琉球列島米国民政府

琉球列島米国民政府（USCAR）とは

琉球列島米国民政府（United States Civil Administration of the Ryukyu Islands）、通称USCARは、第二次世界大戦後の沖縄がアメリカ合衆国の統治下にあった時代に設置された行政機関です。この政府は、琉球政府の上位に位置し、アメリカ軍の意向に沿った政策を琉球政府に実行させるための命令機関としての役割を担いました。ただし、すべての業務を琉球政府に委ねたわけではなく、電力供給を担う琉球電力公社や琉球大学などの重要な機関は、USCARの直接的な管轄下にありました。また、USCARは独自の裁判所である「米国民政府裁判所」を設置し、司法権も行使していました。

USCARの最高責任者は、当初は民政長官と呼ばれ、統治全般の責任を担っていました。しかし、この職はアメリカ極東軍司令官が兼任していたため、実際には沖縄に駐在する民政副長官が職務権限を委任されていました。1957年になると、民政長官・副長官制は廃止され、新たに高等弁務官がその任を担うことになりました。USCARは、沖縄が日本に返還される前日の1972年5月14日に閉庁しました。

USCARの沿革

USCARの歴史は、沖縄戦におけるアメリカ軍の沖縄本島上陸と同時に始まりました。

1945年4月1日: 沖縄戦でアメリカ軍が沖縄本島に上陸した日に、琉球列島米国軍政府が設立されました。
1946年7月1日: 軍政府の権限が海軍から陸軍に移管されました。
1950年12月15日: アメリカ軍による沖縄の長期的統治を目指し、軍政府から民政府へと改組され、琉球列島米国民政府が発足しました。
1957年6月5日: 民政府の長が、高等弁務官となりました。
1969年7月25日: 浦添村（現：浦添市）にあった民政府庁舎に過激派学生が侵入し、米国民政府乱入事件が発生しました。
1972年5月14日: 沖縄返還に伴い、民政府が閉庁しました。

庁舎の変遷

USCARの庁舎は、その歴史の中で何度か移転を繰り返しました。

1945年4月1日: 米軍は沖縄本島に上陸すると同時に、読谷村比謝に軍政府を設置しました。当初、軍政府は避難民の収容と管理を主な業務としていました。沖縄戦終結後、軍政府は具志川村栄野比（現うるま市栄野比）へ移転しました。
1946年10月: 軍政府は玉城村親慶原（現：南城市）の知念補給地区へと移転しました。また、同年4月24日に石川市東恩納（現：うるま市東恩納）に発足した沖縄民政府も、佐敷村新里（現：南城市佐敷新里）の新里通信所へと移転しました。
1949年7月25日: 沖縄民政府は、まず那覇市久米の旧上山国民学校へ、その後すぐに隣接する旧天妃国民学校へ移転しました。これに伴い、米軍政府も同年12月に那覇市久米の旧上山国民学校に移転し、軍政府長官は那覇市を沖縄の首都とすることを発表しました。
1953年4月28日: 那覇市泉崎に琉球政府行政ビルが完成し、USCARはその上層階に、琉球政府は下層階に移転しました。
1968年1月8日: USCARは、最後の庁舎となる浦添村（後の浦添市）小湾の牧港補給地区へと移転しました。

USCARの組織

USCARは、時代とともにその組織構造も変化しました。

1952年10月10日時点の組織

民政長官（Governor）
民政副長官（Deputy Governor）
民政官（Civil Administrator）
副民政官（Deputy Civil Administrator）
行政官（Executive Officer）
総務課（Administrative Section）
統計課（Programs & Statistics Section）
財政部（Finance Department）
経済部（Economics Department）
通信部（Communications Department）
民間情報教育部（Civil Information & Education Department）
補給部（Supply Department）
公益事業部（Public Services Department）
公衆衛生福祉部（Public Health & Welfare Department）
行政法務部（Government & Legal Department）
宮古民政官府（Miyako Civil Administration Team）
八重山民政官府（Yaeyama Civil Administration Team）
奄美民政官府（Amami Civil Administration Team）

1958年1月10日時点の組織

高等弁務官（High Commissioner）
首席民政官室（Office of Civil Administrator）
渉外室（Liaison Office）
渉外報道局（Office of Public Information）
総務部（Office of Administrative Services）
財政部（Finance Department）
法制法務部（Legislative & Legal Department）
経済開発部（Economic Development Department）
司法部（Judicial Department）
保安部（Public Safety Department）
教育部（Education Department）
公衆衛生福祉部（Public Health & Welfare Department）
労働部（Labor Department）
宮古民政官府（Miyako Civil Administration Team）
八重山民政官府（Yaeyama Civil Administration Team）

歴代長官

USCARの歴代長官は以下の通りです。

民政長官

ダグラス・マッカーサー陸軍元帥
マシュー・リッジウェイ陸軍中将
マーク・W・クラーク陸軍大将
ジョン・エドウィン・ハル陸軍大将
マクスウェル・D・テイラー陸軍大将
ライマン・L・レムニッツァー陸軍大将

民政副長官

ロバート・S・ビートラー陸軍少将
ハリー・B・シャーマン陸軍准将
ロバート・S・ビートラー陸軍少将
デビッド・A・D・オグデン陸軍少将
ジェームス・E・ムーア陸軍中将

高等弁務官

ジェームス・E・ムーア陸軍中将（民政副長官から留任）
ドナルド・P・ブース陸軍中将
ポール・W・キャラウェイ陸軍中将
アルバート・ワトソン2世陸軍中将
フェルディナンド・T・アンガー陸軍中将
* ジェームス・B・ランパート陸軍中将

まとめ

琉球列島米国民政府（USCAR）は、沖縄がアメリカ統治下にあった時代に、沖縄の政治、経済、社会に大きな影響を与えた行政機関でした。その歴史と組織構造を理解することは、沖縄の戦後史を考える上で重要な要素となります。

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