藤原御楯

藤原御楯（ふじわら の みたて）

藤原御楯は、奈良時代の公卿であり、藤原北家の祖である参議・藤原房前の六男として生まれました。初名は千尋（ちひろ）といいました。

生涯

聖武天皇の治世末期の天平勝宝元年（749年）4月に、従五位下に叙爵されたのが記録に見える最初の官位です。同年7月には孝謙天皇の即位に伴い、従五位上に昇進しました。御楯の同母兄である永手や八束が藤原仲麻呂と対立する中で、御楯は仲麻呂の長女である児依を室に迎え、姉の宇比良古も仲麻呂の妻であったことから、仲麻呂の側近として活動していたと推測されています。天平勝宝9歳（757年）には、仲麻呂が大炊王を皇太子に擁立し、紫微内相として権力を掌握すると、御楯も同年5月に正五位下、8月には正五位上へと急速に昇進しました。

天平宝字2年（758年）、大炊王が淳仁天皇として即位すると、千尋は唐風の名前である御楯に改名し、従四位下に昇進しました。翌天平宝字3年（759年）には、従四位上・参議に任じられ、兄の永手・八束・清河に続き、房前の子息4人が同時に公卿に名を連ねることとなりました。天平宝字5年（761年）には、孝謙上皇と淳仁天皇が御楯の邸宅に行幸したことで、二階昇進して正四位上、さらに同年10月には従三位に昇進し、兄の真楯（八束）と肩を並べるほどの地位を得ました。

御楯は、授刀衛の長官（授刀督）として、仲麻呂政権において特に軍事面を担当していました。その軍事的な手腕は、当時の政権運営において重要な役割を果たしていたと考えられています。

天平宝字8年（764年）6月9日、御楯は亡くなりました。最終的な官位は参議従三位授刀督兼伊賀近江按察使でした。御楯の死は、同年9月に発生した藤原仲麻呂の乱において、仲麻呂が敗退する間接的な原因になったと考えられています。御楯の死後、神護景雲2年（768年）5月、その旧領のうち100町が、舅である仲麻呂の越前国の田地200町とともに西隆寺に喜捨されました。このことは、御楯が仲麻呂政権においていかに重要な人物であったかを物語っています。

官歴

『続日本紀』に記載されている御楯の官歴は以下の通りです。

時期不詳：正六位上
天平勝宝元年（749年）4月1日：従五位下
天平勝宝元年（749年）7月2日：従五位上
天平勝宝2年（750年）5月14日：美濃守
天平勝宝9歳（757年）5月20日：正五位下
天平勝宝9歳（757年）8月4日：正五位上
天平宝字2年（758年）8月1日：従四位下（この時名を「御楯」と記される）
天平宝字3年（759年）6月16日：従四位上・参議
天平宝字4年（760年）6月7日：装束司（光明皇太后崩御）
時期不詳：授刀督、大弁、侍従
天平宝字5年（761年）1月16日：兼伊賀近江若狭按察使
天平宝字5年（761年）8月12日：正四位上（越階）
天平宝字5年（761年）10月28日：従三位
天平宝字8年（764年）6月9日：薨去（参議従三位授刀督兼伊賀近江按察使）

系譜

『尊卑分脈』によると、御楯の系譜は以下の通りです。

父：藤原房前
母：牟漏女王（美努王の娘）
妻：藤原児依（藤原仲麻呂の長女）

参考文献

野村忠夫「永手・眞楯（八束）・御楯（千尋）: 八世紀中葉の藤原北家」『史聚』第12号、駒沢大学大学院史学会古代史部会、1980年5月。（のち、野村忠夫『奈良朝の政治と藤原氏』吉川弘文館〈1995年1月〉に収録。）
宇治谷孟『続日本紀 全現代語訳 （中）』講談社〈講談社学術文庫〉、1992年。
黒板勝美・国史大系編修会 編『尊卑分脈 第一篇』吉川弘文館〈新訂増補国史大系〉、1987年。

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