讃岐永直

讃岐永直（さぬき の ながなお）は、平安時代前期に活躍した貴族であり、明法家として知られています。彼は、讃岐権介である讃岐浄直の子として生まれ、讃岐氏の嫡流にあたります。讃岐氏は、景行天皇の子である神櫛王を祖とする由緒ある家柄で、代々讃岐国寒川郡の郡司を務めていました。

永直の祖父である広直と父の浄直は、共に明法博士として朝廷に仕えており、永直もまたその道を歩むことになります。幼少の頃から大学寮で律令を学び、その才能を発揮しました。彼は非常に聡明で、一度聞いたことはすぐに暗記できたと言われています。

嵯峨天皇の時代、弘仁6年（815年）に明法得業生および但馬権博士に任じられ、数年後には明法試に合格しました。淳和天皇の時代、天長7年（830年）には明法博士に任命され、左/右少史、勘解由判官などの要職も歴任しました。仁明天皇の時代に入ると、承和元年（834年）には外従五位下・大判事に叙任され、承和3年（836年）には、弟の讃岐永成や従兄弟の讃岐当世らと共に公姓から朝臣姓に改姓しました。

仁明朝において、永直は大判事としての職務を全うする傍ら、勘解由次官、出雲権介、阿波権掾などの兼務もこなしました。承和13年（846年）に発生した善愷訴訟事件では、明法道の権威として中心的な役割を果たし、その裁断にあたっています。

しかし、嘉祥元年（848年）に親族である和気斉之の犯罪に連座し、土佐国（または佐渡国）へ流罪となるという不運に見舞われます。しかし、2年後の嘉祥3年（850年）に仁明天皇の恩赦により帰京を許され、仁寿3年（853年）には本位である外従五位下に復帰しました。その後、再び明法博士・大判事を歴任し、清和天皇の時代、貞観元年（859年）には内位の従五位下に叙せられています。

永直は、貞観4年（862年）に80歳で亡くなりました。最終官位は従五位下守大判事兼行明法博士でした。彼は、引退後も特別に自宅で律令の講義を行うことを許されており、その卓越した知識と指導力は、司法に携わる者たちの目標とされていました。また、朝廷が遣唐使に託して唐の明法家に質問した内容を事前に閲覧した際、すべての質問に対して正確な回答を提出したため、質問書自体が中止になったという逸話も残っています。

さらに、永直は『令集解』に多く引用されている『讃記』（現在は散逸）の著者であり、『令義解』の編者の一人であるとも言われています。彼の法制に関する深い知識と見識は、後世の法制研究に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

官歴
弘仁6年（815年）：明法得業生、兼但馬権博士
弘仁年間：奉試及第
天長7年（830年）：明法博士、右少史
時期不詳：左少史
天長8年（831年）：兼勘解由判官
時期不詳：正六位上
承和元年（834年）：外従五位下、大判事、兼勘解由次官
承和3年（836年）：公姓から朝臣姓に改姓、改本居隷右京職、兼出雲權介
承和8年（841年）：兼阿波権掾
嘉祥元年（848年）：配流（土佐国または佐渡国）
嘉祥3年（850年）：帰京
仁寿3年（853年）：復本位（外従五位下）
斉衡2年（855年）：明法博士
斉衡3年（856年）：大判事、明法博士如故
貞観元年（859年）：従五位下（内位）
貞観4年（862年）：卒去（従五位下守大判事兼行明法博士）

系譜
父：讃岐浄直
母：不詳
生母不明の子女
長男：和気時人
男子：和気永雄
女子：時康親王（後の光孝天皇）更衣

参考文献
武田祐吉、佐藤謙三訳『読み下し 日本三代実録 上』（戎光祥出版、2009年）
太田亮『姓氏家系大辞典』（角川書店、1963年）
* 宝賀寿男『古代氏族系譜集成』（古代氏族研究会、1986年）

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