道首名

道首名（みちのおびとな）：律令編纂と地方行政に尽力した良吏

道首名は、飛鳥時代から奈良時代初期にかけて活躍した貴族で、その出自は北陸地方の豪族である道氏に遡ります。道氏は阿倍氏の一族を称し、その中で首名は中央に進出し、官僚として頭角を現しました。彼は、大宝[[律令]]の制定という国家的な事業に深く関わるとともに、地方官としても優れた手腕を発揮しました。その功績は、没後も長く人々に語り継がれ、良吏の模範として称えられました。

出自と経歴

道氏の祖先は、大彦命の孫である屋主田心命とされ、阿倍氏の一族とされています。首名もその一族であり、阿倍氏との関係から中央に進出したと考えられています。また、同族と思われる道伊羅都売は天智天皇の夫人となり、光仁天皇の父である施基皇子を生んでいます。

首名は若い頃から律令を学び、その知識を活かして官吏として活躍しました。文武天皇4年（700年）には、大宝[[律令]]の選定に貢献した功績により禄を与えられました。この時、首名は律令を専門としていた19名の中で唯一の人物であったとされます。大宝元年（701年）には、右大弁の下毛野古麻呂らと共に、諸官人に対して大宝令の講説を行い、また大安寺で僧尼令の講説も行いました。

和銅4年（711年）には従五位下に叙せられ、和銅5年（712年）には平城京遷都後初の遣新羅大使に任じられました。新羅への使節としての任務を終え、和銅6年（713年）に帰国しました。

筑後守としての活躍

帰国後、首名は同年8月に筑後守に任ぜられ、さらに肥後守も兼任しました。地方官として赴任した彼は、農民に対して農業技術の指導を行い、耕作だけでなく果樹や野菜の栽培、鶏や豚の飼育方法までを規定しました。人々に新たな生業を推奨し、耕地の有効活用を促しました。当初は反発する者もいましたが、収穫が増えるにつれて人々は喜び、首名の指導に従うようになりました。

首名の治世は、単なる指導に留まらず、灌漑事業にも力を注ぎました。彼は、溜池や堤防を築き、安定した水稲耕作を可能にしました。肥後国の味生池や筑後国の多くの溜池は、首名が築いたとされています。これらの灌漑施設は、その後の地域住民の生活を支え、彼の功績を後世に伝えるものとなりました。

青木和夫は、首名が律令だけでなく中国の農業書にも通じていたと推測しています。そのため、先進的な中国の農業技術を導入し、溜池築造などの灌漑事業を成功させることができたと考えられます。

顕彰と死後

首名は、地方官として働きながらも昇進を重ね、和銅8年（715年）には従五位上、養老2年（718年）には正五位下に至りました。しかし、筑後守在任中の養老2年（718年）4月10日に亡くなりました。没後、任地の人々は首名を祠り、彼の業績を讃え、官吏の模範としました。

『続日本紀』には、首名の詳細な卒伝が記載されています。これは、通常四位以上の官人に限られる同書において例外的な措置です。この理由として、首名の出身氏族である道氏が桓武天皇の外戚であったことが指摘されています。道伊羅都売が桓武天皇の曾祖母にあたるため、道氏を顕彰する意味があったと考えられます。

また、首名の孫である道広持が承和2年（835年）に当道朝臣と改姓した際にも、首名の事跡が遺愛されていたとされています。さらに、首名の没後約150年後の貞観7年（865年）には、良吏であったという理由で従四位下の位階が追贈されました。

中央での顕彰だけでなく、首名が活躍した筑後・肥後地域では、彼の祠が現在も信仰の対象となっています。

漢詩作品

首名は文人としても知られており、『懐風藻』には彼の五言詩が一首収録されています。

正五位下筑後肥後守道公首名 一首 年五十六

> 　　　　五言 秋宴 一首

> 望苑商気艶 鳳池秋水清 晩燕吟風還 新雁払露驚

昔聞濠梁論 今弁遊魚情 芳筵此僚友 追節結雅声

官歴

『六国史』による首名の官歴は以下の通りです。

和銅4年（711年） 4月7日：従五位下
和銅5年（712年） 9月19日：遣新羅大使
和銅6年（713年） 8月26日：筑後守
時期不詳：兼肥後守
和銅8年（715年） 正月10日：従五位上
養老2年（718年） 正月5日：正五位下
* 貞観7年（865年） 11月2日：贈従四位下

まとめ

道首名は、律令選定や地方行政の両面で優れた能力を発揮した人物です。律令を専門とする知識人としての顔を持ちながら、地方においては農業指導や灌漑事業を通じて地域住民の生活を豊かにしました。彼の功績は、没後も長く語り継がれ、良吏の模範として讃えられました。現代においても、その業績は私たちの記憶に刻まれ、語り継がれていくべきでしょう。

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