郭黙

郭黙（かく もく）

郭黙は、西晋末から東晋初期にかけて生きた人物で、字は玄雄といい、河内郡懐県を本籍地としていました。彼の生涯は、西晋が衰退し、異民族が台頭する激動の時代を反映しています。

塢主（うしゅ）から頭角を現す

若い頃の郭黙は身分こそ低かったものの、その勇敢さは広く知られていました。河内郡太守の裴整に仕え、督将という役職に就きます。しかし、永嘉4年（310年）に前趙の軍勢が侵攻し、河内が陥落。裴整が捕らえられるという事態に陥ると、郭黙は残された人々を率いて自ら塢主となりました。彼は晋陽で前趙と戦っていた并州刺史の劉琨に使者を送り、劉琨から河内郡太守に任命され、前趙軍を防ぐよう命じられます。

懐城を拠点とした郭黙は、戦火を逃れてきた人々から略奪を行い、短期間で巨万の富を築き上げます。その結果、多くの流民が彼のもとに集まり、彼は将兵を手厚く慰撫したため、人々の心をつかんだと言われています。

しかし、郭黙の行動は非情な一面も持ち合わせていました。妻の兄である陸嘉が官米を盗んだことが発覚すると、法に則って処刑しようとしたため、陸嘉は前趙に亡命。すると郭黙は、私情を挟まない姿勢を示すために自ら妻を射殺しました。

前趙、後趙との戦い

永嘉6年（312年）には、前趙の右将軍劉参が懐城に攻め寄せてきましたが、郭黙はこれを撃退します。建興元年（313年）には、前趙の中山王劉曜が西晋の魏浚を包囲。郭黙は劉演と共に救援に向かいましたが、伏兵によって撃破され、騎兵を失いました。

建興2年（314年）、劉曜は懐城を包囲し、兵糧攻めを行います。郭黙は食糧が尽きると、妻子を人質に差し出して降伏を申し出て食糧を要求。劉曜がこれに応じると、郭黙は再び城門を閉じて抵抗しました。怒った劉曜は郭黙の妻子を殺害し、攻撃を再開。郭黙は劉琨や石勒に救援を求めますが、いずれも拒否されます。窮地に陥った郭黙は包囲を突破し、李矩に帰順を請いました。

李矩の配下となった郭黙は、建興5年（317年）に前趙軍を破るなどの戦功を挙げます。その後も、河東への侵攻や洛陽の救援などで活躍しました。大興元年（318年）には、東晋の元帝から潁川郡太守に任じられます。

東晋への亡命と蘇峻の乱

太寧2年（324年）、後趙の石聡との戦いに敗れた郭黙は、前趙への降伏を考えますが、李矩に止められます。咸和5年（330年）、後趙の石生によって河南が略奪されると、郭黙は再び前趙への降伏を李矩に勧め、劉曜に救援を求めます。しかし、劉曜の援軍は石虎に敗れ、郭黙自身も石聡に敗北。ついに李矩から離反し、東晋に亡命しました。

東晋に到着した郭黙は、明帝から征虜将軍に任じられます。咸和元年（326年）には、劉遐の死後、北中郎将となり、その部曲を率いました。咸和2年（327年）に蘇峻の乱が勃発すると、郭黙は討伐軍に参加し、西陵で蘇峻を阻みます。建康が陥落すると、庾亮らと共に尋陽に逃れ、その後、京口に拠って反乱軍と戦いました。

劉胤（りゅういん）との対立と最期

蘇峻の乱が鎮圧された後、郭黙は中央への召還を命じられますが、辺境の将であることを望んでいたため、これに不満を抱きます。また、かつての恨みから、平南将軍の劉胤を襲撃し、殺害するという暴挙に出ました。その後、劉胤の江州府を掌握しましたが、陶侃によって討伐されることになります。

陶侃は郭黙の罪を上奏し、自ら大軍を率いて進軍。郭黙は陶侃の軍勢に敗れ、尋陽城に籠りますが、最終的には配下の裏切りによって捕らえられ、斬首されました。

郭黙の生涯は、激動の時代を生き抜いた一人の武将の姿を伝えています。その勇敢さと狡猾さは、彼を乱世の英雄として特徴づける一方で、周囲との軋轢を生み、悲劇的な結末を招いた要因でもありました。

もう一度検索