無学祖元

無学祖元（むがく そげん）

無学祖元は、鎌倉時代に中国から来日した臨済宗の僧です。仏光国師、円満常照国師という諡号を持ち、その号は子元と称しました。彼は日本に「無学派」（仏光派）を創始し、鎌倉の建長寺と円覚寺を兼任して住持し、日本の臨済宗に多大な影響を与えました。彼の指導法は非常に丁寧で、しばしば「老婆禅」と称され、多くの鎌倉武士たちが彼の門を叩きました。

生涯

1226年、中国南宋時代の慶元府鄞県で誕生しました。1237年、兄の勧めにより臨安府浄慈寺の北礀居簡のもとで出家。その後、径山寺の無準師範に師事し、その法を継承しました。さらに、石渓心月、虚堂智愚、物初大観、環渓惟一といった高僧たちにも教えを請いました。1262年には臨安府東湖の白雲庵に移り、1263年には師兄の退耕徳寧が杭州の霊隠寺に住むと、その補佐役として首座を務めました。

臨刃偈

1269年、台州の真如寺に招かれて赴任しましたが、南宋の衰退により元軍の侵攻が始まりました。無学祖元は温州の雁蕩山能仁寺に避難しましたが、元軍に包囲されてしまいます。この時、彼は「臨刃偈（りんじんげ）」を詠んだと伝えられています。これは「臨剣の頌」とも呼ばれ、死を覚悟した際に詠む偈で、その内容に感銘を受けた元軍は彼を危害することなく去ったと言われています。この逸話は、後の臨済宗の僧である雪村友梅も、元で諜者の疑いをかけられた際にこの偈を唱えて許されたという話にも繋がっています。

来日

1277年、無学祖元は寧波の天童山に戻り、環渓惟一のもとで首座となりました。1279年、北条時宗は蘭渓道隆の跡を継ぐ高僧を求めて、傑翁宗英と無及徳詮を南宋に派遣しました。環渓は高齢を理由にこれを辞退し、無学祖元を推薦。鏡堂覚円を随侍として、無学は日本に渡ることになりました。1279年6月25日頃、博多に到着し、旧知の仲であった無象静照の出迎えを受け、鎌倉へ向かいました。鎌倉では、蘭渓道隆の遷化後、建長寺の住持となり、時宗をはじめとする多くの鎌倉武士から信仰を集め、彼らの教化に尽力しました。

蒙古襲来

1281年、二度目の元寇「弘安の役」が起こる直前、無学祖元は元軍の再来を予知し、時宗に「莫煩悩（煩い悩む莫かれ）」という言葉を贈りました。また、「驀直去（まくじきにされ）」という言葉を伝え、「驀直（ばくちょく）」に前へ進み、決して後を振り返るなと教えました。この言葉は後に「驀直進前（ばくちょくしんぜん）」という故事成語として知られるようになります。無学祖元によれば、時宗は元軍の撃退を神風によるものとは捉えておらず、むしろ禅の悟りによって精神的な支えを得たと考えていました。

1282年、北条時宗は元寇の戦没者追悼のため、巨費を投じて円覚寺を創建し、無学祖元を開山として迎えました。時宗は無及徳詮を通訳として、無学に参禅しました。その後、無学は建長寺と円覚寺の両寺を兼管することになりました。1286年、無学祖元は建長寺で示寂し、荼毘に付された後、建長寺の裏山に葬られました。彼の塔所である正続院は建長寺内に建てられましたが、1335年には後醍醐天皇の綸旨により、円覚寺の舎利殿が無学祖元の塔所となりました。

彼は数年の滞在予定で来日しましたが、中国の政情不安から終生日本に留まりました。没後、仏光禅師と諡され、後に光厳天皇から円満常照国師の諡号を追贈されました。彼の門派は仏光派と呼ばれ、高峰顕日や規庵祖円などの禅僧を輩出し、特に高峰の門下からは夢窓疎石が出て、五山禅林の主流を占めました。

語録

『仏光国師語録』が残されています。

辞世

辞世の句は、「来たるも亦前ならず　去るも亦後ならず、百億毛頭に獅子現じ、百億毛頭に獅子吼ゆ」でした。これは、生も死も、過去も未来も超越した境地を表しています。

弟子

高峰顕日、規庵祖円、無外如大、一翁院豪など、30名以上の弟子がいました。特に高峰の門下からは、後に五山派の主流となる夢窓疎石が輩出しました。

主な作品

墨跡
「与長楽寺一翁偈語」（国宝）相国寺（承天閣美術館保管）
「無学祖元墨跡 偈断簡」（重要文化財）根津美術館
「無学祖元墨跡 尺牘」（重要文化財）円覚寺
着賛
「六祖慧能図」（重要文化財）正木美術館
「白楽天図」（重要文化財）個人蔵
頂相
「無学祖元坐像」（重要文化財）円覚寺
「無学祖元像」（重要文化財）円覚寺
* 「無学祖元像」慈照寺 春屋妙葩賛


無学祖元の遺した禅の教えと、その精神は、現代においても多くの人々に影響を与え続けています。

もう一度検索