鳴尾村 (兵庫県)

鳴尾村（なるおむら）

鳴尾村は、かつて兵庫県武庫郡に存在し、1951年4月1日に西宮市へ編入合併し消滅した村です。現在の西宮市の一部（鳴尾町、上鳴尾町、甲子園各町、南甲子園、浜甲子園など）と、尼崎市の一部（平左衛門町）にあたります。

地理

村域は東西約3,230m、南北約4,420m、海岸線は約3,850mでした。東は大庄村、北は瓦木村、西は今津村に隣接し、南は大阪湾に面していました。鳴尾、小松、小曽根、上田新田の4つの大字がありました。

武庫川が運んだ土砂が堆積した三角州に位置し、平坦な地形が特徴でした。村内に丘陵や山地は全くなく、海抜2mを超える場所はありませんでした。武庫川や枝川の堤防に松が茂っているのが特徴的な景観でした。

歴史

明治以前

鳴尾は古くから瀬戸内海の景勝地として知られ、多くの歌に詠まれました。「鳴尾」という地名は、「ナル（傾斜地）」と「オ（尾、先端）」が合わさったものと考えられています。武庫川が堆積させた砂礫や、瀬戸内海の潮流・風によって形成された砂州が、緩やかな傾斜で海に達する場所を意味するとされています（諸説あり）。

鳴尾が歴史に登場するのは7世紀半ば頃とみられ、平安時代の承徳元年（1097年）には源俊頼が鳴尾の地を詠んだ歌が残っています。当時、鳴尾には数件の苫屋からなる集落が存在していました。

景勝地である一方、武庫川が天井川であったため、水利には苦労しました。天正3年（1591年）には、旱魃により隣村から無断で取水したことが原因で争いが起こり、最終的に鳴尾村側の25名が処刑されるという悲劇（天正北郷樋事件）がありました。

また、武庫川はたびたび氾濫し、鳴尾に被害をもたらしました。弘治3年（1557年）には高潮で堤防が決壊し、枝川という川筋ができました。元文5年（1740年）の洪水では、枝川からさらに申川という川が分岐しました。後の鳴尾村は、武庫川本流、枝川、申川に挟まれた地域となります。

明治時代

町村制の施行により、鳴尾村、小松村、小曽根村、上田新田村が合併し、新たな鳴尾村が誕生しました。その後、阪神電気鉄道（阪神）が開通し、村は大きく発展しました。鳴尾村は積極的に阪神を誘致し、土地を無償で提供して現在の鳴尾駅を設置してもらい、路線をカーブさせました。

1905年に阪神が開通すると、交通の便が向上し、電灯事業や電車郵便制度が開始されました。1907年～1908年には競馬場が開業し、1910年に統合されて鳴尾競馬場となりました。従来の産業であった木綿栽培は衰退し、イチゴ栽培が盛んになりました。

大正時代

1916年には鳴尾競馬場内に鳴尾球場が建設され、全国中等学校優勝野球大会（現在の夏の甲子園）が開催されるようになりました。1918年には鈴木商店製油部（後のJ-オイルミルズ）の工場が操業を開始しました。1923年には、ピクリン酸の搬入をめぐって反対運動が起こるというピクリン酸事件が発生しました。

武庫川の改修計画では、枝川と申川を廃川にし、その跡地を売却して河川改修事業と阪神国道の敷設費用に充てることになりました。阪神は、鳴尾球場の代替となる大規模な球場を建設するため、川の跡地を購入しました。1924年に甲子園大運動場（現・阪神甲子園球場）が開業し、選抜中等学校野球大会も開催されるようになりました。一方、廃川の影響により沿岸部の漁業は衰退し、宅地化が進みました。

昭和（〜終戦）

阪神は枝川跡地の開発を進め、1926年に甲子園線を開業し、甲子園浜海水浴場や甲子園娯楽場（後の甲子園阪神パーク）などを建設し、甲子園エリアを一大娯楽施設としました。イチゴ農家でもイチゴ狩りを行うようになりました。

宅地開発が進む中で、耕地整理の制度を借りた土地区画整理事業が行われました。鳴尾村は西宮都市計画区域に編入され、街路の整備などは都市計画に沿って行われることとなりました。

太平洋戦争が進むにつれ、川西航空機の工場が拡張し、鳴尾村は企業城下町の様相を呈しました。イチゴ栽培は衰退し、鳴尾飛行場が作られました。人口増加に対応するため、学校の増設が続けられました。1943年には村立の鳴尾中学校が設立されました。

川西航空機があった鳴尾村は空襲の標的となり、1945年8月6日の阪神大空襲で壊滅的な被害を受けました。

戦後・合併

終戦後、甲子園球場や鳴尾飛行場はアメリカ軍に接収されました。同年9月には枕崎台風による高潮で大きな被害を受けました。

1947年には昭和天皇が行幸し、武庫川学院を視察しました。同年、教育基本法・学校教育法の施行とともに教育委員会を設立しました。1949年には復興の財源とするため鳴尾競輪場を開設しましたが、1950年に騒擾事件（鳴尾事件）が発生しました。

単独市制は困難となり、西宮市か尼崎市との合併を選択する住民投票が行われた結果、西宮市との合併が決定しました。1951年4月1日、鳴尾村は西宮市に編入され、その歴史を閉じました。この年の春の甲子園に鳴尾高校が出場し、準優勝を果たしました。

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