UH-60 (航空機)

UH-60 ブラックホーク：多用途ヘリコプターの傑作

UH-60 ブラックホークは、シコルスキー・エアクラフト社が開発した、4翅シングルローター、双発エンジン搭載の中型多目的ヘリコプターです。アメリカ陸軍の汎用戦術輸送機システム（UTTAS）計画に基づいて開発され、その卓越した性能から、世界各国の軍隊で広く採用されています。

開発の背景

1960年代後半、アメリカ陸軍はUH-1 イロコイの後継機として、UTTAS計画を立ち上げました。この計画では、生存性と信頼性の向上を重視し、新型ガスタービンエンジンの開発も同時に進められました。その結果、採用されたのがゼネラル・エレクトリック T700エンジンです。ベトナム戦争でUH-1が多数撃墜された教訓から、低空での生存性が重視されました。RFPにはC-130輸送機への搭載要件も盛り込まれ、機体の全高や全長が指定されています。これらの厳しい要件をクリアしたUH-60は、1974年10月に初飛行を行い、1979年にアメリカ陸軍で正式運用が開始されました。

機体の特徴

UH-60は、4枚羽根のメインローターとテールローターを持ち、ゼネラル・エレクトリックT700型ターボシャフトエンジンを2基搭載しています。ローターは折りたたみ式で、エラストマー製のベアリングローターヘッドに固定されます。テールローターは傾斜が付けられた剛性クロスビーム構造です。また、C-130輸送機での輸送を考慮した低全高設計となっています。

完全武装の歩兵11名を搭乗させることができ、内部積載量は約1,170kg、外部吊り下げ能力は約4,050kg（UH-60L/M）を誇ります。胴体には外部搭載支援システム（ESSS）を装備可能で、対戦車ミサイル、ロケット弾、ガンポッド、増槽などを搭載できます。これにより、攻撃ヘリコプターとしての役割を果たすことも可能です。機体の調達価格は仕様や装備によって異なり、UH-60Lで約590万ドル、MH-60G「ペイブホーク」で約1,020万ドルです。

多彩な運用

ブラックホークシリーズは、特殊作戦、戦術輸送、電子戦、医療後送、負傷者後送、避難救助など、幅広い任務に対応できます。VIP輸送機としても使用されており、アメリカ大統領専用機として「マリーンワン」のコールサインで運用されています。ヘリボーン作戦では、1個分隊11名とその装備、またはM102 105mm榴弾砲と4名の砲兵を同時に運搬可能です。

派生型と改良

運用開始後も、様々な任務に対応するための改良が続けられてきました。EH-60は電子戦、MH-60は特殊作戦支援を目的として開発されました。アメリカ陸軍はUH-60Lへの改良を命じ、T700-GE-701Cエンジンと強化ギアを搭載し、吊り上げ能力を大幅に向上させました。さらに、自動操縦装置（AFCS）の導入により、飛行性能も向上しています。2001年には、UH-60Mの改良が認可され、T700-GE-701Dエンジンと新型回転翼、新型アビオニクスが採用されました。2011年のウサーマ・ビン・ラーディン殺害作戦では、ステルス性能を向上させた特殊仕様のUH-60が使用されたことでも知られています。

各国での運用

アメリカ軍に加え、UH-60ファミリーは多くの国に輸出されています。日本においては、海上・航空自衛隊が救難任務仕様のUH-60Jを、陸上自衛隊が多用途仕様のUH-60JAを運用しています。中国も高地での運用を考慮したS-70C-2を導入しています。コロンビアでは、麻薬組織鎮圧作戦にAH-60L「Arpía」が使用されています。イスラエル空軍はUH-60Aを導入し、ベル 212の後継機として運用しています。メキシコ空軍は特殊部隊輸送用に、台湾空軍は捜索救難用にUH-60を採用しています。トルコは国内生産も計画しており、アフガニスタンやバルカン半島での任務にUH-60を使用しています。近年では、アフガニスタンを再制圧したタリバンも、アメリカ軍や旧政府軍の機体を鹵獲して運用しています。

ブラックホークの多様なモデル

ブラックホークには様々な派生型が存在します。

• - 汎用型:

- YUH-60A：試作機。
- UH-60A：アメリカ陸軍採用の基本型。
- UH-60C：指揮統制システム搭載型。
- UH-60L：エンジンやギアボックスを改良した型。
- UH-60M：最新のアビオニクスとグラスコックピットを搭載した型。

• - 特殊形態:

- EH-60A/C：電子戦型。
- YEH-60B：特殊レーダー搭載型。
- EUH-60L：指揮統制システム搭載型。
- UH-60Q/HH-60L/M：医療任務型。
- MH-60A/K/L/M：特殊作戦型。
- VH-60D/N：VIP輸送型。

• - 輸出型:

- UH-60J/JA：日本向けの救難・多用途型。
- AH-60L Arpía III：コロンビア向けの武装ヘリコプター。
- UH-60P：韓国向けの改良型。
- S-70A：シコルスキーによる輸出軍用型。
- S-70i：UH-60Mをベースにしたポーランド製の輸出型。

• - 派生型:

- SH-60 シーホーク：アメリカ海軍向けの哨戒ヘリコプター。
- HH-60H/J レスキューホーク/ジェイホーク：救難ヘリコプター。
- HH-60D/G/W：アメリカ空軍向けの救難ヘリコプター。
- MH-60A/K/L/M：特殊作戦用ヘリコプター。
- S-70：UH-60の設計を継ぐ民間向けモデル。

性能諸元 (UH-60L)

• - 乗員：2名
• - 全長：19.76m
• - 全高：5.13m
• - ローター直径：16.36m
• - 空虚重量：4,819kg
• - 最大離陸重量：10,660kg
• - エンジン：ゼネラル・エレクトリック T700-GE-701C ターボシャフト×2
• - 最高速度：295km/h
• - 航続距離：2,220km（外部タンク装備時）
• - 実用上昇限度：5,790m
• - 武装：M240/M134/GAU-19機関銃、VOLCANO地雷散布システム、ハイドラ70ロケット弾、AGM-114ヘルファイアなど

登場作品

ブラックホークは、映画、テレビドラマ、漫画、アニメ、ゲームなど、数多くのフィクション作品に登場し、その活躍が描かれています。

• - 映画：「ブラックホーク・ダウン」、「トランスフォーマー」シリーズ、「ゼロ・ダーク・サーティ」、「アルマゲドン」など。
• - アニメ：「攻殻機動隊 SAC_2045」、「エヴァンゲリオン」シリーズ。
• - ゲーム：「コール オブ デューティ」シリーズ、「バトルフィールド」シリーズ、「メタルギアソリッドV」など。

ブラックホークは、その高い汎用性と信頼性から、軍事作戦だけでなく、救助活動や災害派遣など、幅広い分野で活躍しています。今後も、その進化は止まることなく、世界中の平和と安全に貢献していくでしょう。

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