安定した主音が反映されないという意見もあります。

また、汎全音階主義は「白音音楽」とも呼ばれますが、実際には変化記号が使われることもあります。この技法を用いた作曲家には、モーリス・ラヴェル、パウル・ヒンデミット、ダリウス・ミヨー、アーロン・コープランド、ロイ・ハリスなどがいます。汎全音階主義はジャズ（6度や9度などの音の利用）や、ヘンリー・カウエルのトーンクラスターにも影響を与えました。

スロニムスキーは後に、汎全音階主義をアルノルト・シェーンベルクの12音技法を全音階上で用いたものとみなしました。具体的には、全音階の7つの音でメロディーを構成し、それを反転・逆行させる手法です。このシステムは「厳密な汎全音階対位法」と呼ばれ、各声部で重複なく7つの異なる音の進行を用いることが可能です。

批判と評価

この用語に対しては、「ストラヴィンスキーの音楽は、あらゆる技法が全体的、局所的に用いられている」といった批判や、「非常に曖昧で、実用性がない」という意見もあります。また、汎全音階的な音楽は、半音階、無調、12音技法、機能性、明確な主音、伝統的な不協和の解決といった「伝統的な要素の欠如」によって定義されるとも言われます。ドミトリー・ティモチュコは「調和の一貫性や中心性を欠く全音階の音楽に適用される」と批判しています。

スロニムスキー自身は、汎全音階主義を「地獄のように聞こえるハ長調」と表現した研究者の言葉を引用し、この技法を面白がっていました。

現代音楽への影響

汎全音階主義は、アーロン・コープランドの大衆向け作品「アパラチアの春」や、スティーブ・ライヒ、フィリップ・グラス、ジョン・アダムズによるミニマル・ミュージックでも使われています。また、音楽評論家のウィリアム・マンは、ビートルズの「ジス・ボーイ」について「調和的に、パンダイアトニックなクラスターの連鎖を含む、彼らの最も興味深い作品の1つ」と評価しています。

汎全音階的な音楽作品

汎全音階主義は、以下のような音楽作品で使用されています。

セルゲイ・プロコフィエフ: ピアノ協奏曲第3番
アルフレード・カゼッラ: 全音階的ワルツ
イーゴリ・ストラヴィンスキー: プルチネルラ
アーロン・コープランド: アパラチアの春
ビートルズ: ジス・ボーイ

関連項目

非和声音

参考文献

ニコラス・スロニムスキー: Music since 1900

出典

www.arvopart.orgの用語集からの汎全音階主義の定義

外部リンク

* www.arvopart.orgの用語集からの汎全音階主義の定義

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