沖縄県の歴史

沖縄県の歴史は、先史時代から現代に至るまで、複雑な変遷をたどってきました。ここでは、沖縄県となる以前の琉球王国時代、琉球藩時代を含め、その歴史を詳しく見ていきます。

琉球と沖縄の名称

琉球

「琉球」という名称は、7世紀初頭の中国の史書『隋書』に初めて登場します。当初は「流求」と表記され、隋の使者が訪れたものの、言葉が通じず、武力衝突も起きたと記録されています。その後、「流鬼」「瑠求」などと表記されることもありましたが、いずれも蔑称的な意味合いを持っていました。14世紀後半に、明が本島の3つの勢力（山北、中山、山南）を「琉球」と呼ぶようになり、その後、統一国家となった際に国号として「琉球國」が用いられるようになりました。

「琉球」が指す範囲は、明以前は必ずしも現在の沖縄県周辺に限らず、台湾や中国大陸東方の島々を漠然と指していたという説もあります。また、鎌倉時代には「龍及國」と記された資料も存在します。

第二次世界大戦後には、共産党幹部が「沖縄民族」という言葉を用いて民族的搾取を主張したことに対し、連合国軍最高司令官が「琉球」の名称を再利用させたという経緯もあります。

沖縄

「沖縄」の呼称は、8世紀の日本の史料に「阿児奈波」として登場するのが初出です。その後、「おきなは」として『平家物語』にも記され、室町時代の連歌用語辞典には「をきなふ」とあります。第二尚氏時代の歌謡集「おもろさうし」には「おきなわ」という神女名も確認できます。

「沖縄」という表記は当て字であり、17世紀初頭の薩摩藩の行政文書に初めて見られます。新井白石の『南島誌』では、細長い島が沖に浮かぶ様子を表す言葉として「沖縄」が用いられました。この「沖縄」という名称が、琉球処分後の県名に採用され、今日では一般的に使われるようになりました。

その他

「琉球国」は、琉球王国の国号であるとともに、琉球処分後も日本の公文書で地域を指す名称として一時的に用いられました。「琉球」は中国側からの他称、「沖縄」は本島の住民が周辺の島々を指す言葉に由来します。14世紀以降、中国では沖縄本島を「大琉球」、台湾を「小琉球」と呼ぶこともあり、両者が混同されることもありました。

先史時代

沖縄では、本土のような縄文時代や弥生時代の区分は行われず、土器出現以前の後期旧石器時代と、土器出現後の貝塚時代に分けられます。

旧石器時代

沖縄に人類がいつ頃から現れたかは不明ですが、最終氷期にはアジア大陸と陸続きであり、動物と共に移り住んだと考えられます。那覇市で発見された山下洞人は、約3万2千年前の人骨と推定され、日本最古級です。また、八重瀬町で発見された港川人骨は約1万8千年前のもので、ほぼ完全な形に近い旧石器時代人骨として有名です。

サキタリ洞遺跡では、1万2千年前の石器と人骨が発見され、世界最古の釣り針も出土しています。黒曜石は沖縄では産出されず、九州産のものが出土しています。

沖縄貝塚文化

貝塚時代は、縄文時代にあたる前期と、弥生時代から平安時代にあたる後期に分けられます。沖縄貝塚時代は、採集、漁猟、狩猟が中心でした。

前期には、本土の縄文土器に類似する土器が現れ、7000年前位から縄文式様の土器が、4000年前位からは沖縄独自の土器が現れます。中期には、竪穴建物の集落が現れます。

後期には、海岸砂丘上に遺跡が移動し、交易や漁撈が盛んになります。弥生時代の稲作は確認されておらず、農耕は貝塚時代後期の末に始まります。弥生土器の流入はあるものの、弥生文化の影響は少なく、独自色が強まります。貝製品が日本本土へ大量に運ばれたり、奄美地方では唐代貨幣が発見されたりすることから、交易の活発さが伺えます。

先島諸島では、縄文時代に台湾先史時代の土器と共通点のある土器が出土し、東南アジア系の文化があったと考えられています。その後、無土器文化の時代を経て、約800年前から本島と近い文化を持つようになります。

