首都圏新都市鉄道TX-2000系電車

首都圏新都市鉄道TX-2000系電車は、同社が運営するつくばエクスプレス線の開業に合わせて投入された、交直両用に対応した通勤電車です。日立製作所のA-trainシリーズとして開発され、同時期に導入された直流専用のTX-1000系を基礎としていますが、電装品を中心に仕様が異なり、特に茨城県内の交流電化区間（守谷駅～つくば駅間）での走行が可能です。形式名「TX」は、つくばエクスプレスのアルファベット表記「Tsukuba eXpress」に由来します。

導入と増備

本系列は、まず2003年（平成15年）3月に6両編成1本が先行試作車として製造されました。翌2004年（平成16年）1月から7月にかけては、6両編成15本（90両）の量産車が落成し、これらは先行試作車と共に、2005年（平成17年）8月24日のつくばエクスプレス開業初日から営業運転を開始しました。

開業後、全線にわたる利用客の増加に伴い、輸送力を高める必要が生じました。これに応じる形で、2008年度には開業時の量産車を小改良した「1次増備車」として、6両編成4本（24両）が新たに製造され、2008年（平成20年）8月12日より営業運転に加わりました。これにより、同年10月1日のダイヤ改正での朝ラッシュ時の列車増発が可能となりました。

さらに、2012年度には1次増備車を基にした「2次増備車」として、6両編成3本（18両）が製造され、2012年7月上旬から運用を開始しました。この増備車も、同年10月15日のダイヤ改正における列車増発に貢献しています。これらの増備車区分は、首都圏新都市鉄道が公表した資料に基づく正式な呼称です。

車体構造と外観

車体は軽量かつ堅牢なアルミニウム合金製のダブルスキン構造を採用しており、腐食を防ぐための表面加工が施されているため基本的に無塗装です。アクセントとして車体側面の上部に赤いラインが配されています。車体サイズは全長20m、幅2950mm級で、在来線（軌間1067mm）としては最大級の「幅広車体」が採用されています。客用扉は片側4箇所に設けられた両開き扉です。前面デザインは、鋭角的なラインとV字型の大型ガラスが特徴で、高速感を表現しています。また、トンネル区間や地下区間での緊急時避難を考慮し、貫通扉を備えています。

直流専用のTX-1000系とは外観が非常に似ていますが、判別ポイントがいくつかあります。TX-2000系は交流区間も走行するため、屋根上の集電装置（パンタグラフ）がTX-1000系の3基に対し4基搭載されています。また、周囲には絶縁のための碍子が多数見られます。さらに、車両番号が表示されるプレートの色が、TX-1000系の紺色に対して、TX-2000系では赤色となっています。

1次増備車以降の車両では、外観の基本的な形状に大きな変化はありませんが、前面の運転台下部にスピード感を強調するスカーレット色のVラインが追加されました。側面には、駅停車時に車両と可動式ホーム柵を乗客が容易に識別できるよう、車体全体に白色とスカーレットのラインが配され、戸袋部分のTXマークの上にもスカーレットのラインが追加されています。

快適性を追求した内装

車内は白色を基調とした明るいデザインです。客用ドアも白色の化粧板で仕上げられ、各ドア下部には滑り止めと点字を兼ねた黄色いブロックが貼り付けられています。ドアの開閉時にはチャイムが鳴動するなど、視覚障害者への配慮が行われています。編成中2両（2号車と5号車）には車椅子スペースが設置されています。

座席は全車両住江工業製で、基本的にはロングシート配置ですが、編成の中央部2両（3号車と4号車）はボックスシートとロングシートを組み合わせたセミクロスシート configurationを採用していました。しかし、朝夕の混雑緩和を目指し、一部編成のボックスシートをロングシートへ改造する工事が実施され、2020年までに事故休車となった編成を除く全ての車両でロングシート化が完了しました。着席区画を明確にすると同時に、混雑時の補助となるスタンションポール（握り棒）も設置されています。つり革は握りやすい三角形タイプで、優先席付近のものはオレンジ色とされています。

側面の窓は大型の1枚ガラスを使用しています。新型車両で普及している紫外線カットガラスとカーテンの廃止ではなく、本系列では透明ガラスと巻き上げカーテンが採用されました。この窓は基本的に開閉できませんが、空調故障時などに備え、車両連結面（妻面）に開閉可能な小窓が設けられています。車内案内表示装置としては、LEDによる文字スクロール式と、路線図式のものが併設されています。他社では路線図式が減少傾向にある中で、本系列はこれを採用し続けています。自動放送装置も搭載されており、日本語と英語での案内が可能です。

増備車による内装の主な改良点

1次増備車から：
火災対策が強化され、天井の空調ルーバ材質や床敷物が変更されました。ドア戸袋部の引き込み防止ゴムは硬質化され、荷物などの挟まり込みを防ぎます。座席モケットのクッション材も改良され、座り心地が向上しました。安全性向上のため、7人掛け座席間に新たなつり革が設置され、一部のつり革（女性専用車・優先席部）は高さが50mm低くされました。非常用ドアコックなどのステッカーの一部は蓄光式に変更され、乗務員室背後の通行表示灯は大型化されました。

