盛巌寺 (恵那市)

盛巌寺（せいがんじ）

盛巌寺は、岐阜県恵那市岩村町殿町に位置する曹洞宗の寺院です。山号を久昌山と称し、恵那三十三観音霊場の十一番札所となっています。

歴史

盛巌寺は、天正18年（1590年）に大給松平家の松平家乗によって開基されました。家乗は、父祖の供養のため、上州那波（現在の群馬県）に盛巌寺を創建し、江戸浅草の総泉寺から雄山傳英を招いて開山としました。大給松平家には元々浄土宗の龍巌寺という菩提寺がありましたが、家乗は曹洞宗も敬い、先祖の冥福を祈るために盛巌寺を創建したのです。

山号「久昌山」と寺号「盛巌寺」は、家乗の父である松平真乗の法号「梅香院殿盛巌道翁大禅定門」と、祖父である松平親乗の戒名「空源院殿久浄昌大居士」に由来しています。

開山の雄山傳英が慶長2年(1597年)に上州那波で遷化したため、玄室慈頓が二世となりました。慶長6年（1601年）、家乗が美濃の岩村藩主に移封されると、盛巌寺と龍巌寺も岩村城下に移されました。その後、二世の玄室慈頓が岩村で遷化したため、恵那郡大井村の長国寺から體巌雲恕を招いて三世とし、體巌派の祖となりました。また、家乗は盛巌寺に恵那郡阿木村の30石を寺領として寄進しました。

四世は、玄室慈頓の弟子の乾中元貞が継ぎ、通元派の祖となります。寛永15年（1638年）、大給松平家が浜松藩へ転封となると、盛巌寺も浜松に移り、岩村の盛巌寺には十五人扶持が残されました。乾中元貞は三人扶持（後に五人扶持）を与えられ、浜松の盛巌寺に大給松平家歴代の位牌を携えて移りました。これにより、盛巌寺は「一山 両 盛巌寺」となりました。岩村の盛巌寺は大給松平家の庇護を離れることとなりましたが、體巌派の天叟全龍が五世となり、岩村の豪商である松田自休が私財を投じて寺の修繕を行い、法鐘を鋳造したことで、恵那郡における曹洞宗の中心的な寺院として繁栄しました。

その後、大給松平家は、館林藩、唐津藩、鳥羽藩、亀山藩、淀藩、佐倉藩、山形藩と転封を繰り返したため、盛巌寺と龍巌寺もその都度移転しました。最終的に、大給松平家は明和元年(1764年)に山形藩から三河の西尾藩に移封となり、廃藩置県まで存続したため、愛知県西尾市にも大給松平家の菩提寺である盛巌寺が存在します。

延享5年(1748年)3月16日の記録では、岩村藩領の寺の筆頭として「岩村 曹洞宗 盛巌寺」と記されています。天明3年(1783年)には、本尊の釈迦如来と、脇侍の文殊菩薩と普賢菩薩が寄進されました。この時の本尊は宝冠を戴き、胸飾を付けた菩薩形の姿をしています。

建物

元禄16年(1703年)の「岩村指出帳」によると、当時の盛巌寺の建物は以下の通りでした。

仏殿：六間半九間、向拝 横七尺長二間半 柿葺
位牌所：長三間横二間半
庫裡：五間九間
禅堂：四間七間
山門：九尺四面
廻廊：九尺十間
惣門：一丈九尺
鎮守社：三尺四面
境内：七十間二十八間
鐘楼：九尺四面（後に追加）

