2012年の鉄道

2012年の鉄道界の概観

西暦2012年（平成24年）の鉄道界は、日本において新規の鉄道路線開業が実に131年ぶりになかった年として記憶されています。しかし、これは鉄道の動きが少なかったことを意味するものではありません。既存路線の機能強化や改良、海外での新たな地下鉄や高速鉄道の誕生、そして東北地方を中心に前年に発生した東日本大震災からの復旧に向けた取り組みなど、多岐にわたる重要な出来事が数多く発生しました。ダイヤ改正による利便性の向上や、長年親しまれてきた車両の引退、新型車両の導入も進む一方で、残念ながら国内外で複数の鉄道事故や事件も発生し、安全運行の課題も改めて浮き彫りになった一年でした。

路線と駅の主な動き

この一年では、新たな鉄道路線の開業こそなかったものの、既存路線の延伸や改良、駅の新設や廃止が見られました。
海外では、年明け早々の1月には台湾の台北捷運新荘線が延伸開業し、香港や中国、シンガポール、エジプト（カイロ地下鉄）でも地下鉄の新線開業や延伸がありました。4月にはイタリアで高速鉄道「イタロ」が開業。中国では蘇州地下鉄1号線、昆明地下鉄が開業し、年末にかけてもイスタンブール、杭州、カサブランカ、ロンドンなどで地下鉄やトラム、オーバーグラウンドの延伸や開業が相次ぎました。特に中国では、921kmに及ぶ哈大旅客専用線や約2200kmにも及ぶ京広高速鉄道が年末に開業するなど、高速鉄道網の整備が急速に進みました。
国内では、3月17日にJR東日本武蔵野線に吉川美南駅、JR東海東海道本線に相見駅がそれぞれ新設されました。一方、臨時のプレイピア白浜駅（JR八戸線）は廃止されました。3月末から4月にかけては、沖縄都市モノレールの延伸区間（首里～浦西、4.1km）の事業特許取得や、富山地方鉄道安野屋線の複線化、安野屋停留場・新富山停留場の移設など、既存路線の改良が進みました。
特に地方では、路線の廃止も相次ぎました。4月1日には、14.7kmを結んでいた十和田観光電鉄線と、24.4kmの長野電鉄屋代線が廃止され、それぞれの歴史に終止符を打ちました。これにより、沿線の駅も役割を終えました。
また、南海電気鉄道では南海本線に和歌山大学前駅が新設され、多くの路線で駅ナンバリングが導入されました。東武鉄道も東武スカイツリーラインの愛称使用開始と同時に駅名改称（業平橋→とうきょうスカイツリー）、広範囲な駅ナンバリング導入を実施しました。

大規模なダイヤ改正

この年は、3月17日を中心に全国の多くの鉄道事業者で一斉にダイヤ改正が実施されました。JRグループ各社をはじめ、IGRいわて銀河鉄道、青い森鉄道、私鉄、第三セクター鉄道など、広範囲に及びました。特に、東武鉄道の本線系統、近畿日本鉄道の主要路線、阪急・阪神電鉄などで変更が見られました。
秋には、10月15日に首都圏新都市鉄道つくばエクスプレスで通勤快速が新設され、10月21日には京浜急行電鉄、東京都交通局、京成電鉄、北総鉄道、新京成電鉄の相互直通運転を行う各社が、京急蒲田駅付近の連続立体交差化完成に伴う大規模なダイヤ改正を実施しました。これにより、羽田空港方面への速達列車増発や時間短縮が図られ、成田スカイアクセス線でも「スカイライナー」の増発などが行われました。