2次増備車から：
省エネルギー化のため、室内照明がLED化され、消費電力が約23%削減されました。座席構造も見直され、座席詰め物の厚み増加やバケット形状の変更により、座り心地が大幅に改善されています。冬期の快適性向上のため、暖房容量が増強され、取り付け位置の調整により足元温度が約3℃向上しました。視覚障害者向けに、従来の開閉チャイムに加え、ドア開案内チャイムが駅停車中に鳴動するようになりました。ロングシート部の一般席つり革は高さが50mm低くされ、床面から1600mmに統一されました。車内換気量増加のため、車端部の優先席・車椅子スペース部の側窓は200mmの開閉が可能になりました。

走行機器と保安装置

走行用の主制御機器には日立製作所製のIGBT素子を使用したVVVFインバータ制御方式（回生ブレーキ対応）が採用されています。主変換装置にはPWMコンバータも搭載され、交流区間からの電力供給に対応しています。1基のVVVFインバータで2台の主電動機を制御する方式で、制御装置の一部が故障しても自力走行ができる冗長性が考慮されています。主電動機も日立製のEFO-K60形かご形三相誘導電動機が、電動車1両あたり4台搭載されています。動力はTD平行カルダン駆動方式で伝達され、歯車比は1:6.53です。これにより、起動加速度3.0km/h、最高速度130km/hの性能を発揮します。台車は川崎重工業製のボルスタレス台車で、ヨーダンパを備えています（電動車用KW167、付随車用KW168）。

交直両用に対応するため、屋根上には交直切換器、交流遮断器、避雷器などの電源切り替えに必要な機器が搭載されています。床下には主変圧器を備え、交流区間では交流電力を降圧・直流変換してからVVVFインバータへ送ります。直流区間では架線からの直流電力が直接VVVFインバータに供給されます。交直セクション通過時には自動で電源が切り替わります。補助電源装置として静止形インバータ（SIV）を搭載しており、交流区間でも使用できるよう補助回路用の交直切換器や高圧補助整流装置を備えています。2次増備車では、空気圧縮機がオイルレス式に変更されています。

保安装置としては、ATC（自動列車制御装置）、ATO（自動列車運転装置）、TASC（定位置停止装置）を搭載し、ワンマン運転に対応しています。本線上では基本的にATOによる自動運転が行われ、運転士は出発ボタンを押すだけで、力行から次駅での停止までが自動で制御されます。ATO運転中の手動介入は、ブレーキ操作のみ受け付けられます。車両基地内では手動運転となります。

朝ラッシュ時の守谷駅～北千住駅間では、2014年1月よりTASC運転が実施されています。これは、先行列車への追従運転時に、従来のATOでは車内信号の変化に柔軟に対応しきれず乗り心地が損なわれることがあったため、これを改善する目的で導入されました。運転台のスイッチにより、ATC手動運転、ATO自動運転、ATC+TASC運転の3モードを選択できます。また、ATOには雨天モード、平常モード、回復モードがありましたが、現在はソフトウェア改修により平常モードの目標速度が引き上げられたため、回復モードは使用されていません。

編成構成と今後の計画

本系列は基本的に6両編成で運行されています。パンタグラフはTX-2200形とTX-2400形に搭載されています。両先頭車には、ATC/ATO装置、ATO車上子、ATO送受信装置、戸閉制御切換装置といった保安装置関連機器や、排気扇用インバータが搭載されています。TX-2600形には列車無線装置とそのアンテナが設置されています。つくばエクスプレス線では、沿線の利用客増加に対応するため、2030年代前半を目処に8両編成化を計画しており、本形式についても中間に付随車2両を組み込んだ8両編成への増強が予定されています。

改造工事とラッピング

サービス向上や機能強化のため、様々な改造が行われています。内装面では、朝夕ラッシュ時の女性専用車両設定（2005年）、無線LAN アンテナ設置（2005-2006年）、一部編成のボックスシートへのテーブル設置（2006年）、優先席付近のつり革の色変更（2007年頃）、開閉扉上部への小型LCD設置（2018年頃）などが行われました。運転・走行機器関連では、マスターコントローラーの取っ手交換（2010年）、行先表示機のフルカラーLED化（2017年から順次）が実施されています。

また、特定期間にはラッピング列車としても運行されました。過去には子供向け番組「チャギントン」のキャラクターが装飾された「TXチャギントントレイン」として、2016年と2017年に異なる編成で運行されました。2025年4月1日からは、つくばエクスプレス開業20周年を記念したラッピングが第51編成と第67編成に施され、運行されています。

廃車と不具合

2019年2月28日に発生したつくばエクスプレス総合基地構内での脱線事故により、第71編成（2次増備車）のうち2両（TX-2171, TX-2271）が同年7月に廃車となりました。さらに、TX-2271とユニットを組んでいたTX-2371も2020年3月に廃車されています。残った3両は、乗務員研修などに使用される「実物教材車」として活用されており、内装部品の一部はテレビドラマ撮影にも使われました。

過去には不具合も発生しています。1次増備車の一部車両において、本来設置されるべきアルミ材がないまま床敷物が貼られていたことが判明し、鉄道車両火災対策基準を満たさないとして国土交通省から改善指示が出されました。首都圏新都市鉄道は2011年度末までに全ての対象車両で改修を完了しています。また、2019年には2次増備車の2編成（第72, 73編成）において、主変換装置の機器吊り用レールの取り付け部にひび割れが見つかりました。その後の調査で、製造過程での矯正作業が原因と判明しました。該当編成は一時的に運用を離脱し、補強・再取り付け作業を経て順次運行に復帰しています。

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