木の葉化石園

木の葉化石園：時を超えて語る古代湖の記憶

栃木県那須塩原市にひっそりと佇む木の葉化石園は、1905年（明治38年）に開園した歴史ある民間の化石博物館です。この地は、約30万年前の新生代第四紀に存在した塩原化石湖の湖底であり、その地層から産出する植物化石、通称「木の葉石」を展示しています。

木の葉石とは

木の葉石とは、塩原化石湖の湖盆に堆積した泥岩層から発見される植物の化石です。この湖は、東西約6km、南北約2kmの広がりを持ち、高原山の火山灰や溶岩流が堆積して形成されました。木の葉石の研究は、1888年（明治21年）にスウェーデンの地質学者アルフレッド・ナトホルストによって初めて行われ、ブナやカエデなど15種類の植物が報告されました。その後、遠藤誠道による詳細な研究（1931年～1940年）で115種、さらに1940年には小泉源一によって14種が新たに同定され、その多様性が明らかになりました。

発見された植物化石の多くは双子葉植物で、カバノキ属、シデ、シイ、カエデなどが多く見られます。中でもイヌブナが最も多く、その他にオノオレカンバ、ミズナラ、クリ、そして水草のマツモやフサモなども発見されています。これらの植物の植生から、当時の気候は現在よりも若干寒冷で、中禅寺湖畔や北海道中南部に似ていたと推測されています。また、植物だけでなく、ウグイなどの淡水魚、カエル、トンボ、カメムシ、ハチ、クモなどの化石も出土しており、当時の生態系を垣間見ることができます。特筆すべきはその保存状態の良さで、細かな葉脈やネズミの体毛、肉眼では確認できない花粉や植物プランクトンまで発見されています。

化石を含む泥岩層は、厚さ約15m、幅約20m、奥行き約100mにわたって分布しています。塩原化石湖の湖面は海抜500～600mほどと推定されており、木の葉化石園（海抜558m）は、当時の湖の中心部に位置していたと考えられています。

博物館の魅力

木の葉化石園は、日本博物館協会および全国科学博物館協議会の会員です。入口の橋を渡ると美しい庭園が広がり、その先に展示館と塩原湖成層の露頭があります。展示館では、塩原で採掘された化石約220種のほか、国内外の化石や鉱物約400点を展示しています。これらの展示品の中には、木の葉石との交換で入手したものも含まれており、木の葉石の質の高さが国際的にも認められていたことが伺えます。園内の化石層は下部更新世の塩原層群と呼ばれる地層で、高さ約20m、厚さ3～5cmの層理が重なっています。昭和時代の写真には、地層の頂部に「コノハ石」の大きな文字が設置されていた様子が写っています。

ミュージアムショップでは化石の販売や、原石を割って化石を探す体験もできます。化石の採掘は開園当初から行われていますが、標本は研究者の所属する大学に分散保存され、必ずしも一般公開されているわけではありませんでした。1989年に地質標本館の尾上亨氏が、木の葉化石園に収蔵されている標本と地質標本館に寄贈された標本を整理し、系統的な収蔵・展示が行われるようになりました。現在では、栃木県内の小学生が校外学習で訪れるほか、地学教育の実習支援として、木の葉石の原石が各地の教育機関に販売されています。

周辺情報

木の葉化石園は、塩原温泉郷の古町温泉や門前温泉地区から箒川沿いに上流へ向かった中塩原地区に位置しています。箒川の右岸には、源氏の落人伝説で知られる鍾乳洞「源三窟」があります。

交通アクセス

公共交通機関を利用する場合、野岩鉄道上三依塩原温泉口駅から那須塩原市営バス（ゆ～バス）に乗り、「木の葉化石園入口」停留所で下車します。JR宇都宮線西那須野駅または東北新幹線那須塩原駅からは、JRバス関東で塩原温泉バスターミナルまで行き、そこでゆ～バスに乗り換えるか、箒川沿いの散策路を1.7kmほど歩くこともできます。冬季を除いて、観光トテ馬車で訪れることも可能です。

木の葉化石園は、過去と現在を結びつけ、地球の歴史と生命の進化を教えてくれる貴重な場所です。ぜひ一度、訪れてみてください。

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