大魔神

『大魔神』は、1966年に大映（現KADOKAWA）が制作・公開した特撮時代劇映画のシリーズ三部作、およびその劇中に登場する守護神の名称です。

概要

『大魔神』、『大魔神怒る』、『大魔神逆襲』の三作品は、いずれも1966年に大映京都撮影所で制作され、時代劇と特撮が見事に融合した作品群として知られています。時代劇の本場であった同撮影所では、『座頭市シリーズ』や『眠狂四郎シリーズ』などを手がけたベテラン監督、安田公義をはじめとする時代劇専門の監督たちが起用され、時代劇としての重厚なリアリティも追求されました。

各作品は独立したエピソードを持ちながら、共通して日本の戦国時代を舞台としています。悪人たちの陰謀によって民衆が苦しめられると、普段は穏やかな表情の石像である大魔神が復活し、圧倒的な破壊力で悪を打ち倒すという展開が特徴です。

娯楽性を追求した作風と大魔神の独特な設定は、『ガメラ』シリーズと並び、大映特撮映画を代表する看板作品となり、後年の漫画やアニメでパロディの対象とされることも多く、テレビCMにも採用されました。大魔神の原型は、未制作の企画『ガメラ対宇宙氷人』に登場する「宇宙氷人」にあり、また、「妖怪シリーズ」に登場する「吸血妖怪ダイモン」は大魔神から強い影響を受けています。海外では、 “MAJIN” という名前で知られています。

作品解説

大魔神

1966年 4月17日に公開されたシリーズ第一作。併映は『大怪獣決闘ガメラ対バルゴン』でした。大映京都撮影所では、京都と東京の撮影所を使い分け、特撮映画を2本立てで公開するという、当時としては画期的な興行スタイルを打ち出しました。この試みは、円谷英二を擁する東宝でさえ実現できなかったものでした。制作予算は1億円で、配給収入も1億円を記録し大ヒットしましたが、「結局トントンで利益はなかった」とされています。

企画は1965年の企画会議で、チェコスロバキア映画『巨人ゴーレム』に着想を得て、大映京都撮影所の特撮技術を活用するという内容で提出されました。企画時の題名は『大魔神現わる』で、作中に登場する人物の名前は、企画担当の奥田久司によるものです。

大魔神の身長は、画面上でのリアリティを追求するため、黒田義之特撮監督によって15尺（約4.5メートル）と定められました。2体の着ぐるみと、必要に応じて手足などのパーツが製作されました。黒田は後に円谷プロダクションに参加しましたが、これは本作を観た円谷一からの誘いがきっかけだったと言われています。

当時の大映社長、永田雅一は、この映画の公開に際し「日本映画界は必ず復興する」と新聞で語り、その意気込みを示しました。大魔神シリーズでは、ブルーバック合成が非常に効果的に使われていますが、そのために11メートル×4.6メートルの巨大なライトスクリーンが導入されました。この機材は、当時の価格で約1,000万円もする巨費を投じて輸入されたものですが、大魔神シリーズ以外では、同じく京都撮影所で制作された『妖怪百物語』などの「妖怪シリーズ」以外では、ほとんど使われることはなかったとされています。

撮影監督の森田富士郎は、本編と特撮の両方を一人で担当することで、リアリティを生み出すことができると主張し、それを条件に本作の撮影を引き受けました。この功績により、彼は新人カメラマンを対象とする三浦賞を受賞しました。合成画面は現像に時間がかかり、1カットの費用も高額だったため、森田は大きなストレスを感じたと言います。

大映は本作に先立ち、日米合作の航空特撮映画『あしやからの飛行』を制作しましたが、その際にブルーバック合成で苦労した経験から、大魔神ではより高度な技術が用いられました。森田がテストフィルムを撮影したところ、その出来栄えが非常に良かったため、『大魔神』の企画につながったとされています。

大魔神役のスーツアクターは、元プロ野球選手の橋本力が務めました。橋本は撮影中、瞬きをしないことで、血走った目が印象的な役作りをしました。その目は、茶でしか綺麗にすることができなかったと言われています。作曲を担当した伊福部昭は、魔神の映像を見て驚きながらも、その印象的なテーマ曲を作り上げました。

大映京都のスタッフは、長年の時代劇セットのノウハウを活かし、精巧なミニチュアを制作しました。ラストシーンで崩壊する魔神のミニチュアは、高山良策が手がけましたが、想定通りには崩れず、試行錯誤を繰り返したとされています。

砦のオープンセットは、京都の採石場に組まれました。撮影には3ヶ月を要し、数多くのスタッフの努力によって、映画が完成しました。

あらすじ

戦国時代、丹波の国の領主・花房家は、家老の大館左馬之助の裏切りによって滅ぼされてしまいます。幼い忠文と小笹の兄妹は、忠臣の小源太によって助けられ、魔神の山の巫女である信夫のもとで身を寄せ、復興の機会をうかがいます。時が経ち、兄妹は成長しますが、左馬之助は相変わらず民衆を苦しめ、魔神の山の武神像の破壊を命じます。小笹が捕らえられ、その目の前で武神像に鏨が打ち込まれると、武神像から血が流れ出し、地震が発生します。怒った武神は、大魔神となって蘇り、左馬之助らを打ち倒します。しかし、魔神の怒りは収まらず、小笹の命乞いによってようやく鎮まり、土塊となって崩れ去ります。

