森林鉄道

森林鉄道とは

森林鉄道とは、その名の通り森林から産出される木材を運び出すために作られた鉄道のことです。主に山間部に敷設され、急峻な地形に対応するため、線路幅が狭く、カーブの多い線形が特徴です。日本では、明治時代から昭和時代にかけて、木材需要の高まりとともに全国各地に建設されました。

日本の森林鉄道

歴史

日本の森林鉄道は、1909年に開通した津軽森林鉄道を皮切りに、全国各地の林業地帯に広がりました。当時の日本では、富国強兵政策のもと、国産木材の需要が急増しており、効率的な木材輸送手段が求められていました。森林鉄道は、筏による水上輸送に代わる、安全で確実な輸送手段として期待されました。
また、水力発電所の建設に伴い、水上輸送が不可能になる場合の補償として、電力会社が主導で森林鉄道を敷設するケースもありました。

特徴

日本の森林鉄道の多くは、軌間762mmのナローゲージと呼ばれる規格で建設されました。これは、山間部の急峻な地形に対応するため、小型で曲線通過能力の高い車両が必要だったからです。また、多くの路線で、運材だけでなく、沿線の集落住民や飯場への旅客輸送も行われていました。

衰退

1960年代までは、国産材が中心の時代であり、森林鉄道は木材輸送の重要な役割を担っていました。しかし、1970年代に入ると、外国産の木材輸入が増加し、採算性が悪化しました。また、資源の枯渇や、トラックの普及、林道の整備が進んだことで、森林鉄道は急速に廃止されていきました。1975年には、本州最後の木曽森林鉄道が廃線となり、その歴史に幕を閉じました。

現在

現在でも、全国各地に森林鉄道の遺構が残っています。橋や線路跡が道路や遊歩道として再利用されている場所も多く、かつて林業で栄えた地域の歴史を伝える貴重な遺産となっています。

また、一部の地域では、動態保存されている森林鉄道に乗車体験できるなど、観光資源としての活用も進められています。

森林鉄道の規格

森林鉄道は、その規格によって「1級線（森林鉄道）」、「2級線（森林軌道）」、「作業軌道」に分類されます。

1級線（森林鉄道）：比較的規格が高く、本線として機能する路線。
最小曲線半径：30m以上
勾配限度：40‰
軌条：10 - 22kg
道床厚み：100mm
2級線（森林軌道）：1級線よりも規格が低く、支線的な役割を担う路線。
最小曲線半径：10m以上
勾配限度：50‰
軌条：9kg
道床厚み：70mm
作業軌道：仮設的な路線で、伐採作業の進捗に合わせて設置されます。規格は定められていません。

日本国外の森林鉄道

森林鉄道は、日本だけでなく、海外にも存在しました。特に、台湾の阿里山森林鉄路は、日本の森林鉄道と同様の規格で建設され、現在も観光鉄道として運行されています。

主な海外の森林鉄道

阿里山森林鉄路（台湾）
太平山森林鉄路（台湾）
羅東森林鉄路（台湾）
嵐山森林鉄路（台湾）
哈崙森林鉄路（台湾）
葦河森林鉄路（中国）
モルタビッタ森林鉄道（ルーマニア）
シンプルチャタッイ森林鉄道（ルーマニア）

現存する森林鉄道

安房森林軌道（鹿児島県）
京都大学演習林軌道（京都府）

動態保存されている森林鉄道

まむろがわ温泉 梅里苑（山形県）
丸瀬布森林公園いこいの森（北海道）
松原スポーツ公園（長野県）
赤沢自然休養林（長野県）
梨元ていしゃば（長野県）
丸山公園（高知県）

主な廃止された森林鉄道

北海道

羽幌森林鉄道
温根湯森林鉄道
置戸森林鉄道
足寄森林鉄道
斗満森林鉄道
淕別森林鉄道
津別森林鉄道
武利意森林鉄道
定山渓森林鉄道
芦別森林鉄道
古丹別森林鉄道
幾春別森林鉄道
主夕張森林鉄道・下夕張森林鉄道
王子軽便鉄道（王子製紙所有）

青森県

津軽森林鉄道
川内森林鉄道
大畑森林鉄道

岩手県

水沢森林鉄道

秋田県

長木沢森林鉄道
鷹巣森林鉄道
杉沢森林鉄道
仁別森林鉄道
森吉森林鉄道
玉川森林鉄道

宮城県

定義森林鉄道
新川森林鉄道

福島県

浪江森林鉄道

群馬県

根利森林鉄道

埼玉県

武州中津川森林鉄道
東京大学演習林軌道
入川森林鉄道

神奈川県

世附森林鉄道

静岡県

千頭森林鉄道
水窪森林鉄道
気田森林鉄道
熊切森林鉄道

長野県

木曽森林鉄道
浦森林鉄道
黒河内森林鉄道
遠山森林鉄道
阿寺軽便鉄道

愛知県

設楽森林鉄道
田峯森林鉄道
田口森林鉄道
田口鉄道

岐阜県

付知森林鉄道
双六・金木戸森林鉄道
湯舟沢森林鉄道（岐阜県・長野県）
恵那山森林軌道
坂川鉄道
七宗森林鉄道
小坂森林鉄道

三重県

大杉谷森林鉄道

和歌山県

高野山森林鉄道
土場連絡用軌道

兵庫県

波賀森林鉄道

高知県

魚梁瀬森林鉄道

熊本県

内大臣森林鉄道

宮崎県

綾森林鉄道
巣之浦森林鉄道

森林鉄道の事故

1951年8月29日には、北海道で木材運搬列車が脱線し、多数の死傷者を出す事故が発生しました。これは、森林鉄道の安全管理における課題を浮き彫りにする出来事でした。

関連事項

森林鉄道に関連する事項として、以下のようなものが挙げられます。

車両メーカー：雨宮製作所、協三工業、酒井重工業、加藤製作所、富士重工業など
木馬道：森林鉄道以前の木材運搬に使われた木製の道
軽便鉄道：森林鉄道と同様の規格で、主に旅客輸送に使われた鉄道
登山鉄道、山岳鉄道、鉱山鉄道：森林鉄道と並行して建設された、それぞれの目的を持った鉄道
簡易軌道：森林鉄道よりも簡易な構造で、短距離の輸送に使われた軌道

まとめ

森林鉄道は、日本の林業発展に大きく貢献した産業遺産です。その歴史と遺構は、今も私たちの生活と文化に深く結びついています。森林鉄道の歴史を振り返り、その価値を再認識することで、地域振興にも繋がると考えられます。

もう一度検索