荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論

『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』

『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』は、漫画家・荒木飛呂彦が自身の創作活動に影響を与えたホラー映画について、独自の視点から深く掘り下げた映画評論集です。集英社新書の一冊として2011年に刊行されました。

概要

本書は、荒木氏が「作家」と「絵描き」という二つの視点から、ホラー映画を分析・評論した「偏愛的映画論」です。全10章で構成され、各章で異なるテーマのホラー映画を取り上げています。単なる作品紹介にとどまらず、荒木氏自身の作品との関連性や、独自の解釈が盛り込まれている点が特徴です。また、13点の描き下ろしイラストが収録されており、視覚的にも楽しめる一冊となっています。

取り上げられている作品は、メジャーなものからマイナーなものまで幅広いですが、荒木氏がホラー映画に傾倒するきっかけとなった『エクソシスト』（1973年）以降の作品、いわゆるモダンホラーが中心です。そのため、それ以前の古典的なホラー映画や、近年のJホラーについてはほとんど触れられていません。

巻末には、本書で取り上げられた映画のリストが年代順に掲載されており、映画ファンにとっては資料としても価値のある一冊と言えるでしょう。なお、続編としてサスペンス映画をテーマにした『荒木飛呂彦の超偏愛! 映画の掟』が2013年に刊行されています。

評論内容

まえがき

本書の冒頭では、荒木氏がホラー映画をどのように捉えているのか、そして読者にどのように鑑賞してほしいのかが解説されています。ホラー映画に対する深い愛情と、独自の視点が伝わってくるでしょう。

各章のテーマと解説作品

各章では、以下のテーマに基づき、様々なホラー映画が紹介・評論されています。

第一章：ゾンビ映画

荒木氏が最も愛するジャンルの一つであるゾンビ映画。その魅力を語る上で欠かせない作品として『ゾンビ』を中心に、ゾンビの本質とは何かを考察しています。『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』など、ゾンビ映画の歴史を語る上で重要な作品も取り上げられています。

解説作品
『ゾンビ』 (1978年)
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』 (1968年)
『サンゲリア』 (1979年)
『バタリアン』 (1985年)
『ブレインデッド』 (1992年)
『ショーン・オブ・ザ・デッド』 (2004年)
『死霊のはらわた』 (1981年)
『28日後...』 (2002年)
『アイ・アム・レジェンド』 (2007年)
『30デイズ・ナイト』 (2007年)
『フロム・ダスク・ティル・ドーン』 (1996年)
『REC/レック』 (2007年)
『REC/レック2』 (2009年)
『ゾンビランド』 (2009年)
『ランド・オブ・ザ・デッド』 (2005年)

第二章：「田舎に行ったら襲われた」系ホラー

都市部から離れた田舎を舞台に、そこで暮らす人々から襲われる恐怖を描いたホラー映画について考察しています。『悪魔のいけにえ』を筆頭に、田舎という閉鎖的な空間がもたらす恐怖に迫ります。

解説作品
『悪魔のいけにえ』 (1974年)
『地獄のモーテル』 (1980年)
『脱出』 (1972年)
『わらの犬』 (1971年)
『サランドラ』 (1984年)
『ヒルズ・ハブ・アイズ』 (2006年)
『2001人の狂宴』 (2005年)
『蝋人形の館』 (2005年)
『2000人の狂人』 (1964年)
『ハイテンション』 (2003年)
『ヒッチャー』 (1986年)
『キャビン・フィーバー』 (2002年)
『ホステル』 (2005年)
『変態村』 (2004年)
『モーテル』 (2007年)
『ジーパーズ・クリーパーズ』 (2001年)
『正体不明 THEM』 (2006年)

第三章：ビザール殺人鬼映画

ブギーマンやジェイソンなど、強烈な個性を放つ殺人鬼が登場する映画について考察しています。ホラー映画におけるヒロインの描かれ方についても言及しており、荒木氏の独特な視点が際立つ章です。

解説作品
『ハロウィン』 (1978年)
『13日の金曜日』 (1980年)
『エルム街の悪夢』 (1984年)
『クライモリ』 (2003年)
『プロムナイト』 (1980年)
『血のバレンタイン』 (1981年)
『スクリーム』 (1996年)
『リンク』 (1986年)
『トワイライト〜初恋〜』 (2008年)

第四章：スティーブン・キング・オブ・ホラー

ホラー小説界の巨匠、スティーブン・キングの映像化作品について考察しています。長編映画だけでなく、オムニバス映画の中の短編作品にも触れており、キング作品の魅力を多角的に分析しています。

