鄧嶽

鄧嶽（とうがく）

鄧嶽（とうがく、生年不詳 - 344年）は、中国東晋時代の軍人であり、字は伯山（はくざん）。本貫は陳郡陽夏県（ちんぐんようかけん）です。元々は岳という諱でしたが、康帝（こうてい）の諱に触れるため嶽と改め、後に岱（たい）とさらに改名しました。彼には冠軍将軍（かんぐんしょうぐん）となった鄧遐（とうか）という息子がいました。

生涯

鄧嶽は若くしてその軍事的才能を認められ、大将軍王敦（おうとん）の参軍（さんぐん）に任じられました。その後、従事中郎（じゅうじちゅうろう）・西陽郡太守（せいようぐんたいしゅ）を歴任。

永昌元年（322年）3月、王敦の命を受け、繆坦（びゅうたん）と共に朝廷内の反抗勢力であった尚書左僕射（しょうしょさぼくや）周顗（しゅうぎ）・驃騎将軍（ひょうきしょうぐん）戴淵（たいえん）を捕らえ、後に二人を処刑しました。鄧嶽は、諸葛瑶（しょかつよう）・周撫（しゅうぶ）・李恒（りこう）・謝雍（しゃよう）らと共に王敦の側近として知られました。

太寧2年（324年）7月、冠軍将軍に任じられていた鄧嶽は、驃騎大将軍王含（おうがん）・参軍銭鳳（せんほう）・前将軍周撫らと共に水陸5万の兵を率い、建康（けんこう、現在の南京）を攻撃するために進軍しました。

しかし、同年9月、王敦側は敗北。王含が戦死すると、鄧嶽は周撫と共に逃亡を図りました。周撫の弟で尋陽郡太守（じんようぐんたいしゅ）であった周光（しゅうこう）は、密かに鄧嶽を捕えるよう伝えましたが、周撫はこれを拒否。鄧嶽は舟を走らせ、周撫と共に西陽蛮（せいようばん）の中へ逃げ込み、その地の王である向蚕（こうさん）の保護を受けました。

太寧3年（325年）に赦令が下ると、鄧嶽は周撫と共に自首。死罪は免れましたが、禁錮（きんこ）を命じられました。

咸和元年（326年）に再び赦令が下ると、司徒（しと）王導（おうどう）から従事中郎に任じられ、後に西陽郡太守に復職しました。

咸和3年（328年）1月、反乱を起こした冠軍将軍蘇峻（そしゅん）が建康に迫ると、平南将軍（へいなんしょうぐん）温嶠（おんきょう）は、鄧嶽・督護（とくご）王愆期（おうけんき）・鄱陽郡太守（はようぐんたいしゅ）紀睦（きぼく）に水軍を率いさせ、建康救援に向かわせました。鄧嶽らは直瀆（ちょくとく）に進軍しました。

咸和4年（329年）1月、征西大将軍（せいせいだいしょうぐん）陶侃（とうかん）の命で、西城（せいじょう）を守備。蘇峻の乱が鎮圧されると、西陽郡に帰還しました。

咸和5年（330年）1月、右軍将軍（うぐんしょうぐん）郭黙（かくもく）を討伐するにあたり、鄧嶽と武昌郡太守（ぶしょうぐんたいしゅ）劉詡（りゅうく）は、譙国内史（しょうこくないし）桓宣（かんせん）の子である桓戎（かんじゅう）が郭黙の参軍であったため、桓宣が郭黙に同調すると疑っていました。鄧嶽と劉詡は、桓宣の様子を探るために西曹（せいそう）の王随（おうずい）を派遣。桓宣は子の桓戎を王随と共に大司馬（だいしば）陶侃を出迎えさせました。陶侃は疑いが晴れた桓宣を上表して武昌郡太守に任じ、鄧嶽・劉詡と共に郭黙討伐に当たらせました。

同年5月、郭黙の乱が鎮圧されると、建武将軍（けんぶしょうぐん）・都督交広二州諸軍事（ととくこうこうにりしゅうしょぐんじ）・平越中郎将（へいえつちゅうろうしょう）・広州刺史（こうしゅうしし）に任じられ、宜城県伯（ぎじょうけんぱく）に封じられました。

咸康2年（336年）10月、鄧嶽は督護王随に夜郎（やろう）を、新昌郡太守陶協（とうきょう）に興古（こうこ）を攻撃させ、全て勝利しました。都督寧州諸軍事（ととくねいしゅうしょぐんじ）を加えられ、征虜将軍（せいりょしょうぐん）に任じられました。

咸康5年（339年）3月、平南将軍に任じられ、寧州（ねいしゅう）を攻撃。成漢（せいかん）の建寧郡太守（けんねいぐんたいしゅ）孟彦（もうげん）が寧州刺史霍彪（かくひょう）を捕えて降伏しました。

煉丹家（れんたんか）の葛洪（かつこう）が家族らを連れて交阯（こうし）へ向かう途中、広州に立ち寄りました。鄧嶽は葛洪らを広州に留め、葛洪は羅浮山（らふさん）で煉丹研究や著述に励みました。鄧嶽は上表して葛洪を東官郡太守（とうかんぐんたいしゅ）に任じましたが、辞退されました。鄧嶽は葛洪の兄の子である葛望（かつぼう）を記室参軍（きしつさんぐん）に任じました。

建元2年（344年）に亡くなり、子の鄧遐が後を継ぎました。

人物・逸話

王敦が実権を握った際、鄧嶽らは驕り高ぶり、人々を煽り立て、思うがままに殺戮を行いました。人々の家や田畑を侵略し、古人の墓を掘り起こし、市場や道で略奪を行いました。識者たちはこれを見て、鄧嶽らは皆、敗れるだろうと予見しました。

東晋の東部地域は賦役が重く、これに耐えかねた多くの人々が広州へ移住してきました。鄧嶽は大量の貨幣や器物を鋳造させましたが、これにより周囲の異民族は兵器の製造方法を知ることになりました。安西将軍（あんせいしょうぐん）庾翼（ゆよく）は上表して、「東部国境は他国の侵攻が絶えず、逃亡する者も徐々に多くなり、夷狄（いてき）はその隙を窺っています。もし、鋳造の利を知れば、侵攻を止めることはできません」と憂慮しました。

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