神威岬

北海道積丹半島の北西部に位置する神威岬（かむいみさき）は、その尖った形状が日本海へ向かって力強く突き出した景勝地です。この岬一帯はニセコ積丹小樽海岸国定公園に含まれており、豊かな自然環境に恵まれています。

岬の先端部は積丹半島の突端を形成しており、1980年代以降、観光地として本格的に整備が進められました。現在では、岬の付け根にある駐車場から最先端まで、尾根伝いに約770メートル続く遊歩道「チャレンカの道」が整備されており、片道20分から30分ほどの散策を楽しむことができます。ただし、強風時には安全のため遊歩道が閉鎖される場合がありますので注意が必要です。

遊歩道の高台からは、息をのむような景色が広がります。左手には、起伏に富んだ神威岬自身の荒々しい地形が眼前に迫り、右手には海岸線にそそり立つ巨岩「水無しの立岩」が見えます。そのさらに奥には石狩湾が広がり、天気の良い日には湾を挟んで暑寒別岳をはじめとする石狩山塊まで遠望できます。岬の先端部は、稜線がそのまま垂直に海へ落ち込むダイナم断崖絶壁となっており、その迫力は圧巻です。沖合およそ400メートルには、高さ41メートルにもなる神威岩という岩礁がたたずんでいます。遊歩道の最先端付近からは、およそ300度もの広範囲を見渡すことができ、水平線がわずかに丸みを帯びて見える地球の丸さを感じられる場所でもあります。

積丹半島周辺の海域は、北海道で唯一の海中公園に指定されており、その透明度が高く、鮮やかな青色の海水は「シャコタンブルー」と称され多くの人々を魅了しています。この地は貴重な動植物の宝庫でもあり、特に夏には黄色いエゾカンゾウの花が咲き乱れ、景観に彩りを添えます。また、冬期にはオオワシやオジロワシといった大型の猛禽類が観察されることもあります。

「神威」という名は、アイヌ語で「神」を意味する「カムイ」に由来します。古くは「御冠岬」や「オカムイ岬」とも呼ばれていました。

神威岬沖の海域は、古くから海難事故が多発する暗礁の多い場所であり、「魔の海」として海上交通の難所として知られていました。積丹町の歴史書によると、江戸時代には和人の女性を乗せた船がこの沖を通ると海神の怒りを買い、船が遭難したり漁業が不振になったりするといった伝承がありました。このため、蝦夷地を支配していた松前藩は、1691年（元禄4年）以降、神威岬より奥地への和人女性の立ち入りを禁じる「女人禁制」の措置を敷きました。

女人禁制については、悲しい伝説も語り継がれています。奥州衣川を脱出した源義経が蝦夷地へ逃れた際、日高地方のアイヌの首長の娘チャレンカと恋仲になりました。しかし、大陸へ渡るという野望を捨てきれなかった義経は、チャレンカを置いてさらに北へ向かいます。義経を慕ってこの岬まで追ってきたチャレンカは、真実を知って絶望し、海へ身を投げてしまいました。チャレンカの怨念が神威岩に姿を変えた、とも伝えられています。彼女が今際の際に「婦女を乗せた船がここを通れば沈没するだろう」と叫んだことから、「和人の女がこの付近に近づけば、チャレンカの怒りに触れて祟られる」と信じられ、岬一帯が女人禁制の地になったとされています。

しかし、実際には、和人が岬以北に定住することで、ニシン漁などの経済的な権益が損なわれることを恐れた松前藩が、現地の民衆が信じていたタブーを利用して規制を行った側面が強いと考えられています。神威岬以北へのニシン漁に出稼ぎに出た夫や恋人を案じる女性たちの心情は、北海道民謡「江差追分」の歌詞にも歌われています。また、小樽市の「オタモイ地蔵尊」には、恋人に会うために北前船に隠れて密航しようとした女性が、神威岬沖での嵐に巻き込まれ、「自分が乗ったせいだ」と責任を感じて海に身を投げたという伝承が残されています。

幕末になり、江戸幕府が蝦夷地を直接統治するようになると、1855年（安政2年）に女人禁制が解除されました。箱館奉行所の役人であった梨本弥五郎が、蝦夷地北端の宗谷へ赴任する際に妻を同伴して神威岬沖を通過しました。彼は「将軍の家来として公務で通るのに、なぜ神の罰を受けねばならないのか」と叫び、岬へ向けて一発の銃弾を放ったと伝えられています。これが迷信を打ち破るきっかけとなり、以降、岬の北側にも女性が定住するようになりました。

日露戦争の際には、ロシア艦隊の来襲に備えるため、神威岬に監視所が設置されていました。

神威岬の沖合では、1940年8月2日にマグニチュード7.5の「積丹半島沖地震」、あるいは「神威岬沖地震」と呼ばれる大きな地震が発生しています。

岬周辺にはいくつかの関連施設があります。遊歩道の入り口にある「女人禁制の地・神威岬」と刻まれた門は、1995年に積丹町が設置したもので、かつての歴史を伝えるためのものです。現在、女性の通行は一切制限されていません。

神威岬灯台は、1888年（明治21年）8月25日に北海道で5番目の灯台として点灯を開始しました。その後改修を経て、現在は無人化されています。特に注目されるのは、1923年から1960年まで使用されていたフレネル式第一等不動レンズです。高さ3メートル、直径2メートル、光達距離約43キロメートルという巨大なこのレンズは、明治期に輸入された大型灯台レンズとしては唯一現存する貴重なもので、2022年8月26日からは岬内の施設「カムイ番屋」で展示されています。

太平洋戦争中の1942年（昭和17年）に設置されたレーダーの跡である「電磁台（電波探知塔）」も残っています。

神威岬の近く、ワクシリ岬にある「念仏トンネル」も興味深い場所です。全長約60メートル、幅・高さ各2メートルのこのトンネルは、1918年（大正7年）11月8日に開通しました。現在は立ち入り禁止となっていますが、かつては神威岬先端へ向かう唯一の道でした。このトンネル掘削のきっかけは、1912年に灯台守の家族3人が荒波にさらわれて命を落とした事故でした。余別村の村民が灯台職員家族の安全な通行路を確保するために1914年に掘削を開始しましたが、精密な測量もなく両側から掘り進めたため、なかなか貫通しませんでした。そこで作業していた村人たちは、念仏を唱えながら鐘を打ち鳴らし、その音を頼りに互いの位置を確認して掘り進めた結果、ようやく貫通に至ったという逸話が残っています。完成したトンネルは内部がクランク状に曲がっており、日光が一切差し込まないため真っ暗です。そのため、念仏を唱えながら通ると安全であると伝えられていました。

神威岬へは、国道229号から分岐する道路を利用して駐車場まで車でアクセスするのが一般的です。公共交通機関を利用する場合、鉄道は函館本線余市駅で下車し、北海道中央バスに乗り換えます。余市町方面や積丹町中心部からは「積丹線」または「高速しゃこたん号」で終点美国へ行き、そこから予約制の「積丹町生活交通バス」に乗り換えて「積丹神威岬」バス停で下車します。このバスは4月から11月までの運行です。岩内町や神恵内村方面からのバスによる直接のアクセス手段はありません。

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