解説作品
『キャリー』 (1976年)
『殺しのドレス』 (1980年)
『シャイニング』 (1980年)
『ミザリー』 (1990年)
『ミスト』 (2007年)
『ペット・セマタリー』 (1989年)
『デッドゾーン』 (1983年)
『痩せゆく男』 (1996年)
『ドリームキャッチャー』 (2001年)
『クリープショー』 (1982年)
『フロム・ザ・ダークサイド/3つの闇の物語』 (1990年)
『ドランのキャデラック』 (2009年)

第五章：SFホラー映画

『エイリアン』に代表される、SF要素を取り入れたホラー映画について考察しています。特に、リメイク作品を好むという荒木氏の視点から、作品の魅力を語っています。

解説作品
『エイリアン』 (1979年)
『遊星からの物体X』 (1982年)
『ブロブ/宇宙からの不明物体|ブロブ_宇宙からの不明物体』 (1988年)
『ファントム』 (1998年)
『ディセント』 (2005年)
『ディセント2』 (2009年)
『ステップフォード・ワイフ』 (2004年)
『インビジブル』 (2000年)
『マイノリティ・リポート』 (2002年)

第六章：アニマルホラー

『ジョーズ』を代表とする、動物が恐怖の対象となるアニマルホラーについて考察しています。動物という身近な存在が恐怖の対象となることへの考察は、独自の視点と言えるでしょう。

解説作品
『ジョーズ』 (1975年)
『オープン・ウォーター』 (2003年)
『ディープ・ブルー』 (1999年)
『リンク』 (1986年)
『モンキー・シャイン』 (1988年)
『アラクノフォビア』 (1990年)

第七章：構築系ホラー

『ソウ』や『キューブ』など、ソリッドシチュエーションとも呼ばれる新しいジャンルのホラーについて、荒木氏が「構築系」と名付け考察しています。密室や限られた空間で展開される恐怖を分析しています。

解説作品
『デストラップ・死の罠』 (1982年)
『ファイナル・デスティネーション』 (2000年)
『キューブ』 (1997年)
『ソウ』 (2004年)
『アイデンティティー』 (2003年)
『es［エス］』 (2001年)
『THE WAVE ウェイヴ』 (2008年)

第八章：不条理ホラー

『ファニーゲーム』に代表される、「わけがわからない」という感覚が恐怖につながる不条理ホラーについて考察しています。理解を超えた恐怖を描く作品について、独自の解釈を展開しています。

解説作品
『ファニーゲーム』 (1997年)
『ザ・チャイルド』 (1976年)
『フォーガットン』 (2004年)
『ハプニング』 (2008年)
『シックス・センス』 (1999年)
『スペル』 (2009年)

第九章：悪魔・怨霊ホラー

『エクソシスト』や『オーメン』といった、悪魔や怨霊をテーマにしたホラー映画について考察しています。また、『リング』や『呪怨』といったJホラーについても言及しています。

解説作品
『エクソシスト』 (1973年)
『オーメン』 (1976年)
『ヘル・レイザー』 (1987年)
『ケース39』 (2009年)
『エスター』 (2009年)
『ナインスゲート』 (1999年)
『パラノーマル・アクティビティ』 (2007年)
『リング』 (1998年)
『ザ・リング』 (2002年)
『呪怨』 (2002年)
『THE JUON/呪怨|THE JUON_呪怨』 (2004年)

第十章：ホラー・オン・ボーダー

『エレファント・マン』や『羊たちの沈黙』など、厳密にはホラー映画ではないものの、ホラーテイストを含んでいると感じられる作品について考察しています。ジャンルを超えて、恐怖という感情を考察する、荒木氏ならではの視点が光る章です。

解説作品
『羊たちの沈黙』 (1991年)
『セブン』 (1995年)
『バスケットケース』 (1982年)
『エレファント・マン』 (1980年)

あとがき

「恐怖映画とは何なのか」という問いかけから始まり、東日本大震災後の出来事に触れながら、ホラー映画が持つ癒しの効果について考察しています。荒木氏自身の経験に基づいた視点から、ホラー映画の本質に迫る内容となっています。

まとめ

『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』は、単なる映画評論集にとどまらず、荒木飛呂彦という一人の作家が、自身の創作活動の源泉となったホラー映画を深く掘り下げた、非常に読み応えのある一冊です。ホラー映画ファンはもちろん、漫画家・荒木飛呂彦のファンにとっても必読の書と言えるでしょう。映画の見方、作品の解釈に新たな視点を与えてくれるはずです。

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