32年テーゼ

32年テーゼの概要と影響

32年テーゼ（32ねんテーゼ）は、1932年5月にコミンテルンで制定された『日本における情勢と日本共産党の任務に関するテーゼ』の通称です。この文書は、「赤旗」1932年7月10日特別号で発表され、日本からは片山潜、野坂参三、山本懸蔵らが討議に参加しました。テーゼの作成は前年の31年政治テーゼ草案におけるゲオルギー・サファロフの失脚を受けて必要とされ、新たな指針が求められました。

1. テーゼの基本的な位置づけ

32年テーゼでは、日本の支配体制を絶対主義的な天皇制、地主的な土地所有、独占資本主義の三つのブロックが結びついていると規定しました。天皇制は地主階級と独占資本を代表し、絶対主義的な性格を持つものと見なされました。その結果、当面すべき革命はブルジョア民主主義革命、つまり反ファシズムのための闘争であるとされ、これに続く形でプロレタリア革命が位置づけられる、いわゆる二段階革命論が掲げられました。

反天皇制の立場を採るだけでなく、寄生的土地所有の廃止や7時間労働制の実現といった具体的な目標も打ち出しました。このテーゼは「米と土地と自由のため、労働者、農民の政府のための人民革命」というスローガンによって提唱されました。また、日本の中国侵略については単純に批判するのではなく、アメリカとの軍事衝突を避けるために帝国主義間戦争の反対を表明しました。

さらに、当時のコミンテルンは社会民主主義とファシズムを同一視する社会ファシズム論を支持し、社民勢力との闘争を特に重要視しました。そして、日本における革命的決戦の切迫した状況についても言及されました。

2. テーゼ作成における背景

伊藤晃の研究によると、32年テーゼにはスターリンの意思が大きく反映されていると言われています。文書にはフランスと日本という二国が「帝国主義的憲兵」としてソ連を攻撃するとあり、谷沢永一はこのことからスターリンが日本に対する恐れを抱いていたことがテーゼ作成の動機になったと指摘しています。コミンテルンが日本問題を最も優先すべき課題と考えていたことを、それまでの数多くのテーゼと照らし合わせることで伺うことができます。

3. テーゼの構成

32年テーゼは、大きく3つの章に分かれて構成されており、それぞれ以下のようなテーマを扱っています。

1. 日本帝国主義と戦争
2. 当面すべき革命の性質
3. 革命運動の現状と共産党の任務

各章は18の節から成り立ち、細かい議論が展開されています。

4. テーゼの影響

戦前の影響

戦前には、野呂栄太郎などが32年テーゼを基にした形で『日本資本主義発達史講座』を発表し、講座派というグループを形成しました。これは知識人に一定の影響を与え、また社会ファシズム論は労働運動にも影響を及ぼしました。対照的に労農派はこの論に反対し、大論争を繰り広げましたが、共産主義弾圧の影響で展開は途絶えました。

戦後の影響

第二次世界大戦後、1945年10月に政治犯として獄中にいた徳田球一や志賀義雄がGHQによって釈放されました。彼らは元々32年テーゼに熱心だったため、綱領的な立場を持ち続け、日本共産党は復活を果たしました。特に、出獄した際に発表した獄中手記には連合国を支持する内容が含まれており、これが通称『解放軍規定』として後に知られるようになりました。

時が経つにつれて、日本は社会主義革命の前夜と言える時代を迎えることになりますが、日本共産党は1947年にマッカーサーの命令でゼネストを中止し、結果を残さない敗北を経験しました。この一連の出来事から、32年テーゼは他の左派に否定的に捉えられ、また吉本隆明の「転向論」にも影響を与え、日本共産党に対する批判的な視点は現代にまで引き継がれています。

一方で、右派の立場からは、谷沢永一が32年テーゼを指し、「進歩的文化人の源流」と位置づけて批判を行っていることも注目されます。

もう一度検索