火災の年表

火災の年表：歴史を刻んだ炎上と惨事

火災は古くから人類の歴史に深く関わってきた災害であり、時には都市を焼き尽くし、多くの人命を奪い、社会構造に大きな影響を与えてきました。この年表は、世界各地で発生した歴史的な大規模火災の一部を記録したものです。

アジア・オセアニアにおける主な火災

アジアでは、古くから都市部での大火が記録されています。1729年にはオスマン帝国のコンスタンティノープル（現イスタンブール）で大火が発生し、7000人もの命が失われました。以降もこの都市では大規模な火災が頻発しています。近代では、1845年に清の広東で劇場火災により1600人以上が犠牲になったほか、希土戦争中の1922年にはトルコ軍のイズミル攻撃によって市街地が炎上し、多くの住民が犠牲となりました。

20世紀以降も、アジア各地で悲劇的な火災が発生しています。1938年の中国・長沙大火では、国民党軍の放火により2万〜3万人が死亡するという甚大な被害が出ました。また、韓国やフィリピン、インドネシアなどでは、ホテルや劇場、工場、雑居ビルなど多様な場所で火災が発生し、多数の犠牲者を出しています。例えば、1971年のソウル・大然閣ホテル火災では163名が、1972年のソウル市民会館火災では51名が、1996年のフィリピン・ケソンでのディスコ火災では162名が死亡しました。これらの事例は、建物の構造や避難設備の不備が被害を拡大させる要因となりうることを示しています。

近年でも、2010年の上海マンション火災（58名死亡）、2012年のパキスタンやバングラデシュでの縫製工場火災（それぞれ295名、112〜124名死亡）、2017年のイラン・テヘランの商業ビル火災・倒壊（少なくとも20名死亡）、2017年のパキスタンでのタンクローリー炎上事故（少なくとも149名死亡）など、痛ましい事故が相次いでいます。特にタンクローリーの事故では、流出したガソリンを持ち帰ろうとした住民が引火に巻き込まれるという悲劇的なケースが見られます。

自然に関連した大規模火災としては、2009年や2019-2020年にオーストラリアで発生した広範囲な森林火災が挙げられます。また、トルクメニスタンのダルヴァザ天然ガス田では、1971年から現在に至るまでガスが燃え続けており、「地獄の門」として知られています。

ヨーロッパ・アフリカにおける主な火災

ヨーロッパの歴史もまた、大火の記録に彩られています。紀元64年のローマ大火や、1666年のロンドン大火は、都市の景観や構造を大きく変えるきっかけとなりました。特にロンドン大火は市街地の85%を焼失したものの、死者は比較的少なかったとされています。

近代以降は、劇場やデパート、ホテルなど、多くの人が集まる場所での火災が目立つようになります。1881年のウィーンリング劇場火災（850名死亡）、1897年のパリ・バザール・ド・ラ・シャリテ火災（126名死亡）、1967年のベルギー・ブリュッセルのイノバシオンデパート火災（322名死亡）、1977年のホテルロシア火災（43名死亡）など、悲劇的な事例が多数記録されています。これらの火災は、避難経路の確保や防火設備の重要性を浮き彫りにしました。

輸送機関に関連する火災も発生しています。戦列艦「クイーン・シャーロット」の火災（673名死亡）、キンティンスヒル鉄道事故（226名死亡）、トーレ・デル・ビエルソ鉄道事故（500名以上死亡）、客船「Lakonia」やフェリー「Scandinavian Star」、「Moby Prince」の火災など、多くの命が失われました。

アフリカでは、ナイジェリアでの映画館火災（1951年、100名死亡）や、ラゴスでの武器庫爆発事故（2002年、1100名以上死亡）、パイプラインからの原油・ガソリン引火爆発事故（2006年、2007年、2009年など、多くの場合は流出品を収集しようとした住民が犠牲に）など、多様な原因による大規模火災が発生しています。2013年のランペドゥーザ島沖での難民船火災・沈没事故では、360名以上が亡くなりました。

近年の著名な火災としては、2017年のロンドン・グレンフェル・タワー火災（79名死亡・行方不明）、2018年のロシア・ケメロヴォショッピングセンター火災（少なくとも64名死亡、うち子供41名）、2019年のパリ・ノートルダム大聖堂火災（建物の大部分が損傷）などがあり、その原因や背景が社会的な議論を呼びました。

南北アメリカにおける主な火災

南北アメリカ大陸でも、多くの大規模火災が発生し、歴史にその名を刻んでいます。1871年のシカゴ大火や1872年のボストン大火は、都市部の広範囲を焼き尽くしました。シカゴは1874年にも再び大火に見舞われています。

