2015年の文学

2015年の文学界：話題作の登場と多くの別れ

2015年（平成27年）の文学界は、新たな才能の台頭と、長年にわたり活躍した作家たちの旅立ちが交錯する、印象深い一年となりました。特に、ある作品が巻き起こした社会現象は、多くの人々の文学への関心を呼び起こすきっかけとなりました。

注目すべき出来事

この年、最も世間の注目を集めた出来事の一つは、お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹氏が発表した小説「火花」です。この作品が文藝春秋発行の文芸誌『文學界』2015年2月号に掲載されると、発売後わずか2日間で累計4万部に達するという異例の売れ行きを見せ、創刊された1933年以来初となる増刷が決定しました。この出来事は、純文学誌としては極めて稀なことであり、大きな話題となりました。

また、作家の村上春樹氏の動向も注目されました。1月には、新潮社が運営する期間限定の読者交流サイト「村上さんのところ」を開設。そして4月には、米タイム誌が選ぶ恒例の「世界で最も影響力のある100人」に、日本人として村上氏と片付けコンサルタントの近藤麻理恵氏が選ばれています。さらに7月には、「村上さんのところ コンプリート版」が国内で初めての電子書籍として配信され、新たな読書体験を提供しました。

2015年の主な文学賞

2015年には、国内外で多くの文学賞が発表され、優れた作品が世に送り出されました。

日本国内の文学賞

第152回芥川龍之介賞・直木三十五賞（2014年下半期）： 1月に選考会が行われました。
芥川賞は小野正嗣氏の『九年前の祈り』に授与されました。
直木賞は西加奈子氏の『サラバ！』が受賞しました。

第153回芥川龍之介賞・直木三十五賞（2015年上半期）： 7月に選考会が行われ、大きな注目を集めました。
芥川賞は、前述の又吉直樹氏「火花」と、羽田圭介氏「スクラップ・アンド・ビルド」が同時に受賞しました。異なる分野で活躍する二人の受賞は、文学界に多様な視点をもたらしました。
直木賞は東山彰良氏の『流』が受賞しました。

その他の主要な文学賞：
谷崎潤一郎賞（第51回）は江國香織氏の『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』。
泉鏡花文学賞（第43回）は長野まゆみ氏『冥途あり』と篠原勝之氏『骨風』。
小林秀雄賞（第14回）は小熊英二氏『生きて帰ってきた男――ある日本兵の戦争と戦後』。
本屋大賞（第12回）は上橋菜穂子氏の『鹿の王』が選ばれています。

海外の文学賞

国際的な文学賞では、様々な国の作家が栄誉に輝きました。

ノーベル文学賞は、ベラルーシのジャーナリスト、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ氏が受賞。
ブッカー賞は、ジャマイカのマーロン・ジェームズ氏の『A Brief History of Seven Killings』に。
フランツ・カフカ賞は、スペインのエドゥアルド・メンドサ氏。
ジェイムズ・テイト・ブラック記念賞（2014年度）は、イギリスのジア・ハイダー・ラーマン氏の『In the Light of What We Know』。
エルサレム賞は、アルバニアのイスマイル・カダレ氏。
* ヴェルト文学賞は、ノルウェーのカール・オーヴェ・クナウスゴール氏に贈られました。

2015年に刊行された主な書籍

この年には、多数の話題作や力作が書店に並びました。小説分野では、赤瀬川原平氏『妄想科学小説』、井上真偽氏『その可能性はすでに考えた』、小川洋子氏『琥珀のまたたき』、川上未映子氏『あこがれ』、桐野夏生氏『抱く女』、小池真理子氏『千日のマリア』、澤田瞳子氏『若冲』、島本理生氏『夏の裁断』や『匿名者のためのスピカ』、住野よる氏のデビュー作『君の膵臓をたべたい』、長野まゆみ氏『冥途あり』、西川美和氏『永い言い訳』、花房観音氏『鳥辺野心中』、日和聡子氏『校舎の静脈』、又吉直樹氏『火花』、湊かなえ氏『絶唱』、宮下奈都氏『羊と鋼の森』、柚木麻子氏『ナイルパーチの女子会』、吉本ばなな氏『ふなふな船橋』などが刊行されました。海外作品では、カズオ・イシグロ氏の長編小説『忘れられた巨人』（土屋政雄訳）も注目を集めました。

小説以外の分野でも、温又柔氏『台湾生まれ 日本語育ち』、小熊英二氏『生きて帰ってきた男――ある日本兵の戦争と戦後』、倉橋由美子氏『最後の祝宴』、下重暁子氏『家族という病』、村上春樹氏『村上さんのところ コンプリート版』『職業としての小説家』『ラオスにいったい何があるというんですか?』など、多様なテーマの書籍が出版され、読書界を賑わせました。

逝去された文学者たち

2015年は、文学界にとって多くの別れがあった年でもありました。長年にわたり第一線で活躍し、多大な功績を残した作家や評論家が、惜しまれつつこの世を去りました。

年明けの1月から3月にかけては、小説家の平井和正氏（享年76）、陳舜臣氏（享年90）、赤瀬川隼氏（享年83）、河野多惠子氏（享年88）や、児童文学作家の松谷みよ子氏（享年89）、2011年にノーベル文学賞を受賞したスウェーデンの詩人トーマス・トランストロンメル氏（享年83）らが逝去されました。

4月から6月には、ジャーナリストの宮淑子氏（享年70）、英文学者の荒井良雄氏（享年79）、小説家の船戸与一氏（享年71）、イギリスの推理小説家ルース・レンデル氏（享年85）、児童文学作家・詩人の長田弘氏（享年75）といった方々が亡くなっています。

7月から9月にかけては、哲学者の鶴見俊輔氏（享年93）、フランス文学者の出口裕弘氏（享年86）と井上輝夫氏（享年75）、小説家の阿川弘之氏（享年94）、詩人・ジャズ評論家の奥成達氏（享年73）、イラストレーター・絵本作家の柳原良平氏（享年84）、そして『レナードの朝』の著者として知られる神経学者のオリバー・サックス氏（享年82）らが逝去されました。

10月から12月にかけても、演劇評論家の村井健氏（享年69）、スウェーデンの推理作家ヘニング・マンケル氏（享年67）、児童作家・詩人の舟崎克彦氏（享年70）、小説家の佐木隆三氏（享年78）、文芸評論家のルネ・ジラール氏（享年91）と佐藤泰正氏（享年98）、小説家の宇江佐真理氏（享年66）、内海隆一郎氏（享年78）、杉本章子氏（享年62）、翻訳家・ミステリ評論家の小鷹信光氏（享年79）、そして小説家の野坂昭如氏（享年85）など、多くの文学関係者が鬼籍に入りました。

2015年は、文学という営みが常に新陳代謝を繰り返し、歴史が積み重ねられていくことを改めて感じさせる一年であったと言えるでしょう。

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