游子遠

游子遠（ゆう しえん）

游子遠（生没年不詳）は、中国五胡十六国時代の前趙に仕えた武将・政治家です。大茘（だいれい）出身の胡族でした。

生涯

幼い頃から容姿端麗で聡明であり、学問を好み、たゆまぬ努力を続けました。15歳の時、洛陽に遊学し、そこで朝廷の重鎮であった張華（ちょう か）と会う機会を得ます。張華は游子遠を見るなり、「この若者は風雅で高潔であり、三公の地位に就けるほどの才能を持っている」と絶賛しました。

成長後、前趙に仕官し、劉曜（りゅうよう）の時代には光禄大夫（こうろくたいふ）にまで昇進しました。

320年6月、長水校尉（ちょうすいこうい）の尹車（いんしゃ）・解虎（かいこ）らが劉曜に対して謀反を企て、密かに巴賨族（はしゅうぞく）の酋長である句徐（こうじょ）・厙彭（しゃほう）らと結託して決起しようとしましたが、計画は事前に露見し、尹車らは劉曜によって処刑されました。劉曜はさらに、句徐ら巴賨族の50人余りを阿房宮（あぼうきゅう）に監禁し、彼らも同様に処刑しようとしました。この事態を知った游子遠は、劉曜に進み出て、「聖王たるもの、刑罰は首謀者のみに限定すべきです。無益に多くの人々を殺害し、恨みを増やすことは避けるべきです」と諫めました。しかし、劉曜は激怒し、游子遠を投獄し、句徐らを虐殺してその遺体を10日間市場に晒した後、川に投げ捨てました。

その後、巴賨族の酋長である句渠知（こうきょち）は、劉曜への復讐を誓い挙兵し、国号を大秦（だいしん）と定め、前趙から独立しました。さらに、周辺の巴賨族、氐族（ていぞく）、羌族（きょうぞく）、羯族（けつぞく）など30万人以上がこれに呼応し、関中は大混乱に陥り、昼間でも城門が閉ざされるようになりました。この状況を受けて、游子遠は獄中から上奏文を送り、再び劉曜を諫めました。しかし、劉曜は上奏文を破り捨て、「大茘の奴め、自分の立場もわきまえず、偉そうに上奏してくるなど、死にたいのか」と激怒し、周囲の者に游子遠を即刻処刑するよう命じました。しかし、中山王（ちゅうざんおう）劉雅（りゅうが）、郭汜（かくし）、朱紀（しゅき）、呼延晏（こえんえん）らは、決死の覚悟でこれを諫め、「游子遠は幽閉されているにもかかわらず、諫言を行いました。これは社稷の臣と呼ぶにふさわしい立派な行いで、自分の命よりも国を思っていることの表れです。陛下が游子遠を用いないとしても、殺す理由にはなりません。もし朝に游子遠を処刑するならば、我々は夜には自らの命を絶ち、陛下の過ちを明らかにしましょう。天下の人々は皆、陛下のもとを去り、西海（さいかい）で死ぬでしょう。そうなれば、陛下は誰と行動を共にするおつもりですか！」と訴えました。劉曜の怒りはようやく鎮まり、游子遠は釈放されました。

その後、劉曜は内外に戒厳令を敷き、自ら親征して句渠知を討伐しようとしました。しかし、游子遠は進み出て、「陛下が私の策を用いてくだされば、親征などしなくても一月で平定できます」と述べました。劉曜がその計略を尋ねると、游子遠は「敵には大志がなく、皇帝になるという野心もありません。単に陛下を恐れ、死から逃れようとしているだけです。もし陛下が大赦を下し、解虎・尹車らの事件に連座して投獄された老人、虚弱者、婦人、子供を全て釈放するならば、反乱者たちは皆、帰順するでしょう。それでも、自らの罪の重さから降伏を躊躇う者がいるでしょうから、その時は私に弱兵5千を貸し与えていただければ、陛下のために平定してみせます。今、敵軍は跋扈しており、天威のみを頼りに親征を行っても、平定は容易ではありません」と進言しました。劉曜は游子遠の発言を大いに称賛し、彼の策に従って領内に大赦を下しました。さらに、游子遠を車騎大将軍（しゃきだいしょうぐん）・開府儀同三司（かいふぎどうさんし）・都督雍秦征討諸軍事（ととくようしんせいとうしょぐんじ）に任じ、反乱の平定を一任しました。

