河田長親

河田長親：越後の地で名を馳せた武将

河田長親（かわだ ながちか）は、戦国時代から安土桃山時代にかけての武将で、越後国（現在の新潟県）の戦国大名・長尾氏（後の上杉氏）に仕えました。古志郡栖吉城主として知られ、その知勇兼備な活躍から上杉謙信に重用されました。近江国（現在の滋賀県）出身でありながら、越後の地でその名を歴史に刻んだ人物です。

生い立ちと上杉家への仕官

長親は、元々近江国に住む伊豆守入道（河田元親）の子として生まれました。伊豆守入道は藤原氏の末裔とされていますが、確かな証拠はありません。生年については天文9年（1540年）説も存在します。また、近江川田氏の系譜によれば、長親の一族は平城天皇の末裔を称し、南北朝時代に近江国野洲郡河田郷の領主となったと伝えられています。一時期、信濃国出身説も唱えられましたが、滋賀県守山市川田町での発掘調査により、中世の遺構が発見され、現地に河田氏の末裔とみられる人々が現存していることから、長親が近江国出身であるという説が有力となっています。

永禄2年（1559年）、長尾景虎（後の上杉謙信）が二度目の上洛を果たした際、長親は日吉大社で稚児を務めていました。その美貌と才能を見出された長親は、景虎の側近として取り立てられ、奉行職を歴任することになります。謙信は、長親の智勇を高く評価し、上杉氏を相続した際に、長親に古志長尾氏の名跡を与えようとしましたが、長親は長尾姓を名乗ることを辞退したとされています。また、謙信は「長」の字を好んだとされ、長親の諱も謙信が命名したという説もあります。

軍事的な活躍

長親は、永禄年間の北条氏康との関東での戦いにおいて、厩橋城や沼田城の城代を務めました。永禄末年からは一向一揆との戦いが本格化し、越中魚津城を預かり、新庄城主・鯵坂長実とともに越中方面の総指揮官として活躍しました。一向一揆との戦いは一進一退を繰り返しましたが、武田信玄の死後、謙信が越中に軍勢を投入すると、椎名康胤を追放することに成功します。その功績により、長親は太田下郷を与えられ、越中松倉城主となり、松倉金山の経営も任されました。元亀2年（1571年）には、老父を近江国から呼び寄せたといわれています。

天正5年（1577年）、謙信が織田の大軍を迎え撃った手取川の戦いでは、鯵坂長実とともに落城した七尾城を受け取りました。この頃の長親は、上杉家にとって重要な武将の一人として、軍事面で大きな役割を果たしていました。

御館の乱とその後の動向

天正6年（1578年）に謙信が死去すると、長親は出家して禅忠と号しました。まもなく勃発した御館の乱では、長親の親族である河田重親が上杉景虎に味方する中、長親は当初中立の立場をとりましたが、最終的には上杉景勝を支援しました。この間、長親は謙信の死を好機と見て侵攻してくる織田軍への防戦に追われ、月岡野の戦いでは斎藤利治に敗れるなど苦戦を強いられました。織田信長からは近江国を与える条件で上杉氏に背くよう誘われましたが、長親はこれを断り、景勝への忠誠を貫きました。

御館の乱は景勝の勝利で幕を閉じましたが、景勝が上田長尾家以来の家臣団を中心とした側近集団を編成したため、謙信が登用した他国出身の家臣である長親は、その功績にもかかわらず、次第に上杉家臣団の中枢から外されていくことになります。その後も、柴田勝家、佐々成政らの越中侵攻に抵抗しましたが、天正9年（1581年）に越中松倉城で病死しました。享年39歳。長親の死後、織田軍は勢いを増し、越中の過半が織田氏の支配下に入ることとなりました。

長親の跡は嫡男の河田岩鶴丸が継ぎましたが、天正14年（1586年）に14歳で亡くなったため、一族の河田親詮が跡を継ぎました。ただし、この際に上杉家における河田氏の軍権は大幅に縮小されたといわれています。

人物像と逸話

長親は、上杉謙信に見出されたことでその才能を開花させました。その活躍を聞いた近江国の河田一族は、自身の立身出世を託し、多くが越後に移住したと伝えられています。また、長親の叔父である河田直親は六角義賢に仕え、観音寺城の戦いで戦死しており、六角氏の没落が河田氏の動向に影響を与えた可能性も指摘されています。

河田長親の系譜

正室：北条高広の娘
河田岩鶴丸（天正元年（1573年） - 天正14年（1586年））
* 嫡男。家督を継承しましたが、14歳で夭折しました。その後、従兄弟の親詮が家督を継ぎ、子孫は代々馬廻組として幕末に至りました。


河田長親は、その生涯を通して上杉家への忠義を尽くし、越後の地でその名を残しました。その活躍は、戦国時代の武将の生き様を示す重要な事例の一つと言えるでしょう。

もう一度検索