現在の盛巌寺も、この規模をほぼ維持していますが、庫裡が拡張され、土蔵が建てられるなど、一部変化が見られます。惣門は失われています。

寺宝

盛巌寺には、数々の貴重な寺宝が伝わっています。

釈迦刺繍涅槃図: 慶安2年(1649年)に制作された刺繍による涅槃図で、縦400cm、幅300cmの大きさです。名古屋の縫屋、桜井三郎左衛門尚従によって制作されました。一見すると絵画のようですが、近くで見ると、釈迦如来が金糸で表現されているなど、非常に立体感があります。恵那市指定文化財です。
紙本六字名号帳: 長さ950cm、幅676cmの壮大な名号帳です。中央に「佛」の一文字を籠字で書き、その余白に「南無阿弥陀佛」の六字名号が整然と書かれています。籠字の「佛」の中にも朱字の六字名号が書かれており、その数は数えきれないほどで、俗に百万篇と伝えられています。この名号帳は、天明7年(1787年)に、松平乗薀の家臣で郡奉行を務めていた田中而禿源上秀によって書かれました。

その他にも、本尊の釈迦如来像や十六羅漢像など21体の仏像、画軸、屏風、額、仏具などがあります。境内には、元禄10年(1697年)に尾張の水野庄左衛門正常によって制作された殿鐘も現存しています。

龍巌寺(龍岩寺)

浄土宗の龍巌寺は、盛巌寺と同じく、慶長6年（1601年）に松平家乗が岩村藩に移封された際に、現在の大名墓地の場所に建立されました。松平家乗は慶長19年（1614年）に亡くなり、盛巌寺ではなく、龍巌寺の墓地に埋葬されました。龍巌寺の境内には、位牌や仏像が安置された大きな堂が建てられましたが、後に朽ち果て、跡地に『松平前泉州家乗之墓』と刻まれた墓石が建てられました。

大給松平家が浜松藩へ転封された際、龍巌寺は岩村に伽藍を残したまま浜松へ移りました。その後、大給松平家は転封を繰り返し、龍巌寺もその都度移転しましたが、山形藩時代に無住の寺となり、西尾藩では伽藍が建てられることはありませんでした。

妙仙寺

寛永15年（1638年）、岩村藩主となった丹羽氏信は、龍巌寺の伽藍を譲り受け、一色丹羽氏の菩提寺である妙仙寺を尾張の岩崎城下から移しました。しかし、元禄15年（1702年）に丹羽氏音が越後高柳藩に移封となると、妙仙寺も岩村を去り、越後高柳へ移りました。

乗政寺

次に岩村藩主となった大給松平家(乗政流)の松平乗紀は、妙仙寺の伽藍を譲り受け、菩提寺の乗政寺を信濃の小諸城下から移しました。これにより、松平家乗の墓は乗政寺の境内となりました。乗政寺は幕末に廃され、伽藍は残っていませんが、跡地には岩村藩主とその家族、重臣の墓が残り、大名墓地(乗政寺墓地)として知られています。この墓地には、松平家乗の父である松平真乗の供養塔と、松平家乗の妻の供養塔も残っています。

関連寺院

盛巌寺 (西尾市)
長国寺(恵那市大井町)

末寺

盛久寺(恵那市山岡町馬場山田)
林昌寺(恵那市山岡町久保原)
普門寺(恵那市山岡町下手向)
圓頂寺(恵那市上矢作町)
萬光寺(恵那市上矢作町)
玉泉寺(恵那市上矢作町下)
黄梅院(恵那市串原)
[萬嶽寺]
宗泉寺(中津川市)
東圓寺(中津川市)

参考文献

『岩村町史』　十八　江戸時代の宗教　3 寺院　盛厳寺　p312～p314　岩村町史刊行委員会　岐阜県岩村町役場　1961年
『恵那郡史』　第六篇　戦国時代　第二十六章　禅宗の興隆　【曹洞宗】　p200～p202　恵那郡教育会　1926年
『恵那郡史』　第八篇　現代　第四十一章　人文の発展(一)　【各宗寺院】　p612～p619　恵那郡教育会　1926年
『岐阜県百寺』　盛厳寺　p194～p195　郷土出版社　1987年
『女城主の里　いわむら』　岩村町企画商工観光課　p59
『西尾市史 2 (古代・中世・近世 上)』　三 在地勢力と宗教　（一）禅宗寺院の創建　盛巌寺と大給松平氏　p299～p302　西尾市史編纂委員会　1974年

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