2010年の文学
2010年（平成22年）の文学界は、国内外で様々な動きが見られた一年でした。権威ある文学賞の発表、新たな才能の登場、注目すべき作品の刊行、そして多くの著名な文学関係者の逝去など、多岐にわたる出来事が発生しました。
国内では、文学賞の選考が例年通り行われました。1月には第142回芥川龍之介賞・直木三十五賞（2009年下半期）の選考委員会が開催され、芥川賞は「該当者なし」という結果でしたが、直木賞は佐々木譲氏の『廃墟に乞う』と白石一文氏の『ほかならぬ人へ』が受賞しました。7月に行われた第143回（2010年上半期）では、芥川賞に赤染晶子氏の『乙女の密告』が、直木賞に中島京子氏の『小さいおうち』が選ばれ、大きな注目を集めました。この年、特に話題となったのは、第1回山田風太郎賞が創設され、貴志祐介氏の『悪の教典』が初代受賞作となったことです。また、第17回島清恋愛文学賞は桐野夏生氏の『ナニカアル』に、第23回柴田錬三郎賞は吉田修一氏の『横道世之介』に贈られました。ミステリー文学の分野では、鮎川哲也賞で安萬純一氏と月原渉氏が、ミステリーズ!新人賞で美輪和音氏ほか2名が、横溝正史ミステリ大賞で伊予原新氏ほか2名が、日本ミステリー文学大賞で石川渓月氏と望月諒子氏が、ばらのまち福山ミステリー文学新人賞で深木章子氏と一田和樹氏がそれぞれ受賞し、新たな才能が続々と登場しました。本格ミステリ大賞の小説部門では歌野晶午氏と三津田信三氏の作品が、評論・研究部門では谷口基氏の研究が評価されています。第5回ポプラ社小説大賞では、齋藤智裕氏の『KAGEROU』が大賞を受賞し、賛否両論を巻き起こしました。その他、野間文芸賞には村田喜代子氏、野間文芸新人賞には円城塔氏と柴崎友香氏、野間児童文芸賞には市川宣子氏がそれぞれ選ばれています。紫式部文学賞は川上未映子氏が、小林秀雄賞は加藤陽子氏が受賞するなど、幅広い分野で成果が称えられました。SF分野では、日本SF大賞に森見登美彦氏の『ペンギン・ハイウェイ』と長山靖生氏の『日本SF精神史』が、日本SF新人賞に関竜司氏の評論が選ばれています。
出版界の動きとしては、実業之日本社が10月に新たに文庫レーベル「実業之日本社文庫」を立ち上げたことが挙げられます。書籍の刊行では、村上春樹氏のベストセラーシリーズ『1Q84』のBOOK3が発売され、大きな話題となりました。他にも、伊坂幸太郎氏『バイバイ、ブラックバード』、角田光代氏『ひそやかな花園』、桐野夏生氏『優しいおとな』、重松清氏『あすなろ三三七拍子』など、多くの人気作家が精力的に作品を発表しました。ノンフィクション分野では、近藤麻理恵氏の『人生がときめく片づけの魔法』が刊行され、その内容が広く受け入れられベストセラーとなりました。上野千鶴子氏『女ぎらい ニッポンのミソジニー』なども注目を集めました。
海外に目を転じると、世界的に権威のあるノーベル文学賞は、ペルーの作家マリオ・バルガス・リョサ氏に授与されました。英語圏最大の文学賞の一つであるマン・ブッカー賞は、ハワード・ジェイコブソン氏が受賞しています。ミステリー分野の国際的な賞も数多く発表されました。ネッド・ケリー賞、ヒューゴー賞（『都市と都市』、『ねじまき少女』などが受賞）、ペンUSAリテラリー・アワード（小説部門はヴィクター・ロダート氏）、CWA賞（ゴールド・ダガー賞はベリンダ・バウアー氏）、バリー賞（最優秀長編賞はジョン・ハート氏）、マカヴィティ賞（最優秀長編賞はケン・ブルーウン氏）、シェイマス賞（最優秀長編賞はマーシャ・ミュラー氏）、アンソニー賞（最優秀長編賞はルイーズ・ペニー氏）、エリス・ピーターズ歴史賞（ローリー・クレメンツ氏）、MWA賞（巨匠賞はサラ・パレツキー氏）、ネロ・ウルフ賞（ブラッド・バークス氏）などがこの年に受賞作を発表しました。これらの賞を通じて、世界中の多様な作品や作家が評価されました。
一方で、2010年は文学界にとって多くの才能との別れがあった年でもありました。日本国内では、劇作家、小説家として多大な功績を残した井上ひさし氏（75歳）、独創的な作風でファンを魅了した劇作家・演出家・小説家のつかこうへい氏（62歳）、静謐な私小説で知られる作家の三浦哲郎氏（79歳）が逝去されました。その他にも、角田房子氏（作家）、北森鴻氏（推理作家）、立松和平氏（作家）、清水一行氏（作家）、寺内小春氏（作家・脚本家）、永井するみ氏（作家）、佐野洋子氏（絵本作家）など、様々な分野で活躍した多くの文学者や文化人がこの世を去りました。海外でも、アメリカの伝説的な小説家J・D・サリンジャー氏（91歳）、競馬ミステリーで知られるイギリスの推理作家ディック・フランシス氏（89歳）、ノーベル文学賞作家であるポルトガルのジョゼ・サラマーゴ氏（87歳）、イギリスの「怒れる若者たち」を代表する作家アラン・シリトー氏（82歳）、SF作家のジェイムズ・P・ホーガン氏（69歳）、オランダのハリー・ムリシュ氏（83歳）などが逝去し、世界の文学界にとって大きな損失となりました。
2010年は、このように文学の創造、評価、そして継承が同時に進行した、活気に満ちつつも哀悼に包まれた一年として、記憶に留められています。