劇場や娯楽施設での火災は、特に多くの犠牲者を出しました。1903年のシカゴ・イロコイ劇場火災（602名死亡）や1942年のボストン・ココナッツ・グローヴ火災（491名死亡）、1977年のケンタッキー州・ビバリーヒルズ・サパー・クラブ火災（164名死亡）、2003年のロードアイランド州・ステーション・ナイトクラブ火災（100名死亡）、2013年のブラジル・サンタマリアナイトクラブ火災（239名死亡）などがあり、これらの多くで避難誘導の不備や非常口の問題が指摘されました。

宿泊施設での火災も大きな被害をもたらしています。1946年のアトランタ・ワインコフホテル火災（119名死亡）、1980年のラスベガスMGMグランドホテル火災（85名死亡）、1986年のプエルトリコ・デュポン・プラザ・ホテル放火事件（98名死亡）は、宿泊施設の防災対策の重要性を社会に問いかけるきっかけとなりました。

輸送機関では、外輪船「レキシントン」（143名中139名死亡）や貨客船「サルタナ」（1450名以上死亡）、遊覧船「ジェネラル・スローカム」（1031名死亡）、飛行船「ヒンデンブルク号」（36名死亡）など、多様な船や航空機の火災事故が記録されています。

自然に関連した火災では、アメリカ西部の広範囲にわたる森林火災が繰り返し発生しています。1933年のオレゴン州での山火事（1400km2焼失）や、近年のカリフォルニア州での大規模山火事（2007年、2017年、2025年など）、2019年のアマゾン熱帯雨林火災（ブラジル国内だけで4300平方キロメートル以上焼失）などは、広大な面積を焼き尽くし、生態系や気候変動にも影響を与えています。また、2023年にはハワイ・マウイ島で大規模な山火事が発生し、歴史的な街ラハイナが壊滅的な被害を受け、115名が死亡しました。

その他、工場火災（1911年ニューヨーク・トライアングル・シャツウェスト工場火災、145名死亡）、精神病院火災（1960年グアテマラ、225名死亡）、坑内火災（1962年から継続中のペンシルベニア州セントラリア）、倉庫火災（2016年カリフォルニア州オークランド、少なくとも36名死亡）など、様々な場所で大規模火災が発生しています。

日本における主な火災

日本の火災史もまた、数多くの悲劇的な記録を含んでいます。古くは難波宮や京都での大火（安元、治承、天明など）、鎌倉大火などがあり、木造建築が多かった歴史的な都市は特に火災に弱かったことが分かります。

江戸時代には、「江戸の三大大火」として知られる明暦の大火（推定6万名以上死亡）、天和の大火、明和の大火が発生し、特に明暦の大火は江戸の市街地の大部分を焼き尽くす壊滅的な被害をもたらしました。この経験が、その後の都市計画や防火対策に影響を与えたと言われています。

明治以降も、東京（銀座大火、文化の大火など）、大阪（北の大火、南の大火など）、新潟、函館、横浜、静岡など、全国各地で都市大火が頻発しました。これらの大火は、密集した木造家屋や強風が被害を拡大させる要因でした。特に1934年の函館大火では2166名の犠牲者が出ています。

大正時代には、1923年の関東大震災に伴う広範囲な火災が発生し、地震だけでなくその後の火災がいかに恐ろしいかをまざまざと見せつけました。特に火災旋風が発生した陸軍被服廠跡地では、約3万8000人もの人が焼死しました。

第二次世界大戦中には、日本本土空襲による大規模な火災が全国の都市を襲い、特に1945年3月10日の東京大空襲では約8万人が死亡したとされています。

戦後も、飯田大火、鳥取大火、岩内大火などの都市大火が発生しました。また、建物火災では、1943年の布袋座火災（208名死亡、単一建築物火災で最悪）、1955年の聖母の園養老院火災（99名死亡）、1972年の千日デパート火災（118名死亡）、1973年の大洋デパート火災（104名死亡）、1980年の川治プリンスホテル火災（45名死亡）、1982年のホテルニュージャパン火災（32名死亡）など、多くの悲劇が起こりました。これらの火災は、防火・避難設備に関する法規制の見直しや強化につながる契機となりました。

近年では、2001年の歌舞伎町ビル火災（44名死亡）が雑居ビルの安全対策の不備を浮き彫りにし、2016年の糸魚川市大規模火災は古い町並みの密集地における木造建築の延焼リスクを再認識させました。また、放火による事件も発生しており、2019年の京都アニメーション放火殺人事件（36名死亡）や2021年の北新地ビル放火殺人事件（27名死亡）は、社会に大きな衝撃を与えました。自然災害に伴う火災としては、東日本大震災や能登半島地震における大規模火災も記憶に新しいところです。

火災の歴史は、同時に防火・防災の歴史でもあります。これらの事例から学び、未来の災害に備えることの重要性を改めて認識させられます。

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