郡場寛

郡場寛（こおりば かん）

郡場寛（1882年9月6日 - 1957年12月15日）は、日本の植物生理生態学者です。理学博士であり、植物生理学、生態学の発展に大きく貢献しました。旧姓は白戸。

生涯

青森県青森市に津軽藩士の家に生まれました。父は酸ヶ湯温泉の開発者であり、母は薬草に詳しく八甲田山の植物標本を採取し研究機関に送るなど、植物に関する深い知識を持つ両親のもとで育ちました。青森県第一中学校（現青森県立弘前高等学校）を卒業後、旧津軽藩時代の姓である郡場に改姓。第二高等学校を経て東京帝国大学理科大学植物学科を卒業。大学院では三好学に師事し、植物生理学の研究に没頭しました。

1913年、東北帝国大学農科大学（現北海道大学農学部）講師となり、後に教授に就任。1917年には京都帝国大学に移り、理学部植物学教室の創設に尽力。1920年、植物生理生態学講座の初代教授に就任しました。1921年からは京都府立植物園の初代園長を兼任し、植物研究の発展に貢献しました。

海外への視察も積極的に行い、1918年から1920年まで欧米に留学、ライプツィヒ大学で研究に携わりました。その後もジャワ島、欧州、南北アメリカ、満洲、内蒙古、中華民国などを訪れ、見識を広めました。

1942年に京都帝国大学を定年退官後、陸軍司政長官としてマレー軍政監部総務部に勤務。シンガポールに赴任し、昭南植物園（占領時のシンガポール植物園）園長と昭南博物館（占領時のラッフルズ博物館）館長を兼任しました。

第二次世界大戦中、郡場は敵国人であるイギリス人の元園長ホルタムや副園長コーナーが日本軍によって投獄されるのを阻止。研究の継続を支援しました。また、日本軍による園内樹木の伐採に抵抗し、徳川義親と共に植物園を戦火から守り抜きました。この功績は戦後、科学雑誌『ネイチャー』でも取り上げられ、日英の科学者交流に貢献した人物として高く評価されました。

ホルタムが戦前から品種改良を行っていた蘭は、戦後に独立シンガポールの国花となりましたが、戦時下に研究を続行させたのは郡場の功績によるものです。ホルタムは郡場を研究完成の恩人として感謝し、現地の職員や人夫は彼を「真の紳士」を意味するマレー語で「オラン・ヤン・バイ・サカリ」と呼んで敬愛しました。

また、百人一首を愛し、横笛の名手でもあった郡場は、昭南の地で日本の故郷を偲びました。

敗戦後、捕虜収容所へ収容された際、コーナーたちは郡場の釈放を願い出ましたが、彼は同胞と共に収容所に留まることを希望。コーナーは、敗戦にも関わらず立派な態度を崩さない郡場に感銘を受けたと回想しています。

1946年に帰国後、1948年に京都大学名誉教授となりました。1954年には弘前大学長に就任し、青森県初の同大学長として農学部の創設に尽力しました。青森県文化財保護協会初代会長も務めています。

1957年、弘前大学長在任中に公舎で倒れ、75歳で逝去。遺言により、遺骨は愛した八甲田山頂に散骨されました。正三位、勲一等瑞宝章を授与されています。

業績

植物学者として、日本に初めて生物測定学を導入しました。木原均、今村駿一郎、小清水卓二など、多くの門下生を育成しました。

著書には『中等新植物教科書』『植物の形態』『植物生理生態』などがあります。没後には『郡場寛先生遺稿集』が刊行された他、木原均編集による『生物学閑話─郡場寛博士との対談』が刊行されました。

栄典

* 1943年（昭和18年）5月1日 - 従三位

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