国内では、文学賞の選考が例年通り行われました。1月には第142回芥川龍之介賞・直木三十五賞（2009年下半期）の選考委員会が開催され、芥川賞は「該当者なし」という結果でしたが、直木賞は佐々木譲氏の『廃墟に乞う』と白石一文氏の『ほかならぬ人へ』が受賞しました。7月に行われた第143回（2010年上半期）では、芥川賞に赤染晶子氏の『乙女の密告』が、直木賞に中島京子氏の『小さいおうち』が選ばれ、大きな注目を集めました。この年、特に話題となったのは、第1回山田風太郎賞が創設され、貴志祐介氏の『悪の教典』が初代受賞作となったことです。また、第17回島清恋愛文学賞は桐野夏生氏の『ナニカアル』に、第23回柴田錬三郎賞は吉田修一氏の『横道世之介』に贈られました。ミステリー文学の分野では、鮎川哲也賞で安萬純一氏と月原渉氏が、ミステリーズ!新人賞で美輪和音氏ほか2名が、横溝正史ミステリ大賞で伊予原新氏ほか2名が、日本ミステリー文学大賞で石川渓月氏と望月諒子氏が、ばらのまち福山ミステリー文学新人賞で深木章子氏と一田和樹氏がそれぞれ受賞し、新たな才能が続々と登場しました。本格ミステリ大賞の小説部門では歌野晶午氏と三津田信三氏の作品が、評論・研究部門では谷口基氏の研究が評価されています。第5回ポプラ社小説大賞では、齋藤智裕氏の『KAGEROU』が大賞を受賞し、賛否両論を巻き起こしました。その他、野間文芸賞には村田喜代子氏、野間文芸新人賞には円城塔氏と柴崎友香氏、野間児童文芸賞には市川宣子氏がそれぞれ選ばれています。紫式部文学賞は川上未映子氏が、小林秀雄賞は加藤陽子氏が受賞するなど、幅広い分野で成果が称えられました。SF分野では、日本SF大賞に森見登美彦氏の『ペンギン・ハイウェイ』と長山靖生氏の『日本SF精神史』が、日本SF新人賞に関竜司氏の評論が選ばれています。
出版界の動きとしては、実業之日本社が10月に新たに文庫レーベル「実業之日本社文庫」を立ち上げたことが挙げられます。書籍の刊行では、村上春樹氏のベストセラーシリーズ『1Q84』のBOOK3が発売され、大きな話題となりました。他にも、伊坂幸太郎氏『バイバイ、ブラックバード』、角田光代氏『ひそやかな花園』、桐野夏生氏『優しいおとな』、重松清氏『あすなろ三三七拍子』など、多くの人気作家が精力的に作品を発表しました。ノンフィクション分野では、近藤麻理恵氏の『人生がときめく片づけの魔法』が刊行され、その内容が広く受け入れられベストセラーとなりました。上野千鶴子氏『女ぎらい ニッポンのミソジニー』なども注目を集めました。
海外に目を転じると、世界的に権威のあるノーベル文学賞は、ペルーの作家マリオ・バルガス・リョサ氏に授与されました。英語圏最大の文学賞の一つであるマン・ブッカー賞は、ハワード・ジェイコブソン氏が受賞しています。ミステリー分野の国際的な賞も数多く発表されました。ネッド・ケリー賞、ヒューゴー賞（『都市と都市』、『ねじまき少女』などが受賞）、ペンUSAリテラリー・アワード（小説部門はヴィクター・ロダート氏）、CWA賞（ゴールド・ダガー賞はベリンダ・バウアー氏）、バリー賞（最優秀長編賞はジョン・ハート氏）、マカヴィティ賞（最優秀長編賞はケン・ブルーウン氏）、シェイマス賞（最優秀長編賞はマーシャ・ミュラー氏）、アンソニー賞（最優秀長編賞はルイーズ・ペニー氏）、エリス・ピーターズ歴史賞（ローリー・クレメンツ氏）、MWA賞（巨匠賞はサラ・パレツキー氏）、ネロ・ウルフ賞（ブラッド・バークス氏）などがこの年に受賞作を発表しました。これらの賞を通じて、世界中の多様な作品や作家が評価されました。
一方で、2010年は文学界にとって多くの才能との別れがあった年でもありました。日本国内では、劇作家、小説家として多大な功績を残した井上ひさし氏（75歳）、独創的な作風でファンを魅了した劇作家・演出家・小説家のつかこうへい氏（62歳）、静謐な私小説で知られる作家の三浦哲郎氏（79歳）が逝去されました。その他にも、角田房子氏（作家）、北森鴻氏（推理作家）、立松和平氏（作家）、清水一行氏（作家）、寺内小春氏（作家・脚本家）、永井するみ氏（作家）、佐野洋子氏（絵本作家）など、様々な分野で活躍した多くの文学者や文化人がこの世を去りました。海外でも、アメリカの伝説的な小説家J・D・サリンジャー氏（91歳）、競馬ミステリーで知られるイギリスの推理作家ディック・フランシス氏（89歳）、ノーベル文学賞作家であるポルトガルのジョゼ・サラマーゴ氏（87歳）、イギリスの「怒れる若者たち」を代表する作家アラン・シリトー氏（82歳）、SF作家のジェイムズ・P・ホーガン氏（69歳）、オランダのハリー・ムリシュ氏（83歳）などが逝去し、世界の文学界にとって大きな損失となりました。
2010年は、このように文学の創造、評価、そして継承が同時に進行した、活気に満ちつつも哀悼に包まれた一年として、記憶に留められています。
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