銭習礼

銭習礼（せん しゅうれい、1373年 - 1461年）は、明代に活躍した学者であり、官僚です。字は習礼（しゅうれい）といい、この字で広く知られています。吉州吉水県（きっしゅうきっすいけん）を本貫とする人物で、その生涯は明朝の政治と文化に深く関わっていました。

生涯

銭習礼は、銭好徳（せんこうとく）と陳氏（ちんし）の間に生まれました。1411年（永楽9年）に進士に及第し、その才能を認められて翰林院庶吉士（かんりんいんしょきつじ）に選ばれます。その後、1415年（永楽13年）には翰林院検討（かんりんいんけんとう）に進み、着実にその地位を固めていきました。

習礼は、練子寧（れんしねい）と姻戚関係にありました。練子寧は、建文帝（けんぶんてい）に忠義を尽くした人物で、永楽帝（えいらくてい）に対して不遜な言動があったとして処刑されていました。このため、習礼が官僚として仕官した際、郷里の人々は練子寧との関係が原因で処罰されるのではないかと恐れていました。しかし、楊栄（ようえい）がこの件を永楽帝に進言したところ、永楽帝は「練子寧も登用しようと考えていたほどだ。ましてや習礼を処断するようなことがあろうか」と笑い飛ばし、習礼の才能を高く評価しました。

1424年（永楽22年）に洪熙帝（こうきてい）が即位すると、習礼は翰林院侍読（かんりんいんじとく）となり、知制誥（ちせいこう）を兼任しました。その後、一時的に郷里に帰省しますが、1426年（宣徳元年）には『太宗実録（たいそうじつろく）』と『仁宗実録（じんそうじつろく）』の編纂のために、侍講の陳敬宗（ちんけいそう）や陳循（ちんじゅん）と共に召還され、侍読学士（じとくがくし）へと昇進しました。1436年（正統元年）には、英宗（えいそう）が経書の講義を開くと、その講官を務めるなど、学識の高さを示しました。

1438年（正統3年）、習礼は翰林院学士（かんりんいんがくし）に抜擢され、翰林院の事務を統括するようになります。1442年（正統7年）に、かつて鴻臚寺（こうろじ）があった場所に翰林院が新築され、完成した際には、諸殿閣の大学士たちが集まりました。しかし、習礼は楊士奇（ようしき）と楊溥（ようふ）のための座席を設けませんでした。これに対し、習礼は「ここは三公の府ではない」と主張したため、楊士奇らがこのことを英宗に奏聞しました。英宗は二人のための座席を設けるよう命じました。

1444年（正統9年）には、習礼は致仕（ちし）を願い出ますが、許可されませんでした。翌年の1445年（正統10年）には、吏部尚書（りぶしょうしょ）の王直（おうちよく）の推薦により礼部右侍郎（れいぶうじろう）に抜擢されます。習礼は固辞しましたが、聞き入れられませんでした。この頃、宦官の王振（おうちん）が権力を握っており、多くの高官が王振のためにその邸宅の門を造営しました。習礼はこれを恥ずかしい行為だと感じていましたが、やむなくこれに従わざるを得ませんでした。1446年（正統11年）には吏部の事務を代行し、翌1447年（正統12年）には再び致仕を願い出て、ついに帰郷しました。

1460年（天順4年）に病に倒れ、翌1461年（天順5年）5月22日に89歳で亡くなりました。諡（おくりな）は文粛（ぶんしゅく）といい、その学識と人格を称えました。著書には、『文集』14巻と『応制集』1巻がありました。

銭習礼は、その生涯を通じて、明朝の政治と文化に貢献しただけでなく、官僚としての苦悩や葛藤、そしてその中で見せた矜持を通して、後世に多くの教訓を残しました。彼の存在は、明代の官僚制度と文化を研究する上で、重要な意味を持っています。

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