游子遠が軍を率いて雍城（ようじょう）に入ると、すぐに10万人を超える人々が游子遠のもとに帰順し、さらに安定（あんてい）に軍を進めると、氐族や羌族もまたこぞって降伏してきました。しかし、句渠知とその一族5千戸余りが陰密（いんみつ）に拠って游子遠に対抗したため、游子遠は自ら陰密に進出し、瞬く間に句渠知の勢力を攻め滅ぼし、陰密を平定しました。その後、游子遠は軍を転進させ、隴西（ろうせい）へ進軍しました。

この時、上郡（じょうぐん）に割拠する西戎（せいじゅう）の酋長である虚除権渠（きょじょけんきょ）は、氐族・羌族10万戸余りをまとめ上げ、険阻な地に拠って秦王を名乗っていました。游子遠が虚除権渠の守る砦に迫ると、虚除権渠は迎撃に出ましたが、游子遠は彼らと5度戦い、いずれも勝利を収めました。虚除権渠はこれを恐れ、游子遠に降伏しようとしましたが、子の虚除伊余（きょじょいよ）は諸将に「かつて劉曜が親征してきた時も、我々は問題としなかった。どうして游子遠如きに降伏する必要があろうか」と述べ、精鋭5万を率いて出撃しました。早朝に虚除伊余の軍勢が游子遠の砦門に到達すると、游子遠の諸将は迎撃を主張しましたが、游子遠は「虚除伊余は無敵の勇猛さを誇り、率いる兵も精鋭揃いである。しかも、父が敗れたのだから怒りに燃えている。今は直接彼らと当たるのは避けるべきだ」と反論し、守りを固めて敵の鋭気を削ぎました。

敵軍の弱気な姿勢を見た虚除伊余は次第に驕りを見せるようになりました。游子遠は虚除伊余が警戒を怠っていると知ると、夜中に将士に食事をとらせて反撃の準備をさせました。その時、大きな風霧が巻き起こり、周囲の視界が悪化しました。これを見た游子遠は「天が我に味方したか」と喜び、自ら先頭に立って全軍を率いて敵陣に奇襲をかけました。備えをしていなかった虚除伊余の兵は大いに混乱し、夜明けには大勢が決しました。游子遠は虚除伊余を生け捕りにすることに成功し、その将兵をことごとく捕虜としました。これを知った虚除権渠は、恐れて髪を振り乱し顔に傷をつけて游子遠に降伏しました。西戎の中では虚除権渠の部族が最も強勢であり、皆、虚除権渠の後ろ盾を得て前趙に反抗していました。そのため、虚除権渠が降伏すると、全ての西戎が前趙に服属しました。こうして大乱は平定されました。

游子遠は劉曜に戦勝報告を行うと、虚除権渠の罪を赦し、征西将軍（せいせいしょうぐん）・西戎公（せいじゅうこう）とするよう上奏しました。また、虚除伊余とその兄弟、部落20万人余りを長安（ちょうあん）に移すよう上奏すると、劉曜はいずれも認めました。游子遠はこれらの功績により、大司徒（だいしと）・録尚書事（ろくしょうしょじ）に昇進しました。

322年12月、劉曜が父母のために巨大な陵墓を築こうとしたため、百日間で6万人の人民が動員されました。これにより昼夜休まず工事が続けられ、民衆は労役に苦しみました。游子遠は強くこれを諫めましたが、聞き入れられませんでした。

これ以降、彼に関する記録は途絶えています。

参考文献

『晋書』巻103 載記第3
『資治通鑑』巻91、巻92
* 『十六国春秋』巻10

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