鉄道を巡る事故、災害、事件

安全運行への取り組みが続く中で、痛ましい事故や事件も発生しました。
年明けの1月3日には、JR東海道本線で臨時快速列車が踏切内の自動車と衝突し、自動車運転手が死亡する事故が発生。JR西日本木次線や富山地方鉄道立山線、JR大糸線、米坂線などでは、大雪や土砂崩れにより不通区間が発生しました。2月には、アルゼンチンやカナダで死傷者を伴う重大な列車事故が発生し、ポーランドでも3月に列車正面衝突事故が起きました。
国内では、阪急電鉄や三岐鉄道、北海道旅客鉄道（JR北海道）、日本貨物鉄道（JR貨物）などで信号冒進や脱線、施設の焼損などが相次ぎ、運輸当局からの警告文書交付などの行政処分も見られました。特にJR北海道では、2月と9月にほぼ同一地点で貨物列車の脱線事故が発生し、安全管理体制が問われました。
九州北部では、7月に発生した豪雨により、JR日田彦山線、久大本線、豊肥本線や平成筑豊鉄道の各線で土砂崩れや路盤流出が発生し、長期の不通となりました。また、7月14日に不通となった豊肥本線の一部区間（立野～宮地）は、9月3日まで復旧に時間を要しました。
事件としては、3月にはJR明石駅の駅員らによる着服事件や、小田急線でのわいせつ事件、4月には東京メトロでのPASMO履歴悪用などが発覚しました。不祥事としては、大阪市交通局や愛知環状鉄道、JR北海道などで職員の喫煙や盗撮、アルコールチェック虚偽申告などが明らかになりました。
東日本大震災からの復旧も少しずつ進展しました。3月17日にはJR石巻線の一部区間（石巻～渡波）、仙石線の一部区間（陸前小野～矢本）、八戸線の一部区間（種市～久慈）が運転を再開しました。4月1日には三陸鉄道北リアス線の一部区間（田野畑～陸中野田）が運転を再開。8月20日にはJR気仙沼線の柳津～気仙沼間がBRT（バス高速輸送システム）として暫定的に運転を再開するなど、被災地の交通網復旧に向けた動きが進みました。

引退と登場、車両の世代交代

この年は、多くの車両がその役目を終えました。特に新幹線では、東海道・山陽新幹線を長年支えてきた300系が3月16日・17日に相次いで定期運転を終了、さよなら運転を実施しました。同じく山陽新幹線・博多南線で活躍した100系も3月に定期運転を終えました。上越新幹線の初代オール2階建て車両であるE1系新幹線電車も9月29日に定期運用を終了し、10月にさよなら運転を行いました。
在来線でも、JR東海119系、JR貨物ED75形、小田急電鉄5000形、特急形車両である10000形「HiSE」や20000形「RSE」が引退しました。札幌市営地下鉄南北線の3000形や、廃止された十和田観光電鉄の車両たちも姿を消しました。
一方で、新たな車両も続々と登場しました。JR東日本では通勤・近郊形E233系が上野駅発着の路線に導入され、JR西日本では特急「くろしお」用に287系が運転を開始しました。東京メトロでは銀座線にレトロ調デザインの1000系が登場したほか、東横線・副都心線直通運転開始（翌年）に先駆け、10000系や東急電鉄5050系・5050系4000番台が相互乗り入れ区間での運転を開始しました。京阪電気鉄道では13000系が宇治線で運転を開始。JR貨物EH800形など、新型貨物機関車も登場しました。
この年の鉄道車両関連の受賞では、第55回ブルーリボン賞をJR東日本E5系新幹線電車が、第52回ローレル賞をJR貨物HD300形ハイブリッド機関車が受賞しました。

その他の動き

その他の出来事としては、1月11日にJR福知山線脱線事故における業務上過失致死傷罪での強制起訴に対し、神戸地裁が無罪判決を下しました。4月2日には、東急車輛製造がJR東日本グループ傘下となり、総合車両製作所として新たなスタートを切りました。
東日本大震災からの復旧計画も具体化し始めました。8月9日には、JR東日本が不通となっている石巻線女川駅を現在位置より内陸に移設する方向で検討を開始したことを発表。9月27日には、同じく不通区間である常磐線駒ケ嶺～浜吉田間の移設復旧工事を2014年春に着工することが発表されました。一方で、JR北海道は9月3日、江差線木古内～江差間の廃止方針を沿線自治体に正式に提案するなど、厳しい経営状況を背景にした路線の再編に向けた動きも見られました。

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