古代史では、『続日本紀』に714年に「信覚」「球美」の人々が来朝したという記述があり、新井白石はそれぞれ石垣島と久米島に比定しています。753年には鑑真が「阿児奈波島」に到着したとされ、これは沖縄本島を指すとされています。

古琉球

沖縄県における農耕の痕跡のうち最古のものは紀元前8世紀頃のものですが、本格的な農耕社会が成立したのは12世紀頃です。島津氏の侵攻（1609年）までを「古琉球」と呼びます。

神話において

琉球王国の正史『中山世鑑』によると、天の最高神が琉球の島々を作り、夫婦の神を遣わしたとされます。夫婦神は三男二女をもうけ、長男が国王の祖先となり、その子孫を天孫氏と言います。天孫氏は25代にわたり沖縄本島を支配したとされていますが、これは神話上の王統であり、実在しないと考えられています。

古代

琉球外の日本や中国には、古代から南西諸島との関係を示す記述が見られます。『日本書紀』には、7世紀に掖玖（屋久島とも南島全般とも言われる）、阿麻彌（奄美）の人々が来朝した記録があります。また、『続日本紀』には、南島の朝貢関係を確認する使者が派遣されたり、南島の人々が朝廷に貢物を持って訪れたりした記録があります。

中国の史書では、7世紀に「流求」の記述が見られますが、これは台湾と沖縄周辺を包括して指す言葉であり、14世紀に察度王統が明に朝貢するまで、中国から「琉球」と認識されることはありませんでした。

中世

伝説では、12世紀に源為朝が沖縄に逃れ、その子が琉球王家の始祖・舜天になったとされますが、真偽は不明です。しかし、琉球王国の正史ではこのように扱われており、日琉同祖論の起源とも考えられています。第二尚氏の王も、自らの祖を舜天に求めていました。

『中山世譜』によると、天孫氏の重臣・利勇が王を弑して自ら王を僭称しましたが、浦添按司・舜天がこれを討ち、国を統一したとされています。舜天の家は3代で途絶え、英祖が禅譲を受け、英祖王統が始まりました。

農耕社会の成立とグスク時代

12世紀頃から琉球では稲作・畑作を中心とした農耕社会が成立し、文明が発達しました。集落は海岸部から台地に移り、この時代をグスク時代と呼びます。この時代には、日本本土や中国大陸との交流が盛んで、東南アジアの陶磁器も輸入されていました。有力者は豪族（按司）となり、石垣で囲まれた城（グスク）を築き、周辺の集落を傘下に入れました。琉球神道は、ノロという女性祭司が強い力を持つシャーマニズム的なもので、仏教も伝来しました。

三山時代

14世紀には、各地の按司が3つの勢力にまとまりました。中部の中山、南部の南山、北部の北山です。いずれも明に朝貢し、互いに争いましたが、中山の佐敷按司・尚巴志が勢力を伸ばし、1406年に統一への動きを見せました。

第一尚氏王統

尚巴志は首里城を王都とし、父を中山王としました。これが第一尚氏王統の始まりです。巴志は山北と山南を討ち、1429年に三山統一を成し遂げ、琉球王国が成立しました。

5代・尚金福王の死後、後継者争いで首里城が焼失し、明からの「琉球国王之印」も失われましたが、7男・尚泰久が王位に就きました。尚泰久王は「万国津梁の鐘」を鋳造しました。6代・尚徳王は喜界島を征服し、明に使節を派遣しましたが、急死しました。

その後、重臣たちによって尚泰久王の重臣だった金丸（尚円王）が王位に就き、1470年に第二尚氏王統が始まりました。金丸は第一尚氏王統の王族をほとんど殺害したとされています。

第二尚氏王統

琉球の黄金時代

尚円王の死後、弟の尚宣威王が即位しましたが、神託を理由に退位し、真嘉戸樽（尚真王）が王位に就きました。尚真王は50年にわたり在位し、琉球の黄金時代を築きました。彼は、女官の殉死を廃止し、御嶽信仰を中心とした宗教を整備しました。また、按司を首里に強制移住させ、武力の一元管理を進め、中央集権化を推し進めました。