大魔神怒る

1966年 8月13日に公開されたシリーズ第二作。前作の大ヒットを受け、お盆興行作品として制作されました。監督は時代劇映画のベテラン、三隅研次が担当しました。制作費は1億円で、興行収入もほぼ同額だったとされています。

本作では、魔神は水の魔神として描かれ、湖から出現し、水となって消えていきます。魔神が湖面を割って出現するシーンには、鴨川の堤が使われました。神の島のスタジオセットは、巨大なもので、武神像の岩壁は鉄板や丸太、火山岩を用いて作られました。出現シーンは映画『十戒』に、ラストシーンはゲアハルト・ハウプトマンの『沈鐘』に着想を得ています。

突風で瓦が飛ぶシーンでは、「京都の八つ橋」を連想し、煎餅の「八つ橋」を瓦の形に焼いたものが使われました。

あらすじ

戦国時代、千草家とその分家が治める八雲の国は、隣国の武将・御子柴弾正によって滅ぼされます。千草家の領主・十郎らは、神の島にある武神像を目指しますが、弾正によって武神像は破壊されてしまいます。弾正は、早百合を火あぶりにしようとしますが、その時、湖から大魔神が現れ、弾正らを打ち倒します。そして、魔神は元の穏やかな表情に戻り、水となって消えます。最後に、湖の底から鐘の音が響きます。

大魔神逆襲

1966年 12月10日に公開されたシリーズ最終作。「子供を主役にしたい」という森一生監督の意向により、子供たちが主役として描かれています。本作では魔神は雪の魔神として登場し、雪の中から現れ、粉雪となって消えていきます。

魔神の使いとして、大鷹が初めて登場しました。また、魔神が腰に帯びた宝剣を初めて抜いた作品でもあります。ラストシーンで雪と化す魔神は、ソフトクリームの原料の粉が用いられました。雪山のロケは立山で行われ、山中のロケは大台ケ原で行われました。

あらすじ

戦国時代、瓜生の里の武将・荒川飛騨守は、火薬製造を企て、村人を連行し強制労働させます。村の子供たちは、魔神の山を越え、地獄谷へ向かいます。子供たちは、魔神の使いとされる大鷹に助けられ、武神像の前で命を投げ出す覚悟を決めた鶴吉の願いにより、武神像は魔神へと変貌します。魔神は、子供たちを助け、飛騨守を倒します。その後、魔神は吹雪となって消えていきます。

キャラクターとしての大魔神

名称と造形

神としての正式名称は阿羅羯磨（あらかつま）と設定されています。造形のモデルは、古墳時代の人物形象埴輪である『埴輪挂甲武人』とされ、甲冑を身に着けた姿をしています。普段は柔和な表情ですが、怒ると憤怒の表情に変わります。その際、腕で顔を拭うような仕草をするのが特徴です。

攻撃方法は、右手から繰り出すパンチと、腰につけた鋼鉄の剣が主です。パンチ力は非常に強力で、城門などを一撃で破壊できます。他にも、風圧で火を消したり、水流を発生させたり、火の玉を放つなど、多彩な遠隔攻撃も可能です。白い光となって高速飛行する能力も持っています。戦闘が終わると、石像に戻り、風化して消滅します。

大魔神の身長や体重の設定は、資料によって異なります。

造形

大魔神の造形は、『ウルトラQ』や『ウルトラマン』の怪獣造形を担当した高山良策が手がけています。高山は、実物大の魔神やミニチュアなどを制作しました。2作目、3作目の大魔神は、高山の造形を参考に、エキスプロダクションがより軽量なものを制作しました。実物大の魔神は、製作費500万円と3ヶ月をかけて制作されました。当初、魔神の目は電球仕掛けでしたが、役者の目を活かすために、作り直されました。

現存する大魔神像

1966年当時の撮影に使われた実物大魔神像は、海洋堂が引き取り、本社に保管されています。また、イベント用に製作された大魔神像は、京都市右京区の商店街に設置されています。

メディア展開

漫画化

『大魔神』は、映画公開後に漫画化されました。

リメイク企画

過去に何度もリメイク企画が立ち上がりましたが、実現には至っていません。テレビシリーズ化や、ハリウッドでの映画化の企画もありました。2010年には、テレビシリーズ『大魔神カノン』が製作・放送されました。2021年には、映画『妖怪大戦争ガーディアンズ』にリデザインされた大魔神が登場しました。

映像ソフト化

1981年頃からビデオソフトが発売され、その後、レーザーディスク、DVD、Blu-rayと様々なフォーマットで販売されています。

テレビCMへの出演

トヨタやサントリー、エースコックのCMに出演しています。

その他の起用

2015年には、寺社連続油被害事件の防犯ポスターに採用されました。

脚注

注釈

出典

参考文献

『ファンタスティックコレクション大魔神』
『大映特撮コレクション大魔神』
『宇宙船』
『大魔神』3シリーズDVD 各巻の関係者コメンタリー
『ガメラから大魔神まで大映特撮映画のすべて』
『日本特撮・幻想映画全集』
『空想科学読本3（新装版）』
『怪獣秘蔵写真集造形師村瀬継蔵』
『奈良国立博物館だより』

外部リンク

大魔神 - allcinema
大魔神 - KINENOTE
Daimajin - オールムービー（英語）
Daimajin - IMDb（英語）
大魔神怒る - allcinema
大魔神怒る - KINENOTE
The Return of Giant Majin - IMDb（英語）
大魔神逆襲 - allcinema
大魔神逆襲 - KINENOTE
Majin Strikes Again - IMDb（英語）

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