山城国一揆

山城国一揆：国人と農民による自治の試み

山城国一揆は、文明17年（1485年）に山城国（現在の京都府南部）の南部、上三郡と呼ばれる地域で発生しました。この一揆は、地元の国人や農民が協力し、守護大名であった畠山氏の政治的な影響力を排除し、その後8年間自治を行ったという特異な事例です。一般的に、国人を中心とした一揆を「国一揆」と呼びますが、山城国一揆は農民も参加したことから「惣国一揆」としての側面も持っています。

一揆成立の背景

応仁の乱後も、各地で守護大名同士の小競り合いが絶えませんでした。山城国南部も例外ではなく、畠山氏内部では跡目争いから畠山義就と畠山政長が対立を続けていました。本来、山城国には名目的な守護しか置かれていませんでしたが、文明10年（1478年）に畠山政長が任命されて以降、本格的な領国化を目指す動きが活発化します。しかし、両畠山氏の長年にわたる争いは、国人衆や農民を疲弊させ、山城国一揆へと繋がる土壌を形成しました。

文明17年（1485年）、南山城の国人衆や農民たちは宇治の平等院に集まり、評定を開きました。この評定で「国中掟法」という独自のルールを取り決め、両畠山氏の影響を排除し、南山城の自治を行うことを決定しました。政治は「三十六人衆」と呼ばれる指導的な国人衆によって行われ、南山城は「惣国」と呼ばれる政治形態へと移行しました。

室町幕府との関係

当時、室町幕府は応仁の乱後の混乱から経済基盤の再建を急務としており、お膝元である山城国の御料国化を進めていました。そのため、幕府は有力守護大名が山城国を支配することを望んでおらず、管領の細川政元らは一揆に対して静観の姿勢を取りました。また、「三十六人衆」の中には、一揆以前から畠山氏に対抗する形で細川氏との被官関係を結んでいた者もいたとされています。

文明18年（1486年）には、幕府政所執事の伊勢貞宗の嫡男である貞陸が守護に任命されます。幕府と伊勢氏は、一揆側に検断権や半済権などの一定の政治権限を認める一方で、畠山氏が持っていた守護請の権限を継承しました。また、必要に応じて守護役の徴収を国人たちに求め、一揆側がこれに応じることもありました。この背景には、足利義政と足利義尚という幕府内の権力闘争があり、山城国からの段銭徴収によって不足する財源を補おうとする思惑があったとされています。

当時の室町幕府は、長享・延徳の乱や畠山基家討伐に見られるように、兵力を動員できるだけの軍事力を保持していましたが、京都の目の前で発生した山城国一揆を鎮圧する姿勢を示しませんでした。これは、国人たちが室町幕府や守護領国制自体を否定するために一揆を起こしたのではなく、両者の利害が直ちに対立するものではなかったためと考えられています。

一揆の崩壊

国人衆による政治は、次第に国人と農民の対立や国人同士の対立を生み、惣国は崩壊の兆しを見せ始めました。特に、明応の政変による幕府内部の混乱は、幕府有力者たちによる山城国人衆への切り崩し工作として現れました。これまで半ば名目上の守護であった伊勢貞陸は、足利義材の支持者の京都侵攻に対抗することを名目に、山城全域の一円知行化を目指すようになり、国内の寺社本所領の接収を進めました。さらに、貞陸は大和の有力者で畠山基家の被官でもあった古市澄胤を南山城の守護代に任じて支援を仰ぎました。これにより、伊勢・古市の支配を認めて従来の地位を維持しようとする国人と、「他国者」である古市の侵入を認めず細川氏などと結んで排除しようとする国人に分かれました。

明応2年（1493年）、伊勢氏に近い国人たちは自ら自治を放棄する集会を開き、惣国は解体され、守護の支配下に入ることになりました。これに反対する一部の国人衆は稲屋妻城に立てこもって抵抗しましたが、足利義材追放の中心人物であった細川政元は、伊勢氏の主張を拒むことができず、表立って一揆側を支援することができませんでした。また、政元や畠山基家は古市澄胤に兵の引き上げを命じましたが、守護伊勢貞陸の支援を受けていた古市はこれを拒否し、国人衆の抵抗を鎮圧しました。翌年11月には古市軍によって一揆側は敗れ、ここに山城国一揆は完全に終結することとなりました。

一揆終結後、山城国は伊勢氏の統治下に置かれましたが、鎮圧から翌年の明応3年（1494年）には畠山氏の家臣が勝手に南山城に侵入、翌年にも同様の事件が発生し、伊勢氏は山城での権力を低下させました。その後、細川氏の影響力が増していき、明応6年（1497年）には、細川政元の家臣である香西元長が下郡守護代に就任し、山城で権勢を振るうようになりました。

研究と史料

山城国一揆は大正元年（1912年）に三浦周行が論文で取り上げて以後、広く知られるようになりました。

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