TOI-1338

TOI-1338

TOI-1338は、地球からおよそ1,320光年離れた、ががか座の方向にある連星系です。この星系の特筆すべき点は、複数の惑星が二つの中心星の周りを公転する、いわゆる周連星惑星系であることが確認されている点です。現在までに、少なくとも二つの惑星、TOI-1338 bとTOI-1338 cが存在することが明らかになっています。

発見の経緯と名称

「TOI」という名称は、「TESS Objects of Interest」の略であり、NASAのトランジット系外惑星探索衛星TESSによって発見された候補天体であることを示しています。TOI-1338系で最初に発見された惑星TOI-1338 bは、2019年の夏に当時17歳の高校生であったウォルフ・キュキアー氏によって見出されました。彼はゴダード宇宙飛行センターでの夏のインターンシップ期間中に、市民科学プロジェクト「プラネットハンターズ」のボランティアが食連星候補としてフラグを立てた光度曲線を解析していました。この画期的な発見は、キュキアー氏と6名のプラネットハンターズのボランティアとの共同研究として論文にまとめられました。キュキアー氏は現在、プリンストン大学で宇宙物理学を専攻しています。

惑星発見に大きく貢献したキュキアー氏でしたが、惑星に命名する機会は与えられませんでした。2021年2月には、惜しまれつつ亡くなった音楽家兼プロデューサーのソフィーに敬意を表し、TOI-1338 bを「SOPHIE」と命名することを求める嘆願書が提出され、90,000を超える署名が集まりました。このキャンペーンは、チャーリー・XCXやキャロライン・ポラチェックといった著名なアーティストからも支持を得ました。

連星系の詳細

TOI-1338連星系は、F8スペクトル型を持つ主星と、Mスペクトル型（赤色矮星）の伴星からなる単線分光連星です。推定される年齢は約44億年と、太陽とほぼ同程度です。質量は主星がおよそ太陽質量の1.13倍、伴星が0.313倍で、これら二つの星は約14.6日の周期で互いの共通重心の周りを公転しています。伴星は主星に比べて約9等級も暗く、その存在をスペクトル観測で直接検出することは困難です。

二つの恒星の軌道面は観測者から見て約89.7度傾いており、恒星同士が互いを隠し合う「食」の現象が観測されます。明るい主星が暗い伴星に部分的に隠される現象は約5時間続き、星系全体の明るさが約4%減少します。一方、暗い伴星が明るい主星の背後を通過する際も約5時間続きますが、この場合は明るさの減少は0.5%未満とわずかです。

惑星系の構造

TOI-1338系で最初に発見された惑星TOI-1338 bは、大きさが海王星と土星の中間程度と推測されています。この惑星の軌道面は、中心の連星の軌道面とほぼ同一平面内（約1度以内の違い）にあります。さらに、主星の自転軸も連星および惑星の軌道面とほぼ一致していることが、ロシター・マクローリン効果の観測から明らかになりました（赤道傾斜角β = 2.8±17.1度）。周連星惑星を持つ恒星でこの効果が測定されたのは、ケプラー16系に次いでこれが二例目です。このような恒星の自転軸と惑星・連星の軌道面との高いアラインメントは、惑星が連星を取り囲む単一の原始惑星系円盤から形成されたことを強く示唆しています。

2023年には、ドップラー分光法を用いることで、この系に二番目の周連星惑星、TOI-1338 cが存在することが確認されました。この惑星は約215.5日の周期で連星の周りを公転しており、欧州南天天文台の高精度視線速度系外惑星探査装置（HARPS）およびESPRESSOを用いた観測によって発見されました。TOI-1338 cは、ドップラー分光法のみによってその存在が確認された初の周連星惑星として、系外惑星探査における重要な発見の一つとなっています。

これらの発見により、TOI-1338系は、複数惑星を持つ周連星系として、その形成と進化の過程を理解する上で極めて重要な研究対象となっています。

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