片瀬 (藤沢市)

片瀬（かたせ）

神奈川県藤沢市の南東部に位置する片瀬は、その歴史、地理、文化が複雑に絡み合う地域です。ここでは、旧片瀬村、片瀬地区、そして住居表示としての片瀬という３つの異なる概念を区別しつつ、その詳細を掘り下げていきます。

地理

位置と範囲

旧片瀬村は、近世以来の片瀬村の範囲とほぼ重なります。片瀬川（境川下流部）以東の地域で、かつては鎌倉郡に属していました。現在の片瀬海岸三丁目と鵠沼海岸一丁目の境界線は、江戸時代の絵地図に描かれた片瀬川の流路に基づいています。また、北西部の高座郡鵠沼村との境界線は、片瀬川の曲流によって形成された自然境界でした。片瀬地区は、西を鵠沼地区、北東を村岡地区、南東を鎌倉市腰越地区と接しています。

旧片瀬村と旧江島村の関係

旧片瀬村と旧江島村は、以下の経緯で合併・編入されました。

1889年（明治22年）：片瀬村と江島村が合併し、川口村が成立。
1933年（昭和8年）：川口村が町制を施行し、片瀬町となる。
1947年（昭和22年）：片瀬町が藤沢市に編入合併される。

自然環境

地形・地質

片瀬地区の地形は、東部の丘陵地と西部の低地に大きく二分されます。

丘陵地: 三浦丘陵の北西端にあたり、「片瀬山」と総称されます。基盤は第三紀層の凝灰質砂礫岩で、上部には関東ロームが堆積しています。丘陵上部は、古くから薪炭林や萱場として利用されてきました。また、かつては軍の射撃訓練場としても使用されていました。現在では、住宅地開発が進んでいます。
* 低地: 縄文海進によって海底だった部分が、海退によって陸化した海岸平野です。沿岸流によって運ばれた海砂が堆積しており、砂丘が形成されています。片瀬川が曲流を繰り返しながら相模湾に注ぎ込み、その流路が片瀬地区の西縁を形成しています。低地には、かつて水田が広がっていましたが、現在は宅地化が進んでいます。

気候・植生

片瀬地区は、南部ほど海洋性気候の影響を強く受けます。気温の変化は穏やかで、年間の寒暖差が比較的小さいです。降水量は秋霖や台風期に多く、梅雨期がそれに続きます。風向は、季節風よりも海陸風の影響が大きいです。丘陵の自然植生は、オニシバリ-コナラ群集やイノデ-タブノキ群集といった暖帯林が中心です。

社会環境

河口港

奈良時代には、片瀬に集落が形成されていたことが記録に残っています。この集落は、片瀬川河口という地の利を生かした河口港を擁し、港で働く人々が集住していたと考えられます。江戸時代には、年貢米の積み出し港として栄えましたが、鉄道の発達とともにその役割を終えました。現在では、漁船やプレジャーボートが多く見られます。

鎌倉の外縁

鎌倉幕府が開かれると、片瀬は鎌倉の入口、または外縁としての位置づけが与えられました。処刑場が設けられ、日蓮が法難を受けた場所としても知られています。

参詣観光地

源頼朝が江の島に弁才天を勧請して以来、片瀬は参詣客を集める観光地となりました。江戸時代には、多くの参詣客が訪れ、門前町には旅館や飲食店が軒を連ねました。江の島へ繋がる陸繋砂嘴は「州鼻」と呼ばれ、そこを通る江の島道は「州鼻通り」として、現在も賑わっています。

海水浴場と湘南海岸 公園

明治時代初期には、片瀬にヨーロッパ式の海水浴が伝わりました。片瀬の海水浴場は、鎌倉や大磯よりも古くから存在したと考えられています。1923年の関東大震災以降、海岸線の隆起や砂防林の整備が進み、現在の湘南海岸公園が形成されました。その後、片瀬の海水浴場は日本有数の規模となり、多くの観光客を集めるようになりました。また、ライフガード組織の発祥の地でもあります。

別荘地から住宅地へ

明治時代から、片瀬には別荘が多く建てられました。特に江ノ電の開通後、その流れは加速しました。大正時代には、丘陵斜面にも別荘が散在するようになりました。その後、官有地の払い下げを受け、計画的な住宅地開発が進められました。1960年代以降、片瀬山丘陵に大規模な住宅地が開発され、現在では多くの人々が居住しています。

地価

2023年1月1日の公示地価によると、片瀬4-10-7の地点で23万円/m2となっています。

地名

古くは、方瀬、潟瀬、肩瀬、固瀬などとも書かれました。片瀬という地名の由来は、片瀬川の曲流による地形、または特徴的な波の形に由来するという説があります。

伝統的集落名と旧小字

片瀬には、上町、中町、台町など、古くからの集落名が残っています。また、旧小字としては、西田、川袋、大源太などがあります。

住居表示

現在の片瀬地区における住居表示は、1965年から1973年にかけて実施されました。

町名の変遷

片瀬村、川口村、片瀬町と変遷し、最終的に藤沢市に編入されました。

歴史

先史時代

縄文時代には、片瀬の西部低地は海中にありました。東部丘陵からは、石器などの遺跡が見つかっています。海退が進むと、低地にも遺跡が形成されるようになりました。

古代

古代には、龍口明神社や本蓮寺の前身となる寺院が創建されました。また、正倉院文書には、「方瀬（片瀬）郷」の名前が登場します。諏訪神社もこの時代に創建されたと伝えられています。

