さくら音頭

さくら音頭：昭和初期を彩った歌と映画の競作

『さくら音頭』は、1934年（昭和9年）に複数のレコード会社が競作した日本の流行歌です。さらに、この楽曲を主題歌として、複数の映画会社がそれぞれ映画を製作・公開するという、当時としては珍しいメディアミックス展開が行われました。

レコード会社による競作

1934年の2月から5月にかけて、ビクター、テイチク、コロムビア、ポリドールの4社が、それぞれ『さくら音頭』を発売しました。しかし、これらの楽曲はすべてが同じものではなく、各レコード会社が独自の作詞家・作曲家を起用し、異なる楽曲として制作されました。

ビクターレコード：作詞 佐伯孝夫、作曲 中山晋平
コロムビアレコード：作詞 伊庭孝、作曲 佐々紅華
ポリドールレコード：作詞 サトウハチロー、作曲 山田栄一
テイチクレコード：作詞 穂積久、作曲 片岡志行

各レコード会社は、自社の人気歌手を起用して『さくら音頭』を吹き込みました。

ビクターレコード：小唄勝太郎、三島一声、徳山璉、小林千代子
コロムビアレコード：赤坂小梅、柳橋歌丸、柳橋富勇
ポリドールレコード：東海林太郎、浅草〆香、新橋喜代三
テイチクレコード：喜代治（新橋喜代三）、一松、藤村一郎（楠木繁夫）

映画会社による競作

レコードの発売と並行して、映画界でも『さくら音頭』を題材とした映画が製作されました。ピー・シー・エル映画製作所（現在の東宝スタジオ）、日活太秦撮影所、新興キネマ、大都映画、松竹蒲田撮影所の5社が競作し、1934年の3月から4月にかけて、各社の作品が封切られました。

P.C.L.映画製作所『さくら音頭 涙の母』：監督・原作・脚本 木村荘十二、主演 英百合子
日活太秦撮影所『さくら音頭』：監督 渡辺邦男・マキノ正博、主演 五月潤子
新興キネマ『さくら音頭』：監督 清涼卓明、原作・脚本 竹井諒、主演 中野かほる
大都映画『さくら音頭』：監督 根岸東一郎、原作 河合徳三郎、主演 琴糸路
* 松竹蒲田撮影所『さくら音頭』：監督 五所平之助、原作・脚本 伏見晁、主演 坂東好太郎

P.C.L.版、日活版、松竹版はトーキー映画として製作されましたが、新興版と大都版はサイレント映画でした。

戦後のリメイク

第二次世界大戦後、1947年（昭和22年）には、渡辺邦男監督が自らの監督作品をセルフリメイクし、長谷川一夫を主演に迎えて『さくら音頭 今日は踊って』を製作・公開しました。この作品は、新東宝映画製作所（のちの新東宝）が製作し、東宝が配給しました。

『さくら音頭』は、昭和初期の日本において、歌と映画という異なるメディアが連携し、一大ブームを巻き起こした現象として、その名を歴史に刻んでいます。

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