黄 (姓)

黄（こう）

「黄（こう）」は、悠久の歴史を持つ漢姓の一つです。漢字文化圏、特に中華圏やベトナムにおいて極めて一般的な姓として、多くの人々に受け継がれています。その分布は広範にわたり、各地で多様な読み方や文化的な背景が見られます。

中華圏における「黄」姓

「黄」姓は、中国本土において人口の上位を占める主要な姓の一つです。2020年の全国的な統計調査によれば、国内で7番目に多い姓であり、その数は3393万人を超える膨大な人数に上ります。この姓は特に中国の南方地域に濃厚な分布を示しており、人口比率が高いことで知られています。例えば、中国の少数民族であるチワン族の間でも非常に多く見られ、広西チワン族自治区では、この姓を持つ人が全人口の約1割、約543万人を占める最大の姓となっています。

台湾においても、「黄」姓は人口の多さで際立っています。2018年の統計では、陳、林に次ぐ3番目に多い姓として記録されており、約146万人の人々が「黄」姓を名乗っています（正式な「黃」と異体字の「黄」を含む）。

香港や広東省など、広東語が主に話される地域でも「黄」姓は非常に一般的です。「黄」はウォン（Wong）と発音されることが多いのですが、同じく数の多い「王（Wang）」姓もウォンと同音になるため、混同を招くことがあります。このため、区別のために「くさかんむりの黄」「腹が大きい黄」といったように、漢字の形状の特徴を言葉で補足する習慣が見られます。ただし、香港や広州では「黄」が2番目に多い姓であるため、文脈によっては「黄」姓であることが理解される場合がほとんどです。

「黄」姓の読み方は地域や使用される方言によって多様です。標準的な普通話ではホアン（Huáng）あるいはファン（Fāng）のように発音されます。広東語ではウォン（Wong）、福建語ではン（Ng）やウン（Ung）、あるいはウィー（Ui）といった具合に変化します。

ベトナムにおける「黄」姓

ベトナムにおいても「黄（ホアン、フイン）」姓は広く普及しており、国内で5番目に多い姓として、全人口の約5.1%を占めています。ベトナム語での本来の読みは「ホアン（Hoàng）」ですが、「フイン（Huỳnh）」という読み方も一般的です。これは、かつて広南国の支配者であった阮潢（グエン・ホアン）の名前を避けるため、発音を変化させた「避諱（ひき）」という慣習に由来すると言われています。

ベトナムの「黄」姓を持つ人々も、歴史上の人物から現代社会の様々な分野で活躍する多くの著名人を輩出しています。清仏戦争の将軍、黄継炎（ホアン・ケー・ヴィエム）や独立運動家の黄叔抗（フイン・トゥク・カン）などが知られています。

その他の地域に広がる「黄」姓

「黄」姓は、中華圏やベトナムにとどまらず、世界各地に離散した華僑やベトナム系移民を通じて広く分布しています。東南アジア諸国をはじめ、アメリカ合衆国やヨーロッパなど、様々な国や地域でこの姓を持つ人々が暮らしており、多様な分野で成功を収めた人物が見られます。例えば、シンガポールの実業家ウン・テンフォン（黄廷方）、アメリカ合衆国の俳優B・D・ウォン（黄栄亮）などが挙げられます。日本にもこの姓を持つ人がおり、易者の黄小娥などが知られています。

歴史と文化の中の「黄」姓

「黄」姓の歴史は古く、多くの著名人を輩出してきました。中国の戦国時代には楚の宰相、春申君こと黄歇が現れ、前漢の丞相、黄覇がいます。後漢末から三国時代にかけては、黄祖、黄蓋、黄忠、黄権といった武将たちが活躍しました。蜀漢の軍師・諸葛亮の妻である黄夫人や、宦官の黄皓もこの時代の人物です。

それ以降も、唐末の反乱指導者である黄巣、北宋の詩人である黄庭堅、元の画家・黄公望、明末の政治家・書家である黄道周、明末清初の学者である黄宗羲など、各時代の文化的、政治的な潮流の中で重要な役割を果たした人物が多数存在します。清末には外交官・詩人の黄遵憲や囲碁棋士の黄龍士などが知られています。

近代から現代にかけても、「黄」姓を持つ人々は多様な分野で活躍しています。中華人民共和国では軍人の黄克誠、物理学者の黄昆、歴史学者の黄仁宇らが著名です。台湾からは政治家の黄信介、黄志芳らが、香港からは学生運動家の黄之鋒や、音楽家のウォン・カークイなどが輩出されています。エンターテインメントの世界でも、俳優の黄暁明、女優の黄奕、歌手のファン・ズータオなどがアジア各国で人気を博しています。

文学やフィクションの世界にも、「黄」姓の登場人物は少なくありません。『三国志演義』の黄奎、『水滸伝』の黄信といった古典的な人物から、金庸の武侠小説『射鵰英雄伝』や『神鵰俠侶』の主要人物である黄蓉とその父・黄薬師、日本の漫画・アニメ作品である『東京ミュウミュウ』の黄歩鈴、『TIGER&BUNNY』の黄宝鈴など、時代やジャンルを超えて描かれています。

まとめ

「黄」姓は、その起源から現代に至るまで、中華圏を中心にベトナムやその他の地域へと広がり、多様な文化や歴史の中で多くの著名人を輩出してきました。地域による発音の違いや、言語的な特性、そして歴史的な避諱といった要素が絡み合い、単なる姓という枠を超えた豊かな背景を持つ言葉と言えるでしょう。世界中に暮らす数千万もの人々が名乗る「黄」姓は、漢字文化圏の広がりとそこに暮らす人々の営みの多様性を象徴する存在です。

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