琉球神道

琉球神道：琉球の精神文化を紐解く

琉球神道は、古琉球および琉球王国時代に育まれた、独自の多神教的信仰体系です。教典や教義、開祖を持たない点は日本神道と共通しますが、自然崇拝や祖霊崇拝といったアニミズム的な要素が色濃く反映されています。

琉球神道とは

広義には、奄美群島から沖縄諸島、先島諸島にかけて見られる土着信仰全般を指します。狭義には、琉球王国時代に祭政一致体制のもとで整備された宗教を指し、王国はノロや聞得大君を重用する一方で、ユタなどの土着信仰を弾圧しました。現在では、民間信仰として形を変え、ニライカナイ信仰や御嶽信仰として地域に残っています。

民俗学者の折口信夫は、琉球神道を日本本土の神道の分派、あるいは巫女教時代の面影を残すものと捉えました。鳥越憲三郎は、御嶽信仰と火神信仰を琉球宗教の二大潮流とし、火神が日神と同一視され、権力の象徴となったと述べています。宮里朝光によれば、琉球の固有宗教は社会全体の平和と繁栄を祈願するものであり、祖霊神、祖先崇拝、火神、ニライ・カナイ、おなり神、水のセジ、万物有霊などの要素を含んでいます。

信仰の由来

琉球神道は自然発生的に生まれたと考えられています。ノロの世襲制、ユタの原始的な召命、御嶽の古代集落を原型とする祖霊崇拝、おなり神信仰の母系社会の名残など、古代信仰の形式を色濃く残しています。

セジ

「セジ」とは、霊力を意味する言葉です。剣につけば霊剣、石につけば霊石となり、人につけば超人となると言われます。仲松弥秀は、セジを「人間としては不可能なことを成し得る能力」と解釈し、琉球には無数の神が存在すると述べています。

神

琉球の神は、「来訪神」と「守護神」に大別されます。来訪神は異界から訪れる神であり、守護神は祖霊が神となった存在です。太陽神を最高神とする多神信仰であり、ニライカナイの最高神である東方大主や、琉球の創造神であるアマミキヨなどが特に著名です。

御嶽（ウタキ）

御嶽は、村落の守護神が住む聖域であり、村落の構成員と血縁関係を持つ氏祖が祀られています。御嶽は、日本本土の神社の原初的な形態である神籬の形式を伝えていると考えられています。鳥越憲三郎は、村落成立の条件として、経済的条件、自然的条件、宗教的条件の3つを挙げています。

ヲナリ神

ヲナリ神とは、兄弟を守護する姉妹を神格化したものです。沖縄本島の女性は、兄弟を持つ限りにおいてヲナリ神となり、琉球宗教の基本概念の一つとなっています。政治的実権者とその姉妹から選ばれた巫女による祭政一致の政教二重主権は、ヲナリ神の信仰に基づいています。

巫女

沖縄本島の民間社会では、ノロなどの神人と、ユタなどのシャーマンが宗教的機能を担っています。ノロは御嶽などで公的祭祀を司り、ユタは個々の家や家族に関する私的な呪術信仰に関わります。桜井徳太郎は、両者を沖縄民間信仰を支える車の両輪と述べています。

ノロ

ノロは、御嶽などで村落の公的祭祀を行う女神官です。根所と呼ばれる家から選ばれた根神が神託を受け、根人が政治的実権を行使する政教二重主権が生まれました。琉球統一後、ノロは聞得大君を頂点とする官僚的神官組織に組み込まれました。

ユタ

ユタは、死霊の憑依を受けて託宣を述べる口寄せ巫女であり、部落や村落の個々の家や家族に関する私的な呪術信仰に関わります。ユタになるには、カミダーリィと呼ばれる心身異常の状態を経験する必要があります。

沖縄本島の祖霊信仰

沖縄本島は、祖先崇拝が盛んな土地として知られています。桜井徳太郎は、沖縄本島独特の他界観念として後生観を挙げ、死者は生前と同じ生活様式をとると考えられていると述べています。墓は現世の家屋と同じ形態を備え、死後の生活に対する明るい観念が墓造りに対する喜びの感情を抱かせていると鳥越憲三郎は推察しています。

折口信夫によれば、琉球では自分の祖先でも死後七代目には必ず神になると信じられていました。

他界概念

琉球神道では、ニライカナイとオボツカグラという他界概念を想定します。ニライカナイは海の彼方、あるいは地底にある豊穣と命の根源となる異界であり、オボツカグラは天空にある権威的な異界です。西方は魔界があるとされています。

琉球王国における体系化と東方信仰

琉球王国は、祭政一致の政策を敷き、各地の類似信仰を吸収・統制しました。聖域を「御嶽」という呼称に統一し、ノロを階級化し、太陽神を最高神とする東方信仰を根幹に置きました。太陽が昇る穴（太陽が穴：てぃだがあな）がある東方は神域と考えられ、西方は死の領域として忌避されました。

先島の信仰

琉球王国は先島を勢力下に収めるたびに、この信仰をその地に広め、現地にノロや司を置きました。ただし、王国と敵対したオヤケアカハチが信仰していた八重山地方のイリキヤアマリ神信仰のように、王府により禁制された信仰も存在します。

奄美の信仰

奄美群島では、ウナリ神信仰を基盤とした祭政一致社会が見られました。琉球勢力が奄美に及ぶと、御嶽信仰やノロ制度も入ってきました。薩摩藩の琉球侵攻により奄美群島の実効支配を喪失すると、大和の神仏習合的宗教が本格的に流入しました。

日本神道との類似性

伊波普猷は、『中山世鑑』の起源神話と『古事記』の淤能碁呂島神話などの類似を指摘し、日琉神話の比較研究の必要性を説きました。松本信廣は、日本開闢神話をポリネシア創世神話の複合形であるとし、琉球の古伝説を中間に置くと関係が明確になると述べました。大林太良は、記紀に記された古典神話に親縁の諸モチーフが南西諸島に残存していることを指摘し、記紀以前の日本神話の古い形を再構成する可能性があると述べました。

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