1973年アルゼンチングランプリ

1973年アルゼンチンGP：政治情勢と技術革新が交錯した開幕戦

1973年のF1世界選手権は、1月28日、アルゼンチンのブエノスアイレス・サーキットで開幕を迎えました。しかし、この年のアルゼンチンGPは、開催自体が危ぶまれるほどの政治情勢不安の中での開催となりました。そのため、出場チームは19台と例年よりも少ない状況でのスタートとなりました。

激変するF1界勢力図

1973年シーズンは、全15戦という過去最多のレース数で開催されました。前年からの大きな変化として、各チームのドライバーラインナップが大きく入れ替わったことが挙げられます。また、安全性の向上を目的としたレギュレーション変更により、燃料タンク容量の制限（250リットル以内）や、ボディサイドへの衝撃吸収構造の搭載が義務化されました。このため、多くのチームが開幕戦では前年型マシンを使用することとなりました。

チャンピオンチームであるロータスは、前年度王者のエマーソン・フィッティパルディに加え、ロニー・ピーターソンを獲得。ティレルはジャッキー・スチュワートとフランソワ・セベール、マクラーレンはデニス・ハルムとピーター・レブソンと、主要チームは比較的安定した陣容を維持しました。

一方、フェラーリは財政難のため、エースのジャッキー・イクスは残留したものの、クレイ・レガツォーニをBRMへ放出し、マリオ・アンドレッティはアメリカでのレースに専念しました。新車312B3はテストで大きな欠陥を露呈し、開発責任者のマウロ・フォルギエリは一時的にチームを離れることとなりました。

サーティースはマイク・ヘイルウッドとカルロス・パーチェ、マーチはジャン＝ピエール・ジャリエ、BRMはベルトワーズ、レガツォーニ、ラウダと、各チームが独自の戦略でドライバー陣を編成。ブラバムはベテランのグラハム・ヒルがチームを離れ、カルロス・ロイテマンとウィルソン・フィッティパルディが引き続き参戦しました。この年からゴードン・マレーがブラバムのチーフデザイナーに就任しました。

ウィリアムズはスポンサー変更に伴いチーム名を「イソ・マールボロ」に変更。ドライバーにはハウデン・ガンレイとナンニ・ギャリが加わりました。シャドウとエンサインは、それぞれ次戦ブラジルGPとスペインGPからの参戦を予定していました。

タイヤサプライヤーでは、ファイアストンがF1からの撤退を発表したものの、もう1年活動を続けることになりました。しかし、ロータスとフェラーリがグッドイヤーへスイッチしたことで、グッドイヤーの優位性がより一層強まりました。

予選：レガツォーニがポールポジションを獲得

予選では、BRMに移籍したばかりのクレイ・レガツォーニが、非常に柔らかいファイアストンタイヤを駆使し、エマーソン・フィッティパルディに僅か0.3秒差でポールポジションを獲得しました。2番手にフィッティパルディ、3番手にジャッキー・イクス、4番手にジャッキー・スチュワートと、トップ4に実力者が並びました。

決勝：接戦の末、フィッティパルディが優勝

決勝レースは、ポールポジションのレガツォーニがソフトタイヤでスタートしましたが、タイヤの摩耗が激しく、29周目にセベールに首位を奪われます。その後、スチュワートもレガツォーニをパスし、ティレルが1-2体制を築きました。しかし、レガツォーニは33周目にフィッティパルディに、34周目にピーターソンにも抜かれるなど順位を下げて行きました。

上位4台の順位は、ピーターソンがエンジントラブルでリタイアする68周目まで変わらず、その後、スチュワートもタイヤトラブルの影響でフィッティパルディに抜かれ3位に後退。フィッティパルディは86周目にセベールをパスし、トップに立ちました。

最終的に、フィッティパルディが優勝、セベールが2位、スチュワートが3位という結果に。ロータスとティレルが他チームを圧倒する強さを見せつけました。4位にジャッキー・イクス、5位にデニス・ハルム、6位にウィルソン・フィッティパルディが入り、ウィルソンは初ポイントを獲得しました。レガツォーニはタイヤ交換の影響で12位にまで順位を落としましたが、7位でフィニッシュしました。

このレースで、エマーソン・フィッティパルディはファステストラップと優勝を達成、ウィルソン・フィッティパルディは初入賞を果たしました。BRMは最終的にポールポジションを獲得しました。また、イソ・マールボロはF1に初参戦しました。

このアルゼンチンGPは、政治的不安定と技術革新が複雑に絡み合った、記憶に残る開幕戦となりました。そして、ロータスとティレルの強さが、このシーズンの覇権争いを予感させる、重要なレースとなりました。

もう一度検索