法観寺

京都市東山区の八坂エリアにひっそりと佇む法観寺は、正式には臨済宗建仁寺派に属する霊応山と号する寺院です。古くは八坂寺と呼ばれたこの寺は、京都でも指折りの古刹の一つであり、飛鳥時代の創建にまで歴史を遡ります。特に、東山の麓、台地上にそびえ立つ五重塔は、通称「八坂の塔」として広く親しまれ、周辺地域の景観を代表するランドマークとなっています。現代の寺域はかつてに比べると狭まっていますが、室町時代に再建されたこの五重塔を中心に、法灯は絶えることなく今日まで受け継がれています。

歴史

法観寺の創建に関する寺伝は、崇峻天皇2年（589年）に聖徳太子が如意輪観音の夢告を受け、五重塔を建立して仏舎利を納めたとするものです。この伝承は中世の記録にも見られますが、当時の史料に基づいているため、その信憑性については歴史学的な検討が必要です。しかし、2009年に行われた境内での発掘調査により、7世紀に作られたとみられる塼仏や礎石、古代の瓦などが出土したことから、平安京遷都以前、飛鳥時代に遡る古い時期に寺院が存在していたことが確実となりました。出土品の年代からは、特に天武天皇の治世（天武朝）に創建された可能性が高いと考えられています。創建当時の伽藍配置については明らかになっていませんが、四天王寺式や法隆寺式といった複数の説が提唱されており、議論が続いています。寺の造営には、古くからこの地に定着し、平安時代に八坂造（やさかのみやつこ）という姓を得た高句麗からの渡来氏族が深く関わったとする見方が有力です。

創建当初は八坂寺と呼ばれていましたが、この名称が文献に初めて現れるのは平安時代初期の『続日本後紀』承和4年（837年）の記事です。また、『延喜式』にも内蔵寮や大膳下の項目でその名が見え、当時は朝廷から手厚い保護を受け、官寺に準じる扱いを受けていたことがうかがえます。

その後、寺勢は一時衰退しましたが、鎌倉時代中期の仁治元年（1240年）、建仁寺の第八世である済翁証救（さいおうしょうきゅう）が入寺して寺を再興し、臨済宗建仁寺派に属する禅寺として新たな歩みを始めました。この時以来、寺号は法観寺と改められました。

法観寺の象徴である五重塔は、創建以来、幾度も災難に見舞われました。平安時代末期の治承3年（1179年）には、清水寺と祇園社（八坂神社）の抗争に巻き込まれて焼失し、建久2年（1191年）に源頼朝の援助を受けて再建されました。さらに正応4年（1291年）には落雷により再び失われ、延慶2年（1309年）には後宇多天皇の支援を得て三度目の再建が実現しました。現在建っている塔は、永享8年（1436年）に東山一帯を襲った大火で四度目の焼失を遂げた後、室町幕府将軍足利義教の援助により永享12年（1440年）に再建されたものです。この塔が、現在の法観寺に現存する中で最も古い主要な建築物となっています。

興味深いことに、塔の地下には古代寺院に特有の地下式心礎（心柱の土台石）が残されており、創建以来、歴代の塔はいずれも同じ場所に建て替えられてきたと考えられます。

歴史上の出来事としては、南北朝時代の暦応元年（1338年）以降、足利尊氏が夢窓疎石の勧めにより全国に建立した安国寺や利生塔の一つとして、この塔が都の利生塔に充てられ、仏舎利が納められました。また、戦国時代には、上洛した大名が八坂の塔に自らの定紋入りの旗を掲げ、天下の実力者となったことを世に示す場としても利用されたといいます。弓の名手として知られる大島光義が、豊臣秀次の命で塔の窓に十本の矢を射込んだという逸話も残されています。

平安時代には、法観寺の境内に隣接して八坂東院と呼ばれた道場院があり、これは後に雲居寺とも称されました。『元亨釈書』には、天暦2年（948年）に雲居寺の僧侶・浄蔵が、傾いた八坂寺の塔を加持祈祷によって元に戻したという伝説が語られています。

境内と文化財

現在の法観寺の境内には、以下の主要な建築物や施設、文化財などがあります。

五重塔：国の重要文化財に指定されています。永享12年（1440年）再建。高さ約46メートルは、東寺、興福寺の五重塔に次ぐ高さです。純和様の建築様式で、屋根は本瓦葺。初層内部には本尊である大日如来を中心とする五智如来像が安置されています。最下層からではなく、最上階（五重目）にのみ縁と高欄が設けられているのが珍しい特徴です。創建当初からの心礎の上に建てられています。
薬師堂：京都市指定有形文化財です。薬師如来、日光菩薩、月光菩薩、夢見地蔵菩薩、そして十二神将像が祀られています。
太子堂：こちらも京都市指定有形文化財。聖徳太子の3歳と16歳の姿を写した像が安置されています。
八坂稲荷神社：寺の鎮守社として、八坂稲荷尊天を祀っています。
茶室「聴鐸庵」：五重塔の風鐸（風鈴）の音色を聞きながら茶を楽しむことができることから、この名がつけられました。
木曾義仲の首塚：朝日塚とも呼ばれ、近くにあった塚が境内に移されたと伝わります。
藤原数子の墓
庫裏

また、紙本著色八坂塔絵図（法観寺参詣曼荼羅）も国の重要文化財に指定されており、往時の境内や参詣の様子を今に伝えています。

拝観

法観寺の八坂の塔は、特別な機会を除けば、日本国内で一般の人が内部に入り、さらに二層目まで登ることができる唯一の重要文化財指定の五重塔として知られています。しかし、拝観できる日は非常に限られており、基本的に寺院関係者の都合や天候によって不定期に公開されます。公開時間も10時から15時と短い上に、予告なく早めに終了することもあります。観光シーズンの週末に公開されることが多いものの、悪天候時には休止することも多く、また好天時でも休む場合があるため、「必ず拝観できる日」は存在しないのが現状です。拝観を確実に行いたい場合は、事前に電話などで確認することをおすすめします。

塔の内部に入ると、仏像や壁画の一部、そして古代からの歴史を物語る礎石や心柱を間近で見ることができます。急な階段を二層目まで上がると、窓越しに東山周辺や京都の街並みを眺めることができます。ただし、塔の外を通る八坂通りから境内の様子が比較的よく見えることもあり、有料で塔の内部を拝観する人はそれほど多くないようです。また、塔内の階段は非常に急で危険が伴うため、中学生未満の子どもは拝観できません。悪天候時に拝観が中止されるのも、濡れた靴で階段を上り下りすることによる滑落の危険性が高まることが一因とされています。古い写真の中には、最上層に金網が張られており、かつては一番上まで登れた時代の様子をうかがわせるものもあります。

周辺

法観寺の周辺には、高台寺、圓徳院、霊山観音、清水寺、金剛寺など、京都を代表する多くの寺院や観光名所が集まっています。八坂神社と清水寺を結ぶ散策路のほぼ中間に位置しており、東山観光の際に立ち寄るのに便利な場所にあります。

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