瀬戸内火山帯

瀬戸内火山岩石区

かつて「瀬戸内火山帯」、あるいはその別名である「二上火山帯」と呼ばれたこの地域は、日本の地質学において独特な位置を占めています。愛知県から始まり、近畿、四国を経て九州に至る広範囲に及ぶとされた火山帯でしたが、現在の理解とは異なっています。この地域の特徴的な岩石としては、叩くと高い金属音を発する讃岐岩（サヌカイト）や、柘榴石を含む流紋岩などが挙げられます。

かつての瀬戸内火山帯には、愛知県の鳳来寺山、近畿地方の二上山、四国地方の五剣山、屋島、石鎚山などが含まれると考えられていました。しかし、その後の研究により、これらの場所に見られる火山岩類は、およそ1000万年以上前、地質年代でいう第三紀後半にあたる時期に活動したものであることが明らかになりました。それ以降、新しい火山活動が認められないことから、現在活発な火山活動を示す「火山帯」としては見なされていません。

そのため、今日では「瀬戸内火山帯」という名称ではなく、その地質学的な特徴を示す「瀬戸内火山岩石区」や「瀬戸内火山区」といった呼称が用いられています。これは、特定の時代に形成された火山岩類が広範に分布する地域であることを意味しています。

瀬戸内火山岩類の特徴と分布

瀬戸内火山岩類は、特に高マグネシア安山岩を特徴とします。代表例は讃岐岩ですが、その他にも多様な岩石が含まれます。これらの火山岩類が形成されたのは、中期中新世にあたる約1500万年前から1300万年前の時期が中心と考えられています。

瀬戸内火山岩石区に属する主要な分布地域と、その代表的な地質名所は以下の通りです。

設楽火山岩類（愛知県）：高マグネシア安山岩ではないため、広義に含む場合と含まない場合があります。代表的な場所として鳳来寺山や馬背岩が知られます。
室生火山群（三重県・奈良県）：一部は熊野酸性岩類に分類されることもあります。
二上層群（奈良県・大阪府）：二上山や屯鶴峯が有名です。
小豆島から讃岐半島周辺（香川県）：寒霞渓、屋島、絹島・丸亀島、琴平山など、風光明媚な景観を形成しています。
石鎚層群・高縄半島から防予諸島周辺（愛媛県・山口県）：石鎚山や面河渓などが含まれます。
大崩山火山深成複合岩体・大野火山岩類（大分県・宮崎県）：大崩山、比叡山、祖母山などがこの区域に含まれます。

さらに、長野県松本市の内村層、熊本県の天草諸島、鹿児島県の甑島に見られる高マグネシア安山岩も、瀬戸内火山岩類に含める考え方もあります。

西日本の火山活動との関連

日本列島全体で見ると、西日本は東日本に比べて火山の数が少ない傾向にあります。特に、瀬戸内火山岩石区が位置する近畿地方や四国地方には、現在活動している活火山が存在しません。これは、地下におけるプレートの構造と関係があると言われています。西日本の地下では、フィリピン海プレートが比較的浅い位置にあり、マグマが発生しにくい状況にあると考えられています。ただし、活火山がない地域であっても、地下深部の熱源や断層など、特殊な地質条件によっては温泉が湧出することがあり、兵庫県の有馬温泉はその一例です。

瀬戸内火山岩石区は、現在の火山活動を示す地域ではありませんが、日本の地質形成史における特定の時代に発生した大規模な火山活動の痕跡を今に伝える貴重な地域として、地質学的に重要な意味を持っています。この地域に見られる独特な岩石や地形は、過去の地球の活動を物語っています。

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