第二尚氏は、明への朝貢貿易を続け、東南アジアとの中継貿易も行いましたが、王府の見解では、進貢品は常に不足しており、貿易は王府にとって経済的な負担でした。

尚真王は、領土を広げ、搾取を強化して、年貢収入を増大させようと試みました。八重山を征服し、先島諸島全域を支配下に置きました。奄美群島も征服し、王国の最大版図を築きました。

1600年頃には、琉球米が日本本土へ輸出されました。また、サツマイモが導入され、食糧事情が改善されました。しかし、島津氏が琉球に対する圧力を強め、琉球はその対応を迫られました。

近世

江戸幕府の明通商計画と薩摩の侵攻

豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に、琉球は兵糧米の供出を求められましたが、明の冊封国であるため一旦拒否しました。江戸幕府は明との貿易再開を目指し、薩摩藩は琉球貿易の統制を企図しました。

1609年、薩摩藩は琉球に侵攻し、沖縄本島を制圧。尚寧王は薩摩藩に連行され、江戸幕府に謁見しました。薩摩藩は奄美群島を割譲し、琉球を間接支配するようになりました。琉球は清にも朝貢を続け、薩摩藩と明・清の両属体制を取りましたが、独立国家の体裁を保ち、独自の文化を維持しました。

王国の再建（羽地朝秀・蔡温らの改革）

島津侵攻後、琉球は幕藩体制に組み込まれました。1665年、羽地朝秀が摂政に就任し、琉球の立て直しに取り組みました。彼は、仕置を制定し、王府機構を改革し、『中山世鑑』を編纂しました。また、間切を新設し、地方改革も実施しました。

羽地朝秀の改革は蔡温に受け継がれ、農業生産の向上を目指し、『農務帳』を発布しました。治水・灌漑事業を実施し、耕地の測量調査を行いました。また、黒糖の生産が確立され、貿易のための商品作物となりました。

中継貿易の衰退

幕末には、欧米諸国の船が琉球に来航し、開国を求めました。ペリー提督も琉球を訪れ、琉米修好条約を結びました。清が海禁政策を緩和し、日本も開国したことで、琉球の中継貿易は急速に衰退しました。

近現代の琉球・沖縄

琉球処分

明治政府は、琉球を併合する動きを強めました。1872年に琉球藩を設置し、1879年には沖縄県を設置しました。琉球処分により、琉球王国は日本領となり、沖縄県に改組されました。

清はこの動きに反発しましたが、日清戦争後に日本の主権を認めざるを得なくなりました。

近代化政策

沖縄県は日本領となりましたが、法整備が遅れ、旧制度が長く残存しました。住民による旧制度廃止の運動も起こりましたが、徴兵制、地租改正などが本土より遅れて施行されました。一方で、沖縄の日本化が進められ、神道の布教も行われました。

1885年から1900年にかけて大東諸島を領有し、沖縄県に編入しました。また、南洋諸島が日本の委任統治になると、多くの住民が移住しました。大正末期から昭和初期にかけては、貧困と食糧不足に苦しみ、出稼ぎや海外移民が促進されました。

戦前の沖縄本島には、鉄道も存在しましたが、沖縄戦で破壊され、戦後復旧することはありませんでした。

第二次世界大戦

沖縄戦では、激しい空襲により那覇市が壊滅しました。1945年、米軍が沖縄本島に上陸し、壮絶な地上戦が行われました。沖縄県民も戦闘に参加し、多くの犠牲者が出ました。

戦後

終戦後、沖縄はアメリカ軍の統治下に置かれ、琉球政府が設立されました。アメリカ軍基地が建設され、住民の土地が強制的に接収されました。米軍兵士による事件も頻発しました。

1972年、沖縄は日本に復帰しましたが、米軍基地は維持されたままです。現在も、基地問題や米兵による事件が問題となっています。

現代

復帰後、沖縄では観光業が発展しましたが、失業率が高い状態が続いています。IT企業の誘致も行われていますが、課題も多く残されています。一方、人口は増加傾向にあります。

尖閣諸島を巡っては、中国と台湾が領有権を主張していますが、日本はこれらの主張を認めず、尖閣諸島は日本固有の領土であるという立場を崩していません。

沖縄は歴史的に複雑な背景を持ち、現在も多くの課題を抱えていますが、独自の文化を育み、発展を続けています。

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