雪村

雪村周継：戦国時代を駆け抜けた孤高の画僧

雪村（せっそん、1492年？ - 1589年頃）は、室町時代後期から戦国時代にかけて活躍した画僧であり、水墨画家として名を馳せました。雪村周継とも呼ばれ、如圭、鶴船老人といった別号も持っています。佐竹氏の一族に生まれながらも、武家の道を継がずに禅僧となり、東国各地を遍歴しながら、後北条氏や蘆名氏など戦国大名の庇護を受けました。周文や雪舟の画風に影響を受けつつも、独自の特色を発揮し、山水画、花鳥画、人物画など幅広い分野で才能を発揮しました。

生涯

雪村は常陸国部垂（現在の茨城県常陸大宮市）で佐竹氏の一族の長男として生まれました。近くの下村田には、雪村が筆を洗ったと伝えられる池が残っています。本来であれば家を継ぐ立場でしたが、父が別の妻の子を跡継ぎとしたため、幼くして夢窓疎石が開山した正宗寺で修行を始めました。

雪村周継の「周」の文字は夢窓派の通字であり、雪村も同系統の僧侶の下で禅僧としての修行を積んだと考えられています。正宗寺は佐竹氏の菩提寺であり、絵画をはじめとする多くの寺宝を所蔵しており、これらの作品は雪村の画風に影響を与えたと言われています。地元の大宮町の町史では、雪村が部垂の領主である宇留野氏の養子となった宇留野存虎（佐竹義俊の子）の長男であるという説も唱えられていますが、雪村の出自を示す史料が少ないため、現時点では推測の域を出ていません。しかし、天文15年（1546年）に佐竹寺の再建を記念して佐竹一族が寄せた奉加帳の中に「源周継」の名前が記されており、この源周継が雪村本人である可能性が高いとされています。そして、その奉加帳が作成された5月に、雪村は会津へ旅立ったと伝えられています。

50歳半ば頃から、雪村は関東各地を放浪しました。『丹青若木集』によると、天文15年（1546年）には会津で蘆名盛氏に「画軸巻舒法」を伝授したとされています。これは絵画の鑑賞法を意味すると推測されています。天文19年（1550年）には相模国を訪れ、早雲寺で開山である以天宗清の頂相（肖像画）を描きました。また、後北条氏の城下町である小田原や鎌倉も訪れ、多くの名品に触れ、他の画僧と交流したようです。雪村の作品である『叭叭鳥図』には、鎌倉円覚寺の四印道人（景初周随）が記した天文乙卯秋九月（1555年9月）の画讃が残っています。その後、常陸の鹿島神宮に立ち寄って馬の絵を奉納し、会津を再訪しました。『呂洞賓図』や『花鳥図屏風』などはこの時期の作品と考えられています。

60歳半ば以降は奥州を中心に活動し、晩年の十数年間は三春田村氏の庇護のもと、現在の福島県郡山市西田町にある庵に住んだとされています。三春と会津を行き来した時期もあったとみられ、三春では当初は田村氏菩提寺の福聚寺で暮らしていた時期もあったと伝えられています。雪村の生涯には不明な点が多く、生没年もはっきりしていませんが、80歳代まで絵師として現役であったことが判明しています。『潭底月図』には「行年八十歳継雪村之図」、『瀟湘八景図屏風』には「継雪村老季八十六歳圖之」と記されています。

画風と影響

雪村は、名前からもわかるように雪舟を強く意識し尊敬していましたが、画風に大きな影響を受けたわけではありません。むしろ、関東の水墨画の中で極めて独自性の高い画風を確立しました。江戸時代の尾形光琳は、雪村の自由で伸びやかな筆致や作品全体に溢れるユーモアを特に好み、深く敬愛し私淑しました。光琳は雪村の模写を幾つも試みており、また雪村が使っていたといわれる石印（重要文化財、京都国立博物館蔵）を入手しています。光琳の晩年の代表作『紅白梅図屏風』と雪村画『欠伸布袋・紅白梅図』（三幅対、茨城県立歴史館蔵）を比べると、中央に描かれているのが水流と布袋の違いこそあれ、全体の構図や梅の枝ぶりなどが驚くほどよく似ています。

雪村が天文11年（1542年）に著したとされる画論『説門弟資云』は偽書とみなす説が有力ですが、仮託されるほど雪村が江戸時代の画家たちに尊崇されていた証左であるとも言えます。明治時代以降は、橋本雅邦や狩野芳崖らに影響を与え、岡倉覚三（天心）も雪村を高く評価しました。しかし、一般的には評価が低い時期が続き、代表作品の多くはアメリカ合衆国へ流出してしまいました。1974年に東京国立博物館で展覧会が催されるなど、近年は再評価の機運が高まり、様々な画集で紹介され、日本美術史上での価値が確立しました。現在確認されている作品は150点から200点近くに及びます。

代表作

風濤図（野村美術館）
雪村自画像（大和文華館）
花鳥図屏風（大和文華館）
呂洞賓図（大和文華館）
松鷹図（東京国立博物館）
夏冬山水図（京都国立博物館）
叭々鳥図（文化庁保管）
竹林七賢図屏風（畠山記念館）
鷹山水図屏風（東京国立博物館）
四季山水図（九州国立博物館、郡山市立美術館、シカゴ美術館）
龍虎図屏風（クリーヴランド美術館）
花鳥図屏風（ミネアポリス美術館）
楼閣山水図（バークコレクション）
金山寺図屏風（笠間稲荷美物館）
* 瀟湘八景図（個人蔵）

雪村の作品は、その奔放な筆致とユーモラスな表現によって、見る者を魅了し続けています。戦国時代の激動の中で独自の画風を確立した雪村の足跡は、今もなお多くの人々に感銘を与えています。

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