黄金時代 (ショスタコーヴィチ)

バレエ音楽『黄金時代』作品22について

ドミートリイ・ショスタコーヴィチが作曲したバレエ音楽『黄金時代』（露：Золотой век）作品22は、全3幕6場からなる初期の作品です。この作品は、A.イヴァノフスキーの台本に基づき、1929年から1930年にかけて作曲されました。

概要

1920年代から1930年代前半にかけて、ショスタコーヴィチの作品には西洋的なモダニズムの影響が強く見られました。同時期の作品には、オペラ『鼻』や『ムツェンスク郡のマクベス夫人』、バレエ音楽『ボルト』、『明るい小川』、交響曲第2番、第3番、第4番などがあります。これらの作品は、1932年に提唱された社会主義リアリズムの理念から外れた「形式主義」の作品として批判され、演奏や上演の機会が失われました。

ショスタコーヴィチの回想録「ショスタコーヴィチの証言」には、この曲に直接言及した記述はありませんが、広い意味で「形式主義」時代の創作活動や人的交流が彼の世界観と芸術観の原点であることが述べられています。

『黄金時代』の初演は1930年10月26日にレニングラードで行われましたが、18回上演された後、長らく舞台にかけられることはありませんでした。しかし、作曲から半世紀以上が経った1982年10月14日に、振付師ユーリー・グリゴローヴィチの手によってモスクワのボリショイ劇場で再演され、復活を果たしました。

ショスタコーヴィチは熱烈なサッカーファンであり、公式審判員の資格まで持っていたことが知られています。このことが、本作の着想に影響を与えたと言われています。

内容

1930年初演版の内容は、西側の資本主義国で開催されている工業博覧会「黄金時代」を舞台に、ソ連のサッカークラブが招待され、労働者たちに人気を博す一方で、ファシストたちが陰謀をめぐらすというものでした。ミュージックホールでの馬鹿げた踊りや、スタジアムにおける各競技の光景などを織り込みながら、黒人のボクサーや地区の共産党員をはじめとする労働者たちとソ連のサッカークラブとの友情を描いています。最後には、ファシストたちの陰謀が西側の共産党員によって暴かれ、喜ばしい労働の踊りで幕を閉じます。プロパガンダ的な要素が強い作品ですが、ショスタコーヴィチのユーモラスな一面が発揮されています。

1982年のボリショイ劇場での再演では、舞台が1920年代の新経済政策時代の南ロシアのレストラン「黄金時代」に移され、コムソモール青年団と暴力団の争いが描かれる二幕構成に変更されました。最近では、レストランのダンサーRitaをめぐる、そのパートナーYashka、漁師のBorisの争いとして描かれることもあります。舞台背景には、「ゾロトイ・ヴィエーク」（黄金時代）、「1923」、「ディナミアーダ」（初演の台本名）とロシア文字で表示されます。

2006年のサンクト・ペテルブルクのマリンスキー劇場での再演では、コンスタンチン・ウチテリが台本を手掛け、時代設定を現代に変更し、年老いた男女が昔を回想する形式となっています。

組曲 作品22a

バレエ全曲が演奏される機会は少ないですが、組曲（作品22a）は現在でも演奏会などで取り上げられています。特に、第3曲「ポルカ」が有名です。組曲の初演は、バレエ初演よりも早い1930年3月19日でした。

組曲は以下の4曲で構成されており、演奏時間は約18分です。

1. 第1曲 序奏（Introduction）
2. 第2曲 アダージョ（Adagio）
3. 第3曲 ポルカ（Polka）
4. 第4曲 踊り（Danse）

第2曲は、ファシストの美女が踊る第1幕第1場の音楽で、第3曲は第3幕のジュネーヴ海軍軍縮会議をカリカチュア風に扱った場面の音楽です。この曲は、ストラヴィンスキーの作品『小管弦楽のための組曲』の影響が強く見られます。第4曲は、ファシストたちの踊りに対して、ソヴィエトの選手たちが見せる「健全で明るい」踊りを表現しており、通俗的で軽妙な雰囲気が特徴です。

楽器編成

木管楽器：ピッコロ、フルート、オーボエ、イングリッシュホルン、小クラリネット、クラリネット、バスクラリネット、ソプラノサクソフォーン、ファゴット、コントラファゴット 各1

金管楽器：ホルン4、トランペット3、バリトン、トロンボーン3、テューバ1

打楽器：ティンパニ、シンバル、小太鼓、トライアングル、小太鼓、レニョ、タンブリン、大太鼓、タムタム、木琴

鍵盤楽器：ハーモニウム

弦楽器：第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス

参考資料

『作曲家別名曲解説ライブラリー15 ショスタコーヴィチ』 音楽之友社,1997年
『最新名曲解説全集7　管弦楽曲4』（解説:井上和男） 音楽之友社,1980年
* 『ショスタコーヴィチ:交響曲全集』解説書（ベルナルト・ハイティンク指揮,ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団,デッカ・レコード）

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