藤原真夏

藤原真夏：激動の時代を生きた貴族

藤原真夏（ふじわら の まなつ）は、宝亀5年（774年）に生まれ、天長7年（830年）に没した奈良時代から平安時代初期にかけての貴族です。右大臣・藤原内麻呂の長男として生まれました。最終的な官位は従三位・散位に留まりましたが、その生涯は時代の大きな転換期と深く関わっていました。

桓武朝から平城朝へ

延暦22年（803年）に従五位下・中衛権少将に叙任されたのを皮切りに、真夏は急速に昇進を重ねます。春宮権亮、春宮亮を兼任し、桓武天皇の皇太子であった安殿親王（後の平城天皇）に側近として仕えました。大同元年（806年）に平城天皇が即位すると、従四位下・近衛中将に任じられるなど、その信任の厚さが窺えます。平城朝では、近衛中将のほか、内蔵頭や中務大輔といった要職を歴任し、天皇の側近として活躍しました。

嵯峨朝と薬子の変

大同4年（809年）に嵯峨天皇が即位すると、真夏は山陰道観察使として公卿に列しました。しかし、平城上皇が旧都である平城京への遷都を画策すると、真夏は造平城宮使に任じられ、上皇の腹心としてその事業に携わります。大同5年（810年）に発生した薬子の変では、当初平城宮にいましたが、事件の発覚後、文室綿麻呂とともに平安京へ召喚されました。嵯峨天皇側は、真夏の動向を探り、寝返りを促そうとしたと考えられますが、真夏は平城上皇への忠誠を貫き、変後、参議を解任され、伊豆権守、のちに備中権守へと左遷されました。

晩年と子孫

弘仁3年（812年）に罪を赦され、備中権守に復帰した真夏は、その後帰京を果たします。弘仁11年（820年）には、平城上皇の使者として正倉院御物の出納を命じられた記録が残っており、上皇の側近として再び仕えていたことがわかります。弟である藤原冬嗣が嵯峨天皇の近臣として急速に昇進する一方で、真夏の昇進は遅れましたが、弘仁13年（822年）には従三位に叙せられ、公卿の座に復帰しました。平城上皇の晩年には、大和国の国司を務め、上皇と朝廷との間を取り持つ役割を担いました。天長7年（830年）に57歳で亡くなりました。

藤原北家の嫡流は弟である冬嗣の子孫に譲りましたが、真夏の子孫からは日野家を初めとして、広橋家・柳原家・烏丸家・竹屋家・日野西家・勘解由小路家・裏松家・外山家・豊岡家・三室戸家・北小路家の計12家の堂上家が成立し、後世「真夏流」と呼ばれました。

人物像と逸話

真夏は、言葉を巧みに操り、時宜にかなった処世術に長けていたと伝えられています。また、音楽にも才能を発揮し、大嘗会において華美な演出を行ったことで、その後の大嘗会に莫大な費用がかけられるようになったという逸話も残っています。

藤原真夏は、激動の時代を生き抜き、平城上皇への忠誠を貫いた貴族として、その名が歴史に刻まれています。

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