1977年の文学

1977年（昭和52年）の文学界は、様々な出来事や新しい作品の登場、そして惜しまれる才能との別れが交錯した一年として記録されています。

年の始まりには、文学界で特に注目される出来事である第76回芥川龍之介賞・直木三十五賞（1976年下半期）の選考会が1月18日に開催されました。この回の芥川賞は「該当作なし」という結果に終わりましたが、直木賞は三好京三の小説『子育てごっこ』が受賞作に選ばれました。続いて同年7月に行われた第77回選考会（1977年上半期）では、芥川賞に三田誠広の『僕って何』と、芸術家としても知られる池田満寿夫の『エーゲ海に捧ぐ』が共に選ばれるという結果になりました。一方で、この回の直木賞は再び「該当作なし」となり、対象作品に厳しい評価が下されたことがうかがえます。

国内の他の主要な文学賞でも、様々な作品と作家が評価されました。第13回谷崎潤一郎賞は、島尾敏雄の作品『日の移ろい』に授与されました。また、第5回泉鏡花文学賞は、色川武大の『怪しい来客簿』と津島佑子の『草の臥所』が受賞しました。第4回大佛次郎賞には、丸山眞男の論考集『戦中と戦後の間』が選ばれています。しかし、若手作家の登竜門として知られる第20回群像新人文学賞は、この年は「該当作なし」となりました。

海外に目を転じると、世界で最も権威ある文学賞の一つであるノーベル文学賞は、スペインの詩人であるビセンテ・アレイクサンドレに贈られました。イギリスの主要な文学賞であるブッカー賞は、ポール・スコットの小説『Staying On』に決定しました。推理小説の分野では、ジョン・ル・カレの『スクールボーイ閣下』が1977年度のゴールド・ダガー賞を受賞しています。また、前年（1976年度）のジェイムズ・テイト・ブラック記念賞のフィクション部門は、ジョン・バンヴィルの『コペルニクス博士』に与えられています。

この1977年には、後世に名を残すこととなる多くの重要な書籍が刊行されました。小説分野では、安部公房の『密会』、泡坂妻夫の『乱れからくり』、筒井康隆の『エディプスの恋人』、中上健次の『枯木灘』など、日本の現代文学を代表する作家たちの新作が話題となりました。海外からは、スティーヴン・キングのホラー小説『シャイニング』が発表されています（日本語訳の刊行は翌年）。

小説以外の分野でも、岸田秀の『ものぐさ精神分析』や丸谷才一の『文章読本』といった評論・随筆集、そして古今亭志ん生に関する全集の刊行開始など、多岐にわたる書籍が登場しました。中でも特筆すべきは、佐野洋子の絵本『100万回生きたねこ』が講談社から刊行されたことです。この作品は初版こそ5,000部でしたが、その後版を重ねて世代を超えて読み継がれるロングセラーとなり、日本の絵本史において重要な位置を占めることになります。

一方で、1977年は文学界にとって多くの才能との別れがあった年でもありました。年初にはフランスの著述家アナイス・ニンが73歳で死去。2月には米国の推理作家ジョン・ディクスン・カーが70歳で世を去りました。夏には、ロシア革命を経てヨーロッパに亡命し、『ロリータ』などの作品で知られる作家ウラジーミル・ナボコフが78歳で、日本の著述家・翻訳家として幅広く活躍した吉田健一が65歳で死去しています。秋には絵本『ひとまねこざる（おさるのジョージ）』の作者として知られるH・A・レイが78歳で、大阪出身の小説家稲垣足穂が76歳で、そして日本の詩人石原吉郎が62歳で亡くなりました。シャーロック・ホームズ作品の翻訳で知られる延原謙（84歳）、米国の詩人ロバート・ローウェル（60歳）、イギリスの劇作家テレンス・ラティガン（66歳）の死去もこの年に報じられています。

このように1977年の文学界は、主要な文学賞の発表、話題作の刊行、そして多くの著名な文学関係者の逝去など、様々な出来事が凝縮された一年でした。新進気鋭の作家が登場する一方で、長年にわたり活動した巨星が次々と姿を消し、世代交代や文学の多様化が進む動きが見られたと言えるでしょう。

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