引き角

将棋における引き角：定義と戦略的意義

将棋において「引き角」とは、角行を初期位置から右下に1マス移動させた状態を指します。先手であれば7九、後手であれば3一の位置になります。初期位置（先手8八、後手2二）を「居角」、端の位置（先手9七、後手1三）を「端角」と呼び、これらと区別されます。

引き角は、特に振り飛車戦法において重要な役割を果たします。居角や端角に比べて、引き角は敵陣への攻めやすさや、自陣の守りの堅牢性といった点で、それぞれの利点と欠点が存在します。そのため、引き角を採用するかどうかは、戦型の選択や相手の戦法、そして自身の戦術的意図によって決定されます。

引き角戦法：代表的な例

引き角を用いた戦法は数多く存在し、その種類も多岐に渡ります。代表的なものをいくつか挙げると、

矢倉囲い・相矢倉（居飛車）：　居飛車側の囲いとしては代表的な戦法ですが、引き角を用いることで、より柔軟な対応が可能になります。
雁木囲い（対振り飛車）：　特に振り飛車に対して強力な戦法として知られ、引き角は雁木の堅牢性を高める上で重要な役割を果たします。
飯島流引き角戦法：　飯島栄治氏が創案した振り飛車対策として有名で、角道を開けずに駒組みを進める独特の戦法です。後手番だけでなく、先手番でも用いられる点が特徴的です。
山田定跡（端角戦法）：　端角から引き角に移行することで、攻守のバランスを取ることが可能です。

これらの戦法以外にも、居飛車穴熊、左美濃、ミレニアム[[囲い]]、玉頭位取り、5筋位取り左銀型など、多くの持久戦において、角の位置（居角か引き角か）が作戦の重要な要素となります。さらに、嬉野流のように、戦型を問わず引き角を使用できる戦法もあります。

対振り飛車における引き角

対振り飛車においては、引き角は特に重要な意味を持ちます。相手の飛車の動きを制限し、自陣の守りを固める上で有効です。しかし、引き角にすることで、角の効きが悪くなるというデメリットもあります。そのため、引き角を用いる際には、そのメリットとデメリットを慎重に比較検討する必要があります。

例えば、後手四間飛車に対して先手が引き角を選択した場合、▲2四歩と突いて角交換を仕掛け、相手の飛車の動きを制限することが戦術の一つとなります。しかし、その後の相手の対応によって、▲3三角成が有効かどうか、あるいは▲2五歩の方が適切かといった判断が必要になります。相手の戦法や局面に応じて、臨機応変な対応が求められます。

飯島流引き角戦法の詳細

飯島流引き角戦法は、振り飛車対策として開発された戦法で、特に藤井システムに対して有効とされています。最大のポイントは、角道を開けずに駒組みを進める点にあります。後手は△3二銀から△3一角と引き角に構え、△5三角と上がってから囲いを構築します。この戦法は、角道を開けないまま左美濃に囲うことで、振り飛車側の角の睨みを軽減できるという特徴があります。

飯島流の大きな特徴は、先手番でも引き角を使用することです。それまでは対振り飛車の引き角は後手番でのみ見られていましたが、飯島氏は先手番でも引き角を用いることで、新たな局面展開を生み出しました。先手番で引き角を使う場合、▲2六歩△3四歩に▲4八銀と対応するなど、相手の反応に応じて柔軟な対応が求められます。

ドラゴンスペシャル：独自の引き角戦法

『神戸発 珍戦法で行こう』で紹介されたドラゴンスペシャルは、初期手数で▲7八金と金を開き、相手が振り飛車ならば▲6八銀～▲5九銀～▲5八銀と駒組みを進めます。右銀を3九に据え置くことで、低い陣形を維持し、▲2四歩から飛車交換を狙う戦法です。相手が警戒してくる場合は右銀を繰り出して対応できる点が特徴です。

まとめ

引き角は、将棋における重要な戦術的要素の一つです。その使用は、戦型や相手の戦法、そして自身の戦術的意図によって決定されます。様々な戦法が存在し、それぞれの戦法に適した引き角の使い方があるため、将棋の奥深さを知る上で重要な概念と言えるでしょう。それぞれの戦法のメリット・デメリットを理解し、適切な局面で引き角を活用することで、勝利に近づくことができます。

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