中世

鎌倉時代には、片瀬は鎌倉の外縁として位置づけられ、和田合戦や日蓮の法難など、歴史的な出来事の舞台となりました。龍口には刑場が設けられ、多くの人々が処刑されました。また、一遍が片瀬の浜で踊り念仏を行ったことでも知られています。

近世

江戸時代には、片瀬は幕府の天領となり、河口港として栄えました。また、鉄砲場が設けられ、軍事訓練も行われました。この時代には、片瀬と近隣の村との境界争いが頻繁に発生しました。

近代

明治時代に入ると、相州炮術調練場が廃止され、片瀬の近代化が進みました。山本家が私財を投じて橋を架け、小学校が設置されました。また、学習院が游泳訓練場を設置したことで、片瀬は海水浴場として注目されるようになりました。江ノ電の開通は、片瀬の観光地化を大きく進めました。

現代

片瀬町は、昭和22年に藤沢市に編入され、現在の形になりました。その後、湘南海岸公園の整備や住宅地開発が進み、片瀬は観光都市として発展しました。

地域の特色

片瀬の仏教 寺院

片瀬には、真言宗と日蓮宗の寺院が点在しています。これらの寺院は、片瀬山の山麓に集中しており、龍口法難の地として知られる龍口寺は、特に重要な寺院です。

片瀬の近代化と山本家

江戸時代から片瀬村の名主であった山本家は、片瀬の近代化に大きく貢献しました。山本家は、橋を架けたり、小学校を設置したり、別荘地開発を進めたりするなど、様々な活動を行いました。

片瀬のネームバリュー

片瀬の集合住宅の名称には、所在地である片瀬よりも、江の島や湘南を名乗るものが多いです。このことは、不動産業界における地域名のネームバリューを示していると考えられます。

藤沢市への合併の経緯

片瀬町は、鎌倉市と藤沢市の間で合併の争奪戦が繰り広げられた後、最終的に藤沢市に編入されました。

世帯数と人口

2023年9月1日現在の世帯数と人口は、それぞれ10,178世帯、22,190人です。人口は、1995年をピークに減少傾向にあります。

学区

片瀬地区の小中学校は、藤沢市立片瀬小学校と藤沢市立片瀬中学校が中心です。また、一部地域は藤沢市立新林小学校の学区となります。

事業所

2021年の経済センサス調査によると、片瀬地区の事業所数は626、従業員数は6,010人です。

施設

駅

片瀬地区には、江ノ島電鉄線、小田急江ノ島線、湘南モノレール江の島線の駅があります。

港湾

片瀬漁港は、シラス漁などの拠点となっています。

行政施設

片瀬市民センターや片瀬公民館などの行政施設があります。

警察施設

藤沢警察署片瀬江の島交番や片瀬山駐在所があります。

消防施設

藤沢市南消防署片瀬分遣所があります。

郵便施設

片瀬郵便局があります。

その他

保育施設、福祉施設、教育施設、公園、観光施設、医療施設、宗教施設など、様々な施設があります。

文化財・名勝など

片瀬には、江の島弁才天道標、片瀬餅つき唄などの文化財があります。また、湘南海岸は新日本観光地百選にも選ばれています。

年中行事

片瀬では、初詣、節分会、湘南龍の口灯籠流し、片瀬諏訪神社例大祭、龍口寺法難会式など、様々な年中行事が行われています。

名物・名産

片瀬の名物としては、片瀬まんじゅう、江ノ電もなか、しらす、片瀬こまなどがあります。

地区内の交通機関

片瀬地区には、江ノ島電鉄線、小田急江ノ島線、湘南モノレール江の島線、江ノ電バス、神奈川中央交通バス、京浜急行バスなどの交通機関があります。

ゆかりのある著名人

片瀬には、秋月種英、朝海浩一郎、雨宮敬次郎、塩坂信康、池田健、伊藤海彦、今村繁三、江見水蔭、大沢啓二、加古里子、片山哲、香月弘美、佐江衆一、佐藤達次郎、小林哲夫、島津珍彦、杉原善之介、乃木希典、浜野直美、福永陽一郎、丸木位里・丸木俊夫妻、南流石、山内滋夫、山口弘達、山崎紫紅、山本信次郎、吉井勇、渡辺紳一郞など、多くの著名人がゆかりがあります。

片瀬の出てくる作品

片瀬は、多くの文芸作品、絵画作品、音楽作品、映像作品、コミック作品に登場します。

その他

片瀬の郵便番号は251-0032です。

脚注

この記事には、多くの脚注がついています。

参考文献

この記事は、様々な文献を参考に作成されています。

外部リンク

この記事に関連する外部リンクとして、大正時代の片瀬東浜の風景、片瀬町役場の画像、藤沢市立片瀬小学校、藤沢市立片瀬中学校、湘南白百合学園小学校、湘南白百合学園中学高等学校、学校法人湘南白百合学園などがあります。

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