江梨鈴木氏

江梨鈴木氏：伊豆に根付いた武家の興亡

江梨鈴木氏（えなしすずきし）は、伊豆鈴木氏とも呼ばれ、穂積氏を本姓とする日本の武家です。藤白鈴木氏の支流であり、初代・鈴木繁伴が伊豆国に下向したことに始まります。足利氏満に招かれて伊豆・相模国の船大将を務め、後に後北条氏に属して伊豆の江梨五ヶ村を支配しました。一族は、時代の波に乗りながらも、戦国時代の終焉とともにその姿を消していきました。

鎌倉時代から室町時代にかけて

元弘元年（1331年）、後醍醐天皇が鎌倉幕府倒幕の兵を挙げると、藤白鈴木氏の当主・鈴木重実の長男である鈴木繁伴は、幕府側の武将として護良親王と戦いました。しかし、幕府の滅亡とともに窮地に陥り、建武3年（1336年）に家臣30余名を率いて伊豆国へ逃れ、江梨村に立てこもりました。その後、一時的に紀伊国藤白に戻りますが、観応2年（1351年）に足利尊氏と足利直義の争いである薩埵峠の戦いで直義派についたため敗北し、再び伊豆江梨村に定住しました。これが江梨鈴木氏の始まりです。

繁伴は江梨の大瀬神社を篤く信仰し、その郎党には、渡邉氏、加藤氏、武氏、秋津氏といった豪族や、木島法印という山伏がいました。後に鎌倉公方の足利基氏に帰属し、関東管領の上杉憲顕から江梨村の領有権を認められました。貞治6年（1367年）には足利氏満に招かれ、伊豆・相模国の船大将を命じられ、室町幕府水軍の総大将として東国で活躍しました。

江梨鈴木氏は、江梨村を含む江梨五ヶ村を支配するようになり、北伊豆随一の有力武門へと成長しました。菩提寺である航浦院は、鈴木繁允（兵庫頭）の三世とされる鈴木繁郷（杉本左京大夫）が開創したと伝えられています。

戦国時代の動乱

明応2年（1493年）、北条早雲が伊豆に侵攻してくると、当時の当主・鈴木繁宗（兵庫助）は堀越公方から離反し、早雲にいち早く味方しました。堀越公方足利茶々丸攻めに参加し、その後は後北条氏配下の伊豆水軍を率いる武将の一人として、伊豆衆21家に数えられました。

江梨鈴木氏は、早雲の伊豆討ち入り以前から忠節を尽くしており、その功績によって江梨郷は不入の特権を得ていました。一族は伊豆国内に勢力を広げ、賀茂郡稲取村にも一族が進出しました。また、武蔵国の比企郡奈良郷にも江梨鈴木氏の一族がおり、北条氏綱、氏康に仕えたとされています。

明応7年（1498年）の明応地震では、江梨村も津波の被害を受け、多くの人々が犠牲となりました。江梨鈴木氏の系図や財宝も流失したと記録されています。この津波で鈴木兵庫助の娘が両眼を患いましたが、航浦院の薬師如来に祈願したところ全快したという逸話も残っています。

鈴木繁朝の三男・鈴木繁定は、北条氏政から駿河湾沿岸の警備を命じられ、不審船の取り締まりなどに従事しました。繁定は川越城宇佐曲輪に屋敷を持っていたとされています。

天正18年（1590年）、豊臣秀吉による小田原征伐で、江梨鈴木氏は後北条氏に味方して戦いました。しかし、当主一族である鈴木繁精や鈴木繁脩が戦死するなど、大きな痛手を受けました。繁脩の弟である鈴木繁氏は、家臣とともに陸奥国へ逃れ、小屋瀬鈴木家の祖となりました。

江梨鈴木氏は、江戸時代初期の鈴木繁義の代で絶えたとされています。沼津市西浦江梨には、江梨鈴木氏歴代の居館跡である鈴木氏館が残っています。

江梨鈴木氏歴代当主

鈴木繁伴（鈴木重伴）
鈴木重行
鈴木重家
鈴木繁允（重家五世）
鈴木繁郷（繁允三世）
鈴木繁用（鈴木重用）
鈴木繁宗
鈴木繁朝
鈴木繁定
鈴木繁顕
鈴木繁輔
鈴木繁義

江梨鈴木氏は、伊豆の地で栄華を誇った一族でしたが、時代の荒波に翻弄され、その歴史に幕を閉じました。しかし、その足跡は、今も沼津市西浦江梨に残る鈴木氏館などで偲ぶことができます。

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