長享・延徳の乱

長享・延徳の乱は、室町時代後期に2度（長享元年（1487年）と延徳3年（1491年））にわたって室町幕府が近江守護・六角行高（後の六角高頼）に対して行った親征です。この戦いは、六角征伐とも呼ばれ、1度目の出陣は近江国栗太郡鈎（まがり）に在陣したため、鈎の陣とも称されます。

開戦の経緯

応仁の乱終結後、各地で守護や国人らが寺社領や公家の荘園を侵略し勢力を拡大しました。旧西軍に属していた近江守護・六角行高も同様に荘園などを押領していました。長享元年（1487年）7月、奉公衆の一色政具の訴えをきっかけに、他の奉公衆も六角行高に対して訴訟を起こしました。さらに寺社本所領の押領も発覚し、幕府は威信回復のため六角氏討伐を決意しました。

第一次六角征伐（鈎の陣）

第9代将軍・足利義尚は、先代将軍・足利義政との対立や、奉公衆と奉行衆の対立を抱えていました。長享元年（1487年）9月12日、足利義尚は管領・細川政元をはじめとする諸大名や奉公衆、公家衆を率いて近江坂本へ出陣しました。鈎の陣は幕府の政務も担いましたが、義政側近の奉行衆は同行を許されず、政務から外されました。

六角行高は観音寺城を放棄して撤退しましたが、甲賀郡山間部でゲリラ戦を展開し、戦闘は膠着状態に陥りました。加賀守護・富樫政親は加賀一向一揆の激化により帰国、討たれました。足利義尚は一揆勢をも討伐する意向を示しましたが、細川政元に反対され断念しました。同年、義尚は側近の結城尚豊を近江守護に任命しました。諸大名は討伐を警戒し、代理として子息や家臣を派遣しました。越前守護の朝倉貞景は一族を派兵しましたが、美濃守護の土岐成頼は嫡男を派遣するにとどまりました。尾張守護の斯波義寛は織田一族ら大軍を率いて参陣しましたが、越前を支配する朝倉氏との関係から、越前回復を訴えました。この争論で斯波氏と朝倉氏は互いに譲らず、幕府は内輪揉めを避けるため斯波義寛の訴えを認めませんでした。

足利義尚の側近衆への反発も強まり、遠征は膠着状態に陥りました。長享3年（1489年）3月、足利義尚は病に倒れ、近臣らは義尚を一時帰京させ、足利義視・義材親子に六角氏討伐を任せようとしましたが、義尚は近江鈎の陣中で死去しました。近江守護であった結城尚豊が出奔し、六角討伐は中断となりました。

参加した大名

細川政元：第一次征討では義尚と相談して征討を決断
細川政之：阿波守護。出陣中に病死
畠山政長：管領
斯波義寛：尾張守護。遠征軍の主力
京極政経：六角氏と長年対立
富樫政親：加賀守護。出陣中に加賀一向一揆に討たれる
武田国信：若狭守護
山名政豊：嫡男の山名俊豊を派遣
一色義直：嫡男の一色義秀を派遣
土岐成頼：嫡男の土岐政房を派遣
大内政弘：家臣の問田弘胤を派遣
朝倉貞景：一族の朝倉景冬を派遣

第二次六角征伐

延徳2年（1490年）に足利義政が死去し、足利義材が将軍に就任しました。義材は六角行高を赦免しましたが、六角氏の内衆は寺社本所領の返還を拒否しました。延徳3年（1491年）4月、足利義材は六角征伐を宣言しました。この号令に対し、多くの大名が参陣し、軍勢は第一次征討の何倍にも膨れ上がりました。足利義材は大軍を率いて近江大津三井寺光浄院に本陣を置き、赤松政則、武田元信を師奉行に任じ、細川政元を近江守護に任じました。六角行高は甲賀に退却してゲリラ戦を展開しましたが、赤松重臣の浦上則宗と斯波重臣の織田敏定の活躍により、六角一族の山内政綱が降伏しました。足利義材はこれを許さず誅伐し、功績のあった両名に剣を与えました。

延徳4年（1492年）3月、安富元家が六角軍に奇襲されて敗走しましたが、足利義材は浦上則宗、逸見弾正、織田敏定らを送り込み、簗瀬河原で六角勢を打ち破りました。同年5月、義材は斯波義寛を先鋒に任じ、赤松氏、武田氏と共に甲賀に送り込みました。10月には自ら出陣し、六角軍は甲賀を捨てて伊勢に逃亡しました。足利義材は六角虎千代を守護に任命して兵を引き払い、京に凱旋しました。

参加した大名

細川政元：出陣に消極的で家臣の安富元家を派遣
細川義春：阿波守護
畠山尚順：畠山政長の嫡男
斯波義寛：遠征軍の主力
武田元信：若狭守護。遠征軍の主力
赤松政則：重臣の浦上則宗と共に出陣。遠征軍の主力
京極政経：配下の国人衆が寺社領を横領
山名政豊：嫡男の山名俊豊が出陣
一色義直：自ら出陣
土岐成頼：自ら出陣
大内政弘：自ら出陣

遠征の影響

近江遠征により足利義材は自信を深めましたが、細川政元や日野富子との関係は疎遠になりました。明応2年（1493年）、足利義材は畠山政長の訴えを聞き入れ河内遠征を行いましたが、細川政元、日野富子と通じていた畠山義豊によって廃され、第11代将軍足利義高（のち義澄）が擁立されました（明応の政変）。これにより畠山政長は戦死し、足利義材は幽閉され、奉公衆は解体されました。討伐対象だった六角行高は混乱に乗じて六角虎千代を追放し、守護に任命された山内就綱との戦いにも勝利しました。

明応4年（1495年）には足利義高より赦免され、六角高頼と改名しました。その後も六角高頼は幕府の混乱に巻き込まれ、足利義澄・義晴父子を庇護するなど、細川京兆家の内訌や幕府の将軍職争いに翻弄されました。

時代が下り、永禄11年（1568年）には、織田信長に擁されて上洛した足利義昭を拒んだ六角義賢・義治父子は、織田軍との戦いに敗れて観音寺城を放棄し、甲賀郡へと逃れました。しかし、足利義昭は信長による南近江支配を認め、六角氏の近江支配は終焉を迎えました。

鈎の陣を題材とした作品

赤神諒『神遊の城』講談社、2018年

参考文献

橋本博編「国立国会図書館デジタルコレクション長享元年九月十二日常徳院殿樣江州御動座當時左陣衆着到」『大武鑑. 巻之1』大洽社、1935年。
尋尊著「国立国会図書館デジタルコレクション延徳3年7月～延徳3年12月」、辻善之助編『大乗院寺社雑事記. 第10巻尋尊大僧正記 144-162』三教書院、1931-1936。
石田晴男『応仁・文明の乱』吉川弘文館〈戦争の日本史9〉、2008年。
福島克彦『畿内・近国の戦国合戦』吉川弘文館〈戦争の日本史11〉、2009年。
渡邊大門『戦国誕生中世日本が終焉するとき』〈講談社現代新書〉2011年。
山田康弘『足利義稙―戦国に生きた不屈の大将軍』戎光祥出版、2016年。
呉座勇一『応仁の乱戦国時代を生んだ大乱』〈中公新書〉2016年。

関連項目

六角氏に味方した甲賀の一族
甲賀二十一家
甲